第24話[ありがとう]
シュシュがバリアを貼り、俺は攻撃を避けるべくその場から距離を取った。
がっ……。
「嘘、バリアが破られてない」
「でかしたわよタッティーナ」
「あんたの作戦、上手くいったんじゃない」
喜ぶシュシュを他所に魔女は頭を抱え苦しみ始めた。
「ギギギギギ、勇……者……」
やはり彼女の中で勇者への想いは消えていないのか……。
くそっ、胸が苦しい。
彼女の想いを利用して時間稼ぎをしようなどと考えた自分にも嫌気がする。
「よしっ、今よ」
「愛の言葉を囁いて、完全に動きを止めちゃいましょう」
そう言って拳を前に突き出すシュシュだが、俺は気乗りしないでいた。
「あの、出来ればこのまま時間稼ぎできないですかね?」
「はあ?」
「何言ってんのよ」
「あんた状況を理解して言ってんの?」
「うん、それでも彼女の想いを踏み躙るのはちょっと……」
俺の言葉を聞いたシュシュが大きな溜め息を吐いた。
「まあ、いいわ」
「私も妖精の端くれだからね、人の恋心を踏み躙る事はしたくないし、何方と言えば応援する立場だからね」
何だろう、初対面の時にルリ姉にストーカー女を食べていいって聞いていたのを見たせいか、素直に恋を応援しているとは思えない。
寧ろ、餌を増やす的な……。
「馬鹿、ボーっとしてんじゃ無いわよ」
再びシュシュがバリアを貼ってくれて、魔女の攻撃を防いでくれる。
「フフン、余裕ね」
「これなら何時間でも時間を稼げそうよ」
「だけど、あの錬金術師は本当に信頼できるの?」
横目でサナを見て、そう尋ねて来るシュシュに俺は自信満々に答える。
「サナなら絶対に大丈夫」
「あいつは天才だからな」
「ふぅ〜ん、まっ私はルリちゃん以外の言葉は信じてないけど」
コイツ……。
魔女の連続攻撃でもシュシュのバリアは破られず、このままサナの錬金術が完成するのを待つ筈だったのだが……。
異変は唐突に起きた。
「ガガガガ」
「しつこいわね」
「バリアっと……、ってあれ?」
「バリアが貼れない」
シュシュのバリアがあると油断していた俺はマトモに魔女の攻撃を受けてしまい、吹き飛ばされてしまう。
「大丈夫?」
慌てて駆け寄ってくるシュシュに俺は強がり「平気だ」と答えた。
「セツコのパンチに比べたら臭いオナラ程度のもんだよ」
などと言うが、内心痛くて踠きたかった。
「ごめんなさい、私の力が弱いばかりに……」
頭からの出血で視界が閉ざされる。
今、シュシュがどんな表情をしているのか分からない。
だが声からするに、落ち込んでいるのだろう。
別に落ち込まなくていいのに、シュシュが居てくれたお陰で俺はかなり助かったんだ。
その事をシュシュに伝え、俺は魔女と対峙した。
くそっ、猛暑の中ランニングして汗をかいたかの様に血が垂れてきやがる。
拭っても拭ってもキリがない。
視界が悪いせいか、まともに攻撃を避けられない。
「ちょっと、まだなの」
「早くしないとあの子が死んじゃう」
「死なせませんよ」
「バリバリバリヤーくん」
サナがそう叫ぶと俺の前にバリアが貼られ、魔女の攻撃を防いでいく。
「いやー、お二人の会話を聞いていてバリバリバリヤーくんでも防げるかなと思ったら防げちゃいましたね」
「今のあなたなら簡単に倒せそうですが……」
サナはガスマスクの様な物を取り出して、俺とシュシュに手渡した。
「それじゃあなたを救えませんからね」
俺達がガスマスクを被るのを確認し、サナもガスマスクを被り始めた。
そして試験管の様な物を取り出して、魔女に向かって投げていく。
試験管は割れ、ピンク状のモヤが辺りを包む。
「あなたのその憎しみ、取り除いて差し上げます」
ピンク状のモヤに包まれながら、魔女の前に愛しの勇者が現れた。
「勇……、者……様」
「勇者だけじゃありませんよ」
「カルサちゃん」
「ウシシシ、錬金術で惚れ薬を作りました」
「どうです?」
「勇者殿に試してみますか?」
「もう、カルサちゃんたら」
あの時の幸せな思い出が魔女を包む。
どす黒いオーラは無くなり、独り言の様に思い出に出てきた人物と話す魔女。
彼女の瞳からは涙が流れていた。
「サナ、アレは?」
「タッくんさん、今の彼女は幸せだった頃の思い出の中にいます」
「それと同時に嫌な過去を消していってるんです」
そう言うとサナは二つの植物を俺に見せて来た。
夢見草、この花の匂いを嗅ぎながら眠ると幸せな夢を見られる植物。
忘れ草、この花の毒を浴びれば記憶を失ってしまう危険な植物。
「この二つの花をベースにあの薬を錬金術で作りました」
「今の彼女にはもう人を呪う気持ちも力も無いでしょう」
やがて魔女は俺達の方を向き「ありがとう」と言い残し、彼女は灰になって消えていった。
第24話 完




