第27話[開業]
王様との値段交渉の甲斐があってか借金は大幅に減らせたのだが、借金全てを返済するには程遠いほどの額。
地道にクエストで稼ごうにも酒場にはクエストの依頼すら無い。
魔女の呪いのせいで、国も国民もお金に余裕が無いらしい。
これからは牢屋を宿泊施設に利用し稼ぐつもりでいるらしいけど、セツコが二つの牢屋の鉄格子を壊してしまったから使えない。
見栄えは悪いし、旅人も不安がるだろう。
メンテナンスの為、あの二つは一時的に鉄格子を外しています何て嘘も吐けないだろうしな。
仕方が無いので、俺達は外にテントを張り生活する事に……。
「タッくん駄目だよ〜」
寝相の悪いセツコに男のシンボルを蹴られ目覚める俺。
痛みと鳥肌と赤い斑点が出て痒みと戦いながら朝を迎える。
昨日は川の字で寝て、セツコは上で寝てもらっていたが、真ん中に寝ている俺の顔めがけ踵を落としてきて、俺は口から血を吐き出しながら目覚めてしまった。
今日は下で寝て貰ったが金玉めがけ蹴りを入れてくるとは思わなかったよ。
「そうだ、今日の夜はルリ姉とサナ、セツコに川の字になって寝てもらおう」
これなら俺は痛みと痒みで目覚め無くても済む。
そう思っていたのだが、セツコは何故か拳を突き上げてきて、その拳が俺の股間に直撃する。
そして翌日、下なら安全かと思ったが、俺のお腹にセツコの踵が降ってきた。
そして更にまた翌日、最後の手段だと思い外で寝るも、寒くて全然眠れない。
「もう嫌だ」
「宿屋に泊まりたい」
「ふむ、困りましたね」
「私にお金があれば差し上げたんですが、あいにく私は無一文」
えっ、サナって街で荒稼ぎしたんじゃ……。
詳しく話しを聞くと、サナは此処に来る途中に橋で開かれていたバザーで散財したらしい。
「すみません、お力になれなくて」
「いや、別にサナが謝る事は無いよ」
「これは俺達の問題だからさ」
「タッくんさん」
それに仲が良いからと言ってお金をせびるのは良くないしな。
そう思っていると、サナが何かを思い付き王様の所へ走っていった。
そして……。
「此処にお店を建てましょう」
王様から土地を貰い、サナがそう言って錬金術で家に必要な道具を作り始めた。
更にこの国の職人さん達が集まり、無償で手伝ってくれると言う。
「勇者様、王様の事を悪く思わんでくれ」
「あの人は俺達の事を一生懸命に考えてくれてるんです」
「いえ、全然悪く思ってませんよ」
作業をしながら職人さん達とお喋りをする。
値段交渉の際も、王様は頭を悩ませながら考えてくれた。
大臣にこの国の財源の話しを聞きながら一生懸命に。
「本当ならこの国を救ってくれた勇者殿にお金を請求するなど、あってはならん事だが……」
そう話す王様の顔が今でも忘れられない。
そして家作りを始めて五日後、俺達はお店を手に入れた。
「今日から此処で寝泊まりが出来るんだ」
感激のあまり涙が頬を伝う。
俺は十四歳にして、借金とマイホーム兼お店を手に入れたんだ。
第27話 完




