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決闘

 大筋での話はつき、詳細は日を改めて話し合うことになった。人族とオーク、長く敵対してきた相手ではあるが、互いの表情には自然な笑みも見られた。

「個人的な望みなのだが」オルクスが切り出す。「城壁を乗り越えた我が精鋭を討ち取った、全身鎧の騎士。彼と面会できるだろうか。話がしたいのだ」

「オルクス様」

 リーエンたちの間に走った微妙な緊張を読み取ったのだろう。オルクスに寄り添うアニヤがそっと耳打ちすると、オークの戦士は得心の表情となり、破顔した。

「なにも仇討ちをしようという話ではない。優れた武勇を称えたいだけのこと」

 バルシドの問いかけるような視線を受け止め、うなずく。〝天騎士〟ソアルはザイアユーネ陣営の所属だから、リーエンの判断に任せるということだ。

「彼は続きの部屋に控えている。面会は可能だ。それからオルクス。引き換えというわけではないけど、こちらからも提案がある。君さえ差し支えなければザイアユーネと会って欲しいんだ。実は彼女もここに居るというか……私と君のお目当ての騎士は、正確に言えばバルシドではなく彼女の配下なんだ」

「なんと、我らの同盟が成就するきっかけとなった〝真なる魔人〟ザイアユーネ殿と会えるとは。願ってもない話だ。是非とも礼を言わせてもらいたい」

「よかった。じゃあ呼んでくるよ」

 前室に戻り、ザイアユーネとソアルに声をかける。

「オークの将軍が二人に会いたいんだってさ。一緒に来て」

 三人で会議場に戻った、その時だった。

 背後からぞっとするような殺気を浴びて、本能的に振り向く。

「貴様……まさか朱染めのオルクスか」

 顔を隠すため、全身を甲冑で包んだソアルがくぐもった声を発する。物理的な圧を感じるほどの濃密な魔力の気配。甲冑から生える無数の棘が身震いする。

「人族の巷間にも我が名が知れ渡っていようとは光栄だな。勇士よ、名を聞こう」

 オルクスも歴戦の猛者である。自身に向けられた濃密な殺気を感じ取っていないはずもない。悠然と立ち上がり、さりげない動きでアニヤを下がらせる。同時に赤鎧をまとった錆のホゾイが並び立つ。守るのではなく、肩を並べて戦うために。

 騎士が面頬を跳ね上げる。覗いたのは長身に不釣り合いな童顔。自在鉄で形成した手足を操るソアルの本体は、特に分厚い胸甲に収まる程度でしかない。呪いで成長が止まった〝天騎士〟は、興奮で上ずった子供の声で名乗りを上げる。

「我が名は〝天騎士〟ソアル・エンペリオ。騎士ソルド・エンペリオの子にして人族の守護者なり。朱染めのオルクス、我が故郷を滅ぼせしオークの戦士よ。あの時、貴様が生かした子供を忘れたとは言うまい。僕はこの手で剣を取り、再び貴様の前に立つ。復讐の時は来たれり。さあ剣を抜け、貴様に決闘を申しこむ!」

 その場に居た誰もがソアルを注視する。

「ソアル……?」

 アニヤが口に手を当て、呆然とつぶやく。

 エンペリオ。そうか、エンペリオか。

 リーエンは自分の鈍さを呪った。

 気付く機会はいくらでもあった。ソアルのフルネームは知っていたのだから、オルクスがエンペリオ公の名前を出した時にソアルと関連付けて考えるべきだった。それ以前に、もっとソアルと話す時間を持ち、彼の来歴を把握していれば。

 ソアルがエンペリオ公の子なら、アニヤとは生き別れの姉弟になる。かたや人族の守護者たる〝天騎士〟として、かたやオークの妻として再会するとは。

「そうか、あの時の子がこれほどの勇士に育ったか。己が研鑽を誇るがいいエンペリオの子ソアル。貴公は我が前に立つにふさわしき戦士となった。誉れ高きオーク族の戦士として、約束通り貴公との決闘を受けて立とう」

