第23話[それはノンです]
右手の勇者の紋章が光ったと思えば、俺はサナと魔女の過去について知った。
過去の勇者が俺に彼女を救ってくれと言っているのか。
そんな事を考えながら俺は涙を流すサナを見つめていた。
悔しいと嘆くサナ、彼女は錬金術を馬鹿にされても笑って過ごしてきた。
だからこそ、人間に裏切りられて呪いを振り撒く彼女が許せなかったのだろう。
まあ、八百年も壺の中で暮らせば魔女の様になるのは仕方がないとは思うけど……。
「サナ、しっかりしろ」
「あいつを倒すんだろ」
俺はサナの両肩を掴み叫んだ。
本来なら、このままサナを引きずってでも連れて帰るのが俺の役目だったけど、サナのあの過去を見てしまった後では、そんな事できないじゃないか。
「しかし、私の力では彼女に……」
「そんな事ない」
「人を苦しめる為の魔法より、人を笑顔にする錬金術が負ける訳ないじゃないか」
「俺はサナの錬金術を信じている」
「だから一緒にあいつを倒そう」
「タッくんさん……」
涙を拭い、笑顔を見せるサナ。
良かった、立ち直れたんだ。
そう思っていたのだが……。
「それはノンです」
はっ?
普通ここは「分かりました、共に戦いましょう」だろ。
何だよソレ。
サナの態度に唖然とする俺。
そんな俺を他所にサナが問いかけてくる。
「いいんですか?」
「死ぬかも知れませんよ?」
「死なないよ、言ったろ、俺はサナの錬金術を信じているって」
「だからあいつを……」
「タッくんさん、ノンです」
「あいつを倒すでは無く、救うんです」
サナ……。
そうだな、倒すんでは無く救うか……。
サナらしいな。
「これから彼女を救う為の道具を作ります」
「タッくんさんには時間を稼いで貰いたいのですが、大丈夫ですか?」
「ああ、任せろ」
そう自信満々に答える俺の頬をシュシュが力一杯、抓った。
「な〜にが、ああ任せろっよ」
「此処は全力で逃げる場面でしょ」
「あっ、シュシュさん」
「良かったら、俺に力を貸してくれませんかねぇ?」
ルリ姉の妖精の力を貸りれば百人力だ。
そう思っていたが……。
「はあ?」
「私、ルリちゃんの召喚獣なんですけどー」
「あんたの頼みを聞く義理何て無いんですけどー」
「いや、でもルリ姉の為を思うのなら俺に力を貸す方が……」
「いや、ルリちゃんの為を思うのなら此処はあんたとそこの錬金術師を逃す方が一番でしょ」
くそっ、ぐうの音も出ねぇ。
「意地でも逃げないから」
「はあ?」
「意地でも絶対に逃げないからな」
「はあ、仕方ないわね」
「力を貸してあげるわ」
「でも奴の攻撃を防げる保証は無いわよ」
大丈夫、俺には策があるから。
そう思い、俺は魔女が戦闘態勢に入るのを待った。
眩い光に包まれてから微動だにしない。
出来ればこのまま動かないでいて欲しいけど……。
しばらくして、どす黒い魔力が魔女の体から放たれ、その魔力を感じたシュシュが体を震わせた。
「やばい、無理」
「やっぱり逃げるわよ」
そうシュシュは言ってくるが、今更引く事なんてできない。
俺は魔女に右手の甲を見せ、そして叫んだ。
「俺は勇者だ」
「君を救いに来た」
「はっ?」
「あんた何言ってんの」
「ギギギギギ」
シュシュのゴミを見るような視線と、迫り来る魔女の攻撃。
あれ?
勇者の事を思い出して、何か色々と時間が稼げると思ったんだけど……。
駄目だったかな?
第23話 完




