第22話[魔女の過去]
私は名も無い小さな村で産まれた。
人里離れたこの村で私は魔法について勉強し、魔法使いとして腕を上げていった。
ただ村の人達を守れればいい。
初めはそんな事を考えて勉強をしていた。
勇者様と出会うまでは……。
村に魔王軍が押し寄せた時、私は村を守る為に両親と祖父母、兄や姉と一緒に家族で魔物達と戦っていた。
だけど、魔王軍幹部は強く、私達は劣勢に立たされていた。
そんな時に現れたのが勇者様だった。
彼の鎧は砕け体が傷だらけになっても、彼は戦う事を諦めない。
「もう止めて下さい」
「このままでは、貴方の体が持ちません」
「持たないならそれでもいい」
「誰かを守れないよりは、ずっとマシさ」
人々の笑顔の為に彼は命をかけて戦っている。
そんな彼に私は惹かれ、共に戦った。
村を守り抜いた彼と私は旅に出る事を決意し、私の人生は大きく変わる。
村を守る為に勉強していた魔法も、いつしか目的が変わり、人々を笑顔にする為に私は必死になって魔法について勉強していた。
そして新たに仲間が加わり、遂には念願の魔王討伐にも成功した。
「あの、勇者様」
「コレからはどうなされるのですか」
違う、私が聞きたいのはそんな事じゃない。
「世界をもう一度旅して回るつもりさ」
「魔王がいなくなってもまだ魔物達が生き残っているからね」
そう笑顔を見せる彼を見て、私の胸が苦しくなる。
「いい加減に告白したらどうです?」
「なっ、そんな事できないよ……」
「お似合いだと思うんですがねぇ〜」
仲間にからかわれながら、私も世界を回り人々を助けて行こうと決意する。
もう少し自分に自信を付けたら……、その時は勇者様に告白しよう。
そう思い、人々を助けて回っていたが、私はヒューガレット王国で悪政に苦しむ人々を目の当たりにした。
道を歩けば人の死体。
酷い時にはその人間の死体を野生の動物達が食い漁っているではないか。
私は国王に会い、現状を改善するように求めた。
そして私は、ヒューガレット王国に留まり貧しい人達に食料を与えて回る。
数ヶ月が過ぎ、私は何度国王と会っただろうか。
「まだ良くならない様ですが、どうなっているのです?」
「すみません、まだ財源が足らなくて……」
「ですが、前よりかは暮らしは良くなったと思うのですが……」
「確かに前よりはマシになりました」
「でも、まだ飢えで苦しむ人達がかなり居ます」
「そうは言いますが、これ以上の予算が……」
「なら武器を作るのを止めたらいかがです」
「人を殺す道具を作る必要なんて無いんですから」
「ぐぬぬ……」
この件から数日後、私は国王に呼び出され、壺に封印されてしまった。
初めは壺の中で勇者様が助けに来てくれるのを待った。
だけど数十年の月日が経ち、私は勇者様の助けを待つのも忘れ、ヒューガレット王国の国王を恨む様になる。
そして二百年経てば、恨みの対象がヒューガレット王国の住人全てに代わり。
五百年経って私は完全に自我を失った。
あるのはヒューガレット王国に対しての恨みのみ。
「ギギギギギ」
涎を垂らしながら、呪いの腕を磨く日々。
殺してやる。
恐怖を与え、苦しめながら殺してやる。
どす黒い魔力を身に纏い、私は力を溜めていく。
そして、八百年の月日を得て、私はようやく壺から解放されたのだった。
第22話 完