 オルクスもソアルを思い出したらしい。悠揚とした態度は、復讐や敵討ちを挑まれるなど日常に過ぎないと言わんばかり。妻のアニヤの生き別れの弟であることを斟酌する様子はなく、立ち塞がる強敵に喜色を表してさえいた。

「バルシドよ、ふさわしき場と武器を借りたい」

「決闘なら練兵場がよかろう。だがオルクスよ、貴公はこの要塞において私が安全を保証した客人の身分だ。万が一にも貴公が命を落とした場合、同盟はどうなる。先にその点を明確にしてもらわなければ、この要塞での決闘は許可できない」

「我が弟、錆のホゾイは名実ともに軍団の二番手だ。交渉が彼が引き継ぐ」

「承った、兄上」

 ずっと沈黙を貫いていたホゾイが短く応える。同時に一歩だけ退き、いつでもアニヤを庇えるような位置に立つ。

 バルシドもそれで異存はないらしく、いいだろうとうなずいた。

「待ってソアル。オルクスは……」

 君の姉を妻にしているんだぞ、とは続けられなかった。火に油を注ぐのは明白だからだ。助けを求めてザイアユーネを見るが、彼女はあっさり首を横に振る。

「経緯は知りませんが、二人は決闘の約束をしていたのでしょう? 挑まれた決闘から逃げるのはオークの名折れですから、オルクスは退きませんよ。大丈夫です、リーエン。心配しなくても、わたしの見立てでは間違いなくソアルが勝ちます」

 周囲を見渡しても、リーエンを除いて決闘に反対の人間はいないらしい。

 アニヤでさえも、堅く口を引き結んでソアルを見据えている。

「我が妻、賢きアニヤ。もう一度だけ問うぞ」

 オルクスがアニヤを振り返る。

「我は今から、お前に残された最後の血縁、ソアルと決闘する。死ぬ気はもちろん負ける気もないが、もしもの時は全てを忘れて弟の下に戻るがいい」

 だがアニヤは、オルクスの言葉に呆れたようなため息で返した。

「くどいですよ、オルクス様。貴方が死んだなら、わたくしは錆のホゾイの妻となる。それが倣いでございましょう。遺された子も立派な戦士として産み育てて差し上げます。どうか、後顧の憂い無く戦ってくださいまし」

「そうか。それでこそ我が妻。愛しているぞ、アニヤ」

 そんなやり取りに、仇であるオルクスしか眼中になかったソアルが目を剥いていた。とっくに死んだと思っていた姉が生きて、しかもオークに愛と忠誠を誓っているのだから無理もない。怒りよりも困惑が勝ったような調子で問いかける。

「姉さん……? 本当に姉さんなの?」

 ソアルの呼びかけに、しかしアニヤは応えない。

「姉さん、姉さん! そんな、生きていたなんて……待ってて、今すぐ助け出してみせる! 僕は強くなった、守りたいものを守れるようになったんだ!」

 アニヤは無反応。黙したまま、ただソアルを見つめている。傍目にも分かる。その瞳に宿るのは敵意と警戒。愛する者を殺めようとする敵へ向ける視線だ。

 困惑の度合いを深め、言葉を詰まらせるソアル。気まずい空気が場に流れる。

「オルクス……貴様、姉さんに何をした!」

 たまらずオルクスに怒りを向けるソアル。だがオークの返答は素っ気ない。

「言葉を弄する必要は無い。全ては剣が語ろう」

 圧を感じるほどの魔力の高まり。鎧を覆う無数の棘がざわめく。

 まずい。この場で戦闘が始まりかねない。副官のメルハンが油断なくバルシドをかばい、錆のホゾイがアニヤをさらに退かせる。リーエンの側には、いつの間にか寄り添うようにしてザイアユーネがいた。どうするのかと問うような瞳。

