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人外の領域へ

 リーエン、ザイアユーネ、ソアルの三人はその日の内にダクエル要塞を追放された。追放された先は要塞の西側、すなわち〝人外の領域〟である。

 錆のホゾイは朱染めのオルクスの軍を素早く掌握すると、謀殺された兄の仇を取るために仕掛けてきた。リーエン一行はザイアユーネを主軸にこれを突破、夜闇に紛れて移動を続けて今に至る。場所は朝焼けに染まるダクエル要塞が見える岩山だ。

「うん、ちゃんと稼働してるね」

「わたしとリーエンの合作なのですから、当然でしょう?」

「ソアルと三人の、ね」

 眼下には攻撃を受けて大混乱に陥るオークの軍勢が見えた。

 彼らを襲っているのは高速で飛翔し、分裂と集合を繰り返しながら銀槍で攻撃し続ける無数の飛行体だ。ソアルの戦闘法に酷似しているが、動きはやや単調。それでも頭上から狙われ続けるストレスは相当なもので、戦闘の継続は困難だろう。

 錆のホゾイは愚かな将ではない。即時の排除が困難と見るや、軍勢をまとめて物資を放棄、負傷者を庇いながら引き上げていった。飛行体は深追いせず、要塞の上空へと戻っていく。一帯へ睨みを利かせるように輪を描いて旋回している。

 ソアルが加入してから考えていた戦術だった。

 自律迎撃飛翔体〝オートノゥマス〟がその名前だ。

 予め指示した行動規範と判断基準に則って、一定範囲に接近した敵を自動で迎撃するシステム。最大のメリットは指示を出す必要がないという点である。

 案を出したのはリーエン、本体の製作および飛翔と攻撃のパターン入力はソアル、行動規範と判断基準の設定はザイアユーネが担当した。設定内容を更新したい時は新たな指示を入力した銀槍を飛ばしてやればいいし、燃料となる魔力の補充は魔法が扱える人間であれば誰でも可能な汎用性の高さが特徴だ。

 本来、バルシドと同盟を結ぶに当たっての交渉材料、切り札として用意したものだ。バルシド陣営が欲する、支配地を維持するための戦力を提供することで有利な条件を引き出す予定でいた。だがソアルがオルクスを殺害したことで前提が変わった。

 将来的にはともかく、短期的にはオークと同盟を結べなくなったため、バルシド陣営が〝王国〟から独立しても急激に勢力を伸ばすのは困難になった。王都に伝わるのは承知でオルクスを要塞内に入れたので、独立を先延ばしにするのも難しい。

 客観的に見て、追いこまれたのはリーエンたちではなくバルシドだ。

 追放を言い渡したバルシドが部下を通して密かに同盟の継続を打診してきたのも、おそらくそれが理由だ。こちらとしても断る理由はない。

 問題は、同盟の内容だった。

 ザイアユーネの目的を考えれば、現時点でバルシドに潰れてもらうわけにはいかない。そこに付けこまれた結果、要塞と砦の防衛のためほぼ無条件でオートノゥマスを提供せざるを得なくなった。代わりにオークとの同盟が破談となる原因を作った件は不問となる。海千山千の王侯貴族を相手にやり合ってきたデアホルン公を相手に回して、ただの斥候に過ぎないリーエンが引き出せたのはそこまでだった。

 また、客観的に見ればオートノゥマスを運用するバルシド陣営がザイアユーネと同盟を結んだことは明白なのだが、彼は新兵器としてしらばっくれる腹づもりらしい。為政者とはこういうものかと大いに学ばされるリーエンであった。

「ソアル、お姉さんのことだけど……」

 要塞を出てから、ソアルはずっと塞ぎこんでいる。リーエンの護衛はこなすが、それだけだ。待ち構えていたオークを突破する際も、ザイアユーネが一人で薙ぎ払ってしまった。すぐに立ち直るのは無理でも、失意の内に死なれては困る。

 我ながら無神経とは思うが、これ以外のやり方を知らない。

「すぐに取り返すのは無理だ。けど、彼女は生きているし殺されもしない。むしろ大事に扱われるはずだ。助け出す好機は必ずやってくるはず」

 ソアルの視線が動いた。リーエンの顔を見て、また地面へ落ちる。

 自分でも信じていない気休めが、当の本人に届くはずがなかった。

 現状は厳しい。賢きアニヤはオーク族の妻であることを受け入れていた。それどころか、本人にその力があれば夫のオルクスを殺された報復として実の弟であるソアルを殺しさえしただろう。説得でどうこうなるものとは思えない。

「当面の目標は、減った戦力の補充だ。できれば拡充もしたい」

 オークを突破する際、ザイアユーネが主軸となって戦ったのはソアルが気落ちしていたせいもあるが、それ以上に彼の戦力ががた落ちしていたからだ。〝天騎士〟の武器である飛行騎、その本体を構成する自在鉄のほとんどをオートノゥマスの製作に回したため、コートに仕込まれた数百のナイフだけが手持ちの自在鉄だった。

 これでは巨大な翼を作って空を飛ぶのは難しい。

 端的に言って、今のソアルは羽をもがれた鳥に等しい。

 このことはまだ誰にも知られていない。だが露見すれば〝天騎士〟は諸王連合で名を挙げるための格好の獲物となる。有象無象が際限なく襲いかかってくるだろう。中には名の知られていない本物が居て、うっかり殺される可能性もある。

 オートノゥマスは同盟の担保としてバルシドの支配地に貼り付けておく必要がある。取り得る選択はふたつだ。新しい戦い方を身に付けるか、新たな自在鉄を手に入れるか。前者は確実だが時間がかかる。モノになるかどうかも分からない。後者は確保に成功さえすれば確実に元の戦力を取り戻せる。

 そもそも十年前のソアルはあれほど大量の自在鉄を持っていなかった。

 つまりリーエンと別れた後、どこかで手に入れたのだ。

 その場所がどこかは聞き出してある。

「足を踏み入れた者に不老を約束する……呪われた〝淀みの地〟が次の目的地だ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ひつじ姐さん、お帰りなさい! お待ちしておりました。 そして、第三章をありがとうございます! 個人の腕っぷしだけで決着するのはただの幻想でしょ、単純な俺TUEEE妄想のどこが面白いの? …
[良い点] 様々な問題以前にそもそも味方に問題ありという章でしたね。 リーエンの負担が心配にもなりますが、今後の展開が楽しみです。
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