第18話[ヒューガレット王国]
雪道を歩く事数時間、俺達はヒューガレット王国にたどり着いていた。
「ねぇ、これ見て」
セツコが人の形をした銅像を見て、ハシャイでいる。
「セッちゃん、あまりハシャイで銅像を壊さないでよ」
そう言っているのに、セツコの奴はベタベタと銅像を触り始めた。
本当に大丈夫か?
セツコなら「あっ、ちょっと力入れただけで壊れちゃった」とか言って壊しそうな気がするけど……。
そう思っていると、ルリ姉が辺りを見回して俺に話しかけて来た。
「ねぇ、周りがちょっと可笑しいけど、これ触っちゃ駄目な奴なんじゃ無い?」
ああ、俺達を見て何やらヒソヒソと喋っているし、何より視線が何だか冷たい気がする。
「セッちゃん、もう行こう」
そうセツコに声をかけた途端、俺達は兵士に囲まれた。
「しし知らなかったんです」
「触っちゃ駄目だ何て知らなかったんです」
そう必死になって弁明しているのに、兵士達は剣を下ろしてくれない。
くそぅ、触っちゃ駄目なら敷居位作ってくれよ。
分からないじゃん。
「タッくん、どうする?」
どうするって、何?
まさか戦うつもりなの?
「タッティーナ、お姉ちゃんはいつでも大丈夫よ」
いや、駄目駄目。
無闇矢鱈と戦う何て絶対に駄目。
俺は二人に注意して、兵士達に勇者のアザを見せて、俺が勇者なのを打ち明けた。
すると、一人の兵士が丁寧に話しを聞いてくれて、そのまま両手を縛られて牢屋に入れられる事に……。
くそぅ、何がこの国の王に会わせるだ。
「一応、用心のために手を縛りますね」って言った時から可笑しいとは思っていたけど、嘘吐く何て最低じゃないか。
兵士だったら正直に生きろよ。
「アハハ、タッくん見て」
「綺麗だよ」
ああ、牢屋の鉄格子ね。
セツコの大好きなダイヤで出来てるもんな。
確かに綺麗だ。
それにベッドもあるし、シャワーやトイレは別で完備している。
ちょっとしたホテルだよ。
でも牢屋なんだよな。
玄関の扉じゃなくて、鉄格子。
シャワー室とトイレ以外は外から丸見えなんだよな。
「ハァ、銅像を触った位で死刑になったりしないよな?」
そう一人嘆いていると、セツコがとんでもない事をしでかした。
「あっ、壊れちゃった」
はっ?
壊れたってダイヤの鉄格子を壊したの?
「まあ、いいか」
「このまま脱獄しちゃおう」
いや、何言ってんの?
このまま脱獄したら更に罪状が増えちゃうじゃん。
その事をセツコに伝えると……。
「大丈夫、セッちゃんが全部やっつけるよ」
いや、そんな事を言っているんじゃないの。
俺は犯罪者になりたくないんだよ。
俺とセツコがそんな言い争いをしていると、隣から笑い声が聞こえて来た。
その笑い声を聞いて、俺達は固まる。
「いや〜、お隣さんは随分と賑やかですね」
「何だか昔の友人を思い出しますよ」
嘘だろオイ。
まさかそんな……。
「サナちゃん」
ルリ姉はそう叫ぶと、セツコが壊した鉄格子の隙間から牢屋を抜け出して、隣の牢に向かって行った。
セツコも勢い良く残りの鉄格子を砕くと、走って隣へと向かう。
「おや、コレは皆さんお揃いで……」
「ハハッ、夢でも見ているのでしょうか?」
夢じゃない。
現実だよ。
「それにしても皆さん、牢屋に入れられる何て何か悪い事でもしたんですか?」
そう言ってニタリと笑うサナに、俺達は事情を説明した。
すると……。
「成る程、あの銅像を触ったから……」
「ふむ、実はですね……」
そう言うとサナは自分が何故、牢屋に入っているのかを説明してくれた。
この国にたどり着いたサナは、城下町にある銅像に目をつけたらしい。
余りに精巧に作られた銅像を見て、サナは錬金術で作られた物では?と疑い、一人銅像を調べていたとか。
そして気付くと兵士に囲まれ、牢屋に入れられたとサナは語り、最後に恐ろしい事を口にした。
「あの銅像から生体反応が出ましてね」
「恐らく、あの銅像は生きた人間で作られてます」
生きた人間で……。
て事はこの国ってヤバいんじゃ……。
セツコはサナの牢屋の鉄格子を全て壊し、俺達はサナと共に国王の所へと向かった。
「タッくん、兵士が来たらやっつけていいの?」
「ああ、遠慮なくやっちゃって」
生きた人間を銅像にする何て酷すぎる。
向かって来る兵士達を薙ぎ倒し、俺達はヒューガレット王国の国王の前に立った。
第18話 完




