第117話[憧れのテンプレ]
数年の月日を得て、俺は十四歳になっていた。
この間、セツコは英雄として名を上げ、街でセツコを知らない者が居ない程有名になっていた。
「止めて下さい」
「グヘヘ、いいじゃねーかよ」
「ちょっと位、乳触らせろや」
街を歩いていたら、美少女が怖そうなモヒカン野郎に襲われていた。
つか、街中でよくやるよ。
その内、誰かが止めに入るんじゃないか?
ならば、俺がさっさと止めに入らないと。
別に美少女を助けてお付き合いがしたい訳では無い。
ただ、美少女を悪党から救う。
そういった、テンプレ的な事を俺は滅茶苦茶やりたかったのだ。
気怠そうに溜め息を吐き、頭を掻きながらワザとらしく「やれやれ」と呟く。
内心、キターと喜んでいるのを隠しながら、俺はイケメン主人公の様な立ち振る舞いでモヒカン野郎に声をかけた。
「ああん、やんのかゴラァ」
あれ、何か怖い。
落ちつけ俺、大丈夫。
手の甲にあるアザを見せてやれば少しは大人しくなるだろう。
そう思い、俺はワザとらしく勇者の証であるアザを見せてやった。
「なっ、そのアザは……」
「へっ、そうだよ」
「勇者の証であるアザだよ」
「俺が勇者って事は……、分かるだろ?」
モヒカン野郎の顔がどんどん青くなっていく。
いいぞ俺、その調子だ。
「お前、ヘッポコ勇者のタッティーナか?」
「そうだ、ヘッポコ勇者のタッティーナだ」
「って事はだ、俺を殴れば英雄セツコ……、基あのメスゴリラが黙ってないぞ」
(助けて貰っててアレだけど、この人本当にゲスい)
セツコの名前を聞いて、ガタガタと歯を震わし、モヒカン野郎はその場から立ち去って行った。
そんなモヒカン野郎に俺は「もうすんなよ」と決め台詞を言って美少女に視線を向けた。
「助けてくれてありがとう、それじゃ失礼しますね」
何だよ、それだけかよ。
そそくさと帰りやがって、もっと感謝してくれても良かったのに。
そう思っていた時だった。
突如、背中に悪寒が走り、重圧が俺にのしかかる。
「ねぇ、メスゴリラって、セッちゃんの事だよね?」
くっ、振り返らなくても分かる。
何てオーラだ。
セツコの奴、かなり怒っているな。
くそっ、モヒカンの野郎も美少女も俺の背後に居るセツコを見て逃げやがったな。
だったらせめて、俺に教えてから逃げてよ。
「ねぇ、答えてよ」
「はいぃぃ」
くっ、セツコに怒鳴られて変な声が出てしまった。
まあいい、セツコの扱いは慣れている。
俺は振り返り、セツコの目を見つめた。
「あらっ、こんな所に美少女が居る」
当然、そんな事で誤魔化す事は出来ず、俺はセツコに殴られ、空中で八回転半という記録を残してしまった。
第117話 完