「ソアル」

 呼びかける。聞こえていないのか振り返ろうともしない。

「ソアル、聞くんだ!」

 大声を張り上げる。びくりとしたようにソアルがリーエンを見る。

「ここで戦うのは許さない」

「でも――」

「聞け!」

 反駁しようとするソアルに被せる。再びソアルが身体を震わせる。

「交渉の場でオルクスを殺せば、騙し討ちの暗殺になる。冷静になれ、誇りを失うな。君は私の騎士であることを忘れるな。正々堂々、決闘で彼を打ち倒せ」

 今にも襲いかからんとしていたソアルの瞳に、理性の光が戻ってくる。

「……はい。分かりました、リーエン」

 苦渋に満ちた声を絞り出すと、そのまま背を向けて会議場を後にするソアル。曲がりなりにも場を収めてみせたリーエンに全員の視線が向くのを感じた。勢いで私の騎士などと口走ってしまったのを思い出して、居たたまれなくなる。ザイアユーネに至っては何が嬉しいのか満面の笑みだった。

 一行が練兵場に場を移すと、どこから話を聞きつけたのか非番の兵が見物に集まってきた。再び面頬で顔を隠したソアルには歓声が、大食堂に戦利品として飾られていた大剣を借り受けたオルクスには野卑そのものの罵声が浴びせられる。

 自身の死を望む敵に囲まれ、しかしオークの将に動揺はなかった。投げつけられる罵詈雑言を心地よさそうに受け止め、不敵な笑みを浮かべている。

 練兵場を一望できる城塔にバルシドが姿を現すと喧噪も止んだ。賢きアニヤと錆のホゾイは練兵場の端、リーエンやザイアユーネが立つ場所とは逆の位置に居る。ぴんと張り詰めた緊張の中、バルシドが厳かに告げる。

「辺境伯バルシド・デアホルンの名の下、これより決闘を執り行う。汝、〝天騎士〟ソアル・エンペリオよ。己が誇りと命を懸けて戦いに挑むことを承諾するか」

「騎士の名に懸け、奪われたものを取り返すための決闘に挑むと誓う」

 禍々しい鋭棘に覆われた鎧を身に付けたソアルが宣言する。自在鉄を操って戦う彼の手に武器はない。己が身を覆う鉄塊そのものが彼の武装である。

「汝、朱染めのオルクス。己が誇りと命を懸けて戦いに挑むことを承諾するか」

「無論」

 人族の兵では振るうどころか持ち上げるのも難しい大剣を肩に担ぎ、幾多の敵から返り血を浴びたとも知れぬ灰白の鎧を着こんだオークが短く告げた。

「両者の間で交わされた約定に従い、ここに決闘が執り行われる。勝敗はいずれかの死、戦闘継続の不能、降参によって決するものとする。裁定者はこの私、バルシド・デアホルンが務める。我が父祖の名誉にかけて公正を期すと誓おう」

 しわぶきと息遣いが場に満ちる。遠巻きに眺めているだけのリーエンですら、呼吸が浅くなり、胸が苦しくなる。開始の声を、誰もが今か今かと待ち受けている。

「始めよ」

 耳を疑うほど素っ気なく端的な開始の合図。

 瞬きひとつ。ゆえに少なからぬ見物人が巨漢のオークを見失った。

 バルシドが発声した瞬間、オルクスはすでに動いている。筋肉質な巨体と重量級の得物からはおよそ想像しがたい瞬発力で、十歩の距離を詰め終えている。巨大な質量を余すことなく乗せた大剣は、相手に反応すら許さずに叩きこまれた。

 分厚い刀身を持つ大剣は鉄板すら切り裂く刃物であり、堅固な鎧をも打ち砕く鈍器である。あえて反撃を享受し、一撃に全てを懸ける。剣術とも呼べない剣術だが、横槍を警戒する必要の無い一対一の決闘では必殺の剣となる。

 真正面からの不意打ちとでも呼ぶべき一撃を受けたソアルが大きく後退する。

 己が生存本能に従って自在鉄を操り、とっさに前面の防御を厚くしたソアルは辛うじてオルクスの初撃を受け止めていた。だがオークの英雄が放つ渾身の一撃を完全に防ぎきることはいかに天騎士であろうと叶わず、体勢を崩す。並の戦士であれば、衝撃から立ち直る前に追撃を受けて勝負は決まっていただろう。

