第102話[美味しい木の実]
森に着くとお姫様は駆け回り木に登って木の実を収穫して回る。
危ないと注意しても言うことを聞いてくれない。
ホントにお天馬なお姫様だ。
「キャッ」
お姫様が木から滑り落ち、擦り傷を作る。
それでも彼女は笑い、立ち上がって木の実を取っていく。
ルリ姉に傷を手当てしてもらってはと尋ねるが、彼女は「平気よ」と言って木の実を収穫して行った。
「タッくん、ちょっと手伝って」
セツコに呼ばれ、俺はセツコの所へ駆けつける。
どうやら木の上から木の実を落とすから拾って欲しいみたいだ。
俺は言われた通りに木の実を拾い、籠に木の実を入れていく。
他の人はどうだろうと辺りを見回してみると、ルリ姉は風の魔法を使い木の実を収穫していたり、サナは錬金術で作った道具で木の実を簡単に収穫していってる。
そして姫様は……。
「どうしましょう、木に登れませんわ」
そう呟き、木の上を眺めていた。
そして、何か閃いたのか木を揺らし始め、落ちて来た芋虫に悲鳴を上げ逃げ回っていた。
無理もないか、姫様はゾルドワーク国のお天馬姫と違いお淑やかな女の子だもんな。
そう考えていると、背後から木の棒で頭を叩かれる。
「あんた今、私の事悪く思ったでしょ」
「いえ、全然」
「嘘、あの子を見て私と比べてたでしょ」
そう言ってお姫様は姫様を指差した。
「私と違ってお淑やかな女の子だなとか思ってたでしょ」
何で分かんの?
エスパーかよ。
かなりビックリなんですけど。
「いや、本当にそんな事、思ってませんよ」
「嘘よ、だって私、あの子見て本当に可愛いと思っちゃったもん」
成る程、自分がそう思ったからそう感じたと。
悪くない考察だ。
実際、当たってる訳だし。
仕方ない、此処はお姫様をベタ褒めしてやり過ごすか。
「何を言ってるんですか、ゾルドワーク国のお姫様程、美しい人はいませんよ」
「えっ?」
「一眼見た時から美人オーラが出てましたもの」
「へぇ〜、勇者様はゾルドワーク国のお姫様みたいな方が好みだったのですね」
「もちろん……、えっ?」
ふと振り返ると姫様が立っていた。
目を細めジトーっと見つめてくる姫様に俺は一歩後ろへと後ずさった。
「フフフ、冗談ですよ」
そう言って姫様は俺の耳元で囁く。
「私には分かってますから」
あはは、多分だけど姫様は何も分かってないと思う。
そんな事がありつつ、お昼前になり、俺達は収穫を止め、景色が良い場所で木の実を少し食べる事にする。
「皆んなで食べる木の実は美味しいね」
セツコの言葉に皆んなが笑顔になる。
確かに美味しいな。
それに木の実の果汁が乾いた喉を潤してくれる。
多分、俺はこの木の実の味を忘れる事はないだろう。
皆んなと作った楽しい思い出。
何だかんだでこの世界に転生してきて良かったのかもな。
俺はこの幸せを噛み締め、木の実を頬張った。
第102話 完




