第5話[隠し味]
目が覚めると俺は見知らぬベッドの上にいた。
特に縛られている訳も無く、もしかしたらあの人馬鹿なのでは無いかと思いながら、部屋の窓から逃げ出そうと試みたが、甘かった。
俺が窓に手をかけた瞬間、背後から包丁が飛んできたのだ。
「タッティーナ君、目が覚めたの?」
ええ、お陰様でバッチリと……。
「それじゃあ早速、婚姻届にサインしてもらわないと」
「えっと、俺まだ十四ですよ」
「結婚何てまだ早いですよ」
「タッティーナ君、愛に年齢は関係ないんだよ」
いや関係大有りだろ。
そもそも愛し合っている訳でも無いんだし、問題だらけだろ。
「いや、でもお姉ちゃんに許可してもらわないと……」
出来るだけ情けなく、そうすれば引いて振られるかも……。
そう思い頑張ってみたが……。
「優しく言うのも今の内だからね」
「あんまりふざけた事を言っていると、指を切り落として母印を押させるから」
「いやその……、こんな可愛い人がお嫁さんになってくれると思ったら緊張しちゃって……」
「すいません」
「えっ、ううん、いいの」
「私の方こそ、ごめんね」
「てっきり結婚したく無くてゴネているのかと思っちゃった」
「えへへ、可愛いかぁ」
良かった。
適当に褒めたら機嫌を直してくれた。
このまま時間稼ぎできないかな?
「あの、どうして俺なんかと?」
「えっ、それはハンカチを拾ってくれた時、私運命を感じたの」
ハンカチ、拾わなきゃ良かった。
つか人見知りで顔見なかったのに、よく一目惚れ出来たな。
「さてタッティーナ君、早く書いてくれる?」
ヤバい、どうしよう。
そう思った時だった。
盛大に俺のお腹が鳴る。
「あはは、お腹が空いてペンが握れないや」
「あっ、そうだよね」
「朝ご飯まだだったよね」
「ごめんね」
そう言って彼女は俺に大人しく椅子に座る様、指示を出し、台所で料理をし始めた。
これは最大のチャンスなのだが、料理を始めた分、包丁は彼女の手に……。
下手に逃げ出して、また包丁を投げられても困るし、何より次は足を確実に狙って来るだろう。
そうなっては完全に逃げるチャンスを失ってしまう。
取り敢えず、逃走できるか確認する為にトイレに向かおうと席を立つ俺に彼女が話しかけて来た。
そんな彼女にトイレだと言うと……。
「行ってもいいけど、私の前でして貰うよ」
「えっと、大きい方だから臭うかも……」
「私は気にしないよ」
俺が気にするわ。
結局、トイレに行くのを止め、何も案が浮かばないままに料理が運ばれて来た。
茹で上がったパスタとパスタにかかったソースの良い匂い。
性格はアレだが、料理は上手なんだな。
そう思っていると……。
「いけない、隠し味を入れるの忘れてた」
彼女はそう言って、包丁の刃で手の平を切ると、出来上がったパスタに血液をトッピングしていった。
いや、隠す気ないでしょ。
「さあ、召し上がれ」
絶対に食いたくない。
「どうしたの?」
「食べないの?」
「いや、匂いだけでお腹一杯に……」
再び盛大に俺のお腹が鳴る。
「ねぇ、私ね、浮気と嘘吐きが大嫌いなの」
「ほらっ、熱い内に食べな」
「早くしないと血が固まって食べづらくなるかもだよ」
目の前の辛い現状から、俺は過呼吸気味になっていく。
そして、今まで我慢して来た感情が一気に爆発した。
「もう、嫌だよ」
「誰か助けてよ」
「ルリ姉、セッちゃん、誰でもいいから早く助けて」
席を立ち、そう叫ぶ俺に彼女は包丁を持って脅しにかかって来る。
壁に追い詰められ絶対絶命の中でも、チンポジを直したい気持ちに襲われる。
そして……。
「はあ〜あ、情け無い」
「これが魔王を倒す勇者な訳?」
俺の股間から声が聞こえてきた。
えっ、息子が喋った?
いや、声質的に娘かな?
俺も彼女も股間から目が離せないでいる。
そして、パンツの中から小さな妖精が現れた。
第5話 完