 即座に追撃へと移ろうとしたオルクスが足を止めたのは、決して油断でも余裕でもない。単に届かないのだ。城壁に囲まれ逃げる場所とてない決闘の場で、二足をもって地を駆けるオークという種族では決して手の届かない領域に敵は逃れていた。

 竜すら退ける〝天騎士〟の領域。すなわち空へ。

 オルクスの詰みだ。最初から見えていた決着と言ってもいい。

 得物は大剣のみ。弓矢はなく、剣を投げたところで竜のブレスすら回避するソアルに当たるはずもない。決闘という形式上、逃げも隠れもできず、安全圏から攻撃され続ければどんな英雄だろうといずれ力尽きるしかない。一撃で勝負を決める以外に彼の勝機はなく、唯一の勝機もすでに手を滑り落ちた。

 我知らず、ほっと息をつく。

 勝てる勝負ではあったが、油断すれば負けもあり得た。オルクスの速度と威力は予想以上だったし、彼我の呼吸とバルシドの合図が食い違えばまともに攻撃を受けて昏倒していた可能性もある。自在鉄の鎧で防御する反応速度と精密な魔法の制御、自ら後方に跳んで威力を殺しつつ空中へ逃れてみせる判断力でソアルが勝った。

 十分に高度を取ったソアルが周囲に銀槍を展開する。統一された意思の下、致命の一撃を何十、何百と重ねられるのが銀槍の強みだ。狭い練兵場では逃れようもない。流血の惨劇を予感して誰もが息を呑み、手に汗を握ったその瞬間。

「降参だ。我の負けを認める」

 大剣を地に突き立て、オルクスが宣言した。

 決闘が始まって、まだ十秒と経っていない。

 あっけない幕切れに白けたような空気が流れ、そして。

「……降参だと?」

 ぞっとするほど暗い声が降った。

「ふざけるな、許されるかそんな真似が!」

 逆上したソアルが叫ぶ。

「始めから降参して逃げる気だったな、この臆病者め!」

 違う。そうではない。オルクスは勝つ気でいた。だからこそ初撃に全てを懸けた。しかし一撃で仕留めることは叶わなかった。一度きりの勝機を逃したのだから素直に負けを認め、降伏した。筋は通っている。明快ですらある。

 だが、それは見物人に過ぎないリーエンの所感でしかない。

 対戦者であるソアルが認められるかは別の話だ。

 故郷を滅ぼし、父母を殺し、姉を手籠めにし、自身を奴隷へと貶めた仇敵。殺しても殺したりない相手への、降って湧いた復讐の機会。それを目の前で取り上げられて冷静でいられる鋼の如き自制心を持つには、ソアルはあまりにも若かった。

 だからきっと、おそらくソアルとオルクスを引き合わせてしまった時点で手遅れで、リーエンがどう動こうとこの結末は避けられなかったのだろう。

 制止は間に合わなかった。

 降参を示して両手を掲げるオルクス、その胸部に銀槍が突き立った。衝撃で息を吐き、踏み留まろうとたたらを踏んだ時点で死に体となる。硬直したオークの将の全身に銀槍が殺到し、突き立てられる。数多の敵の返り血で朱に染めてきた灰白の鎧がオルクス自身の血で紅に染まっていく。断末魔の声すらない、即死だった。

 凄惨な結末に練兵場が静まりかえる。

 兵たちがささやき交わす声が嫌に大きく聞こえる。天騎士が勝ったのか。いやそうではない。相手はすでに降参していた。では降参した相手を殺したのか。惨いことを。ささやき声が動揺を呼び広げ、次第に不穏な気配が漂い始める。

「勝ったよ、姉さん」

 朱染めの砂地に降り立ったソアルが手を伸ばす。

 血に酔った彼に、場の空気を読めというのは酷な話だろう。

「もう姉さんはそんなところに居なくていいんだ、だから戻ってきてよ」

 無邪気ですらある声に、アニヤは凍り付いていた。

「〝人領の盾〟バルシド・デアホルン!」

 戦場で鍛えられた胴間声が練兵場に響き渡る。

 兄が死ぬ瞬間すら一言も発さなかった錆のホゾイだった。

「裁定者たる貴様は見たはずだ。我が兄、朱染めのオルクスが正々堂々と決闘に臨み、降伏した後に惨たらしくも殺される姿を。これは唾棄すべき裏切りである。戦士の矜持を持たぬ卑怯者による謀殺である。賢きアニヤと共に、俺は全てを見届けた」

