第12話[食べ放題]
野宿生活十日目、俺達は遂に新しい街を見つけた。
お腹を空かせたセツコが早くご飯を食べに行こうと言うが、俺達は十日間、お風呂に入っていない。
ルリ姉も口には出さないが、早くお風呂に入りたいに違いない。
俺達の前では明るく振る舞ってはいるが、野宿生活五日目辺りから、影で自分の体臭を匂い溜め息を吐いていた事を俺は知っている。
そのせいか、俺が近寄るとルリ姉は数歩下がって俺との距離をとる。
一応、川などで汗を洗い流したりした事もあったが、やはり洗剤が無いと匂いはしっかりと落とせない。
おまけに水は冷たいしな。
こうして俺達は宿を取り、お風呂に入って身も心も綺麗にした。
「お客様、洗濯物はそこの機械にお入れ下さい」
宿屋の店主に言われ、俺達は洗濯物を機械に入れた。
するとどうだろうか、五分後には洗濯が終わっているではないか。
正直、洗濯を毎日やっていた訳では無いので、仕上がりが前の世界と比べ、何方が優れているのかは分からないが、五分で洗濯が終わるのは本当に凄いと思った。
前の世界じゃ、洗濯には三十分位はかかったからな。
まあ、香りは前の世界の方がいいかも……。
それにしても、異世界に洗濯機……。
化学が発達しているのなら話しは別だが、この世界では魔法が発達しているからな。
この世界の母さんも、魔法で洗濯などをしていた。
「タッくん、早くご飯行こうよ」
「えっ、ああ」
セツコに急かされ宿屋を出ようとする俺を、ルリ姉が抱きしめて来た。
「ああ、久しぶりのタッティーナだわ」
やっぱり体臭を気にして、ずっと我慢していたんだね。
「二人共、早くご飯」
俺とルリ姉はセツコに謝り、何処か良い店はないかと街を探索した。
セツコにも我慢をさせていたしな。
肉が無くなり、俺達は野草を探して、ずっとそれらを食べてきた。
出来れば美味しい物を食べさせてあげたい。
そんな事を考えていたが、俺はあるお店の前で立ち止まってしまう。
肉まん食べ放題。
俺の目に入る食べ放題の文字。
まだ探索して余り時間は経っていないが、俺は食べ放題の文字に魅了されていた。
まだ他にも食べ放題のお店はあるかも知れない。
肉まんよりも良い食べ物があるかも知れない。
だが、今は空腹状態で他のお店を探し回るよりも、このお店で肉まんを思いっきり食べたい。
そう思ってしまった。
「食べ放題って何?」
「死ぬまで食べ続けていいの?」
「いや、時間制限はあるはずだよ」
でなきゃ、店が潰れちゃう。
つか、セッちゃんは死ぬまで、このお店に住み着く気なの?
「成る程、時間内なら幾らでも肉まんが食べられるって事ね」
「でも料理を作るにも時間は掛かるわ」
「ハッ、魔法を使って一瞬で作るのかしら?」
いやルリ姉、流石にそれはちょっと無理があるんじゃ……。
恐らく多少は作り置きをしているに違いない。
「取り敢えず、中に入ろうか」
店内に入り、店員さんに席へ案内される。
そして目の前に、何故かボタンが……。
「それでは三十分、肉まん食べ放題で銅貨三枚頂きます」
お金を支払い、店員さんに言われた通り目の前のボタンを押してみる。
すると机の一部が上下に回転してホカホカの肉まんが現れた。
「すごい、どんな魔法かしら?」
そう言って肉まんを観察するルリ姉。
俺も魔法を疑いそうな仕掛けに驚きながらも、目の前の肉まんを頬張った。
そして食べ進めていき、六つ目の肉まんを食べ終えてギブアップした。
まだ、時間は大分残っている。
ルリ姉何かは三つでギブアップしたらしい。
そしてセツコは八つ目に到達していた。
「美味しくて幾らでも食べられちゃう」
そう言っていたセツコも、十五個目で「何か飽きて来た」と言い、食べるのをやめた。
お腹も膨れた所で色んなお店を見て回るが、この街は他の国や街と比べ、かなり発展している。
「サナが見たら驚くだろうな」
そう呟いた俺に、街のオヤジが話しかけて来た。
「坊主、サナちゃんを知っているのか?」
「おじさんこそ、サナちゃんを知っているの?」
セツコのその言葉を聞いて、オヤジは「おうよ」と言ってサナについて語り始めた。
第12話 完