 城塔で一部始終を見守っていたバルシドは渋面で黙している。

「貴様らは恥知らずにも我が兄にして一族の英雄、朱染めのオルクスの誇りを踏みにじったのだと知れ。オークはこれを決して忘れない。復讐を果たすその時まで我らは決して止まらぬ。裁定者として〝天騎士〟ソアル・エンペリオの首を我らに差し出すべし。さもなくばこの場にいる全員を我が剣の錆としてくれる」

 その声にこめられたのは恨みでも怒りでもない。

 どこまでも誇り高きオークとしてホゾイは謳い上げる。

 バルシドがすっと目を細め、片手を挙げる。はっとしたように兵士たちが剣の柄に手をかけた。直感する。目撃者であるホゾイとアニヤを消す気だ。そんなことになれば今度はソアルがバルシドを殺すだろう。最悪の予想に心拍が早まる。

「ソアル、ザイアユーネ! ホゾイとアニヤを守れ!」

 有無を言わさぬ命令に二人が即座に反応した。

 血に濡れた銀槍がホゾイとアニヤを守るように展開され、ザイアユーネの圧が一段と高まる。二人であればこの場の全員を制圧するのに一分とかからない。

「我らに向けて弓を引くとは、何のつもりか」

 城塔の上から疑念と敵意に満ちた声が投げかけられる。

「そっちこそどういうつもりだ、バルシド。錆のホゾイと賢きアニヤを生かして帰さなければ、失われるのはデアホルン家の誇りだ。それがどれほど取り返しの付かない結果を生むか、分からない貴方ではないだろう」

 不遜な口を利くリーエンに城兵の殺意がこもった視線が向く。

 だが退けない。この機を逃せば事態はもっと悪い方へ転がり落ちる。

 交渉に向かった三人が戻らなければ、要塞の主であるバルシドが謀殺したと見做される。その評判はオークのみならず諸王連合に広まり、彼と交渉を持とうとする勢力はなくなるだろう。孤立したバルシドは四方から攻められて終わりだ。

「状況は悪い。でも、まだ最悪じゃない。オークは誇り高く理性的な種族だ。錆のホゾイはこの場で起きた事実を正しく持ち帰り、賢きアニヤがそれを保証するだろう。これはあくまでオルクスとソアルの決闘だった。そしてソアルは貴方の部下ではない。オークとの交渉の道は決して途絶えたわけじゃないんだ」

「汝の言を認めよう、リーエン。我が兄の死は一族にありのまま伝えられる」

 リーエンの説得にホゾイが言い添える。バルシドの手がゆっくり降ろされた。

「ホゾイと言ったな。私と貴殿の間に遺恨はない。そう考えていいのだな」

「その通りだ。裁定者としての貴殿と為政者としての貴殿は別と弁えよう。此度の不始末には相応の代償を払ってもらうが、我らは全面戦争を望んでいるわけではない」

「……いいだろう。貴殿らの身の安全は引き続き保証する。朱染めのオルクス、誉れあるオークの死に我らは最大限の敬意を払う。望むものがあれば言ってくれ」

 最悪の事態はどうやら避けられたようだ。

「そしてソアル、リーエン、ザイアユーネ。お前たち三人を辺境伯の名において追放する。ダクエル要塞の正門よりただちに退去せよ。反論は許さぬ」

 血の気が引く。復讐に逸るオークの眼前に放り出すとバルシドは言っている。事実上の死刑だ。彼の立場ではそう言うしかないとはいえ、彼との同盟も白紙になるかと思うと泣けてくる。ここまでの苦労はなんだったのか。

 せめて毅然としていようと視線を上げると、バルシドと目が合った。

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