表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/29

奴隷たち

 ソアルが奴隷になったのは十歳の誕生日だった。

 城持ちの騎士であった父が主塔から吊され、自身は縄で繋がれて家畜のように引かれながら、今は灰燼と帰した城下もこれで見納めなのだと思った。

 城を襲ったのはオークと魔人の混成軍であり、魔人の筆頭が父の旗手を務める騎士の一人だった。彼が少年の父母を殺めた下手人であり、姉を妾として城主に収まることを条件に人族を裏切ったのだと教えてくれたのは城を攻めたオークの将だった。

「一度でも寝返りを働いた者は、歯止めを失うものだ」

 引き出されたソアルを前に、人族の言葉を操る彼が言う。

「奴は復讐を恐れて幼い貴様の命を欲したが、それは余りに虫がよい。剣を取る年齢にもならぬまま親を殺され、姉を陵辱された貴様には機会が与えられるべきだ。我らは貴様の命を奪わない。それ以外の全てを奪い、貴様を奴隷とする」

 黙って睨みつける少年の虚勢を、オークの将が笑う。

「見事に復讐を果たして見せろ。強き戦士となって、再び俺の前に立つがいい。人族の子供よ、貴様の仇敵を記憶に刻め。我はオルクス、朱染めのオルクスだ」

 灰白の具足を返り血でまだらに染めたオークはそう名乗ると、ソアルの頭を押さえつけ、布を噛ませる。何をされるのかと身を固くしていると、灼けた鉄が首筋に押しつけられた。じゅっと音を立てて皮膚が引き攣れ、身体が跳ねた。

 声にならない悲鳴を上げ、縛り上げられて転がされたところで記憶が途切れた。次に目覚めた時は奴隷商の馬車だった。発熱で朦朧としている内に奴隷市場まで連れて行かれ、自身が落とされた境遇に呆然としている間に競り落とされていた。

 目隠しをされて連れて行かれた先は、山奥に建つ広大な屋敷だった。用心棒としてオークの戦士やゴブリンの犬使いが雇われていることから〝人外の領域〟であることは間違いない。土地勘もなく、弱った身体では逃亡は難しいだろう。

 そもそも、ここまでの道中で逃亡する気も失せていた。人はこんなにも容易に暴力に屈するのだと、たった数日の奴隷生活で思い知らされてしまった。卑屈で臆病な犬のように振る舞うソアルを、執事だというエルフは嫌悪の目で見た。

「お前の来歴には興味ないが、ノウバディ様の所有物となったからには相応の振る舞いを身に付けてもらう。食事と風呂を済ませて着替えろ。仕事はそれからだ」

 下男として炊事洗濯清掃その他の雑事を命じられて数日が経ち、屋敷の規模に比して使用人が極端に少ないことに気付いた。執事のエルフ、料理人のドワーフ、園丁のノーム。ソアルに用事を言いつけるのはこの三人で、オークの戦士と犬使いのゴブリンはソアルを見つけると必ず咎めるような視線を向けてきた。

 屋敷内で目にする人物はこれで全てだ。主人であるノウバディの姿を目にしたことはなく、種族すら分からない。どうやら屋敷の二階にある渡り廊下で繋がれた奥の本棟にいるらしいが、執事のエルフからは立ち入りを厳しく禁じられていた。

 ソアルの働く手前の棟と、主人ノウバディが住む奥の本棟の間には中庭がある。

 ある日、そこを通りがかった時のことだった。

 中庭の真ん中にある、蔦の絡んだ東屋に人影があった。そこに人が居るのを見かけたのは初めてだったので、どきりとする。人影はくつろいだ様子で、日々忙しく働いている使用人の誰かが隠れて休息を取っているわけでもなさそうだった。

 肩に掛かる黒髪とスレンダーな体型。人族の女性だ。

 手元に目を落としていた彼女がふと視線を上げ、ソアルと目が合った。

 どこか異国を思わせる整った顔立ち。八つ離れた姉よりは今年で十歳になるソアルに歳が近いだろうか。距離があるのに、その視線には圧のようなものがあった。射止められたようにその場から動けずにいると、彼女はふっと表情を緩めた。

 よく姉がそうしていたように、おいでおいでと手招きされる。

 どうするべきか少しだけ迷った。彼女が使用人ではないとすると、主人であるノウバディの関係者かも知れない。誘いを拒めばまずい結果になるだろうか。

 意を決して、一歩を踏み出す。値踏みされるような視線を浴びながら東屋に近付いていくと、女性がにやっと笑う。黙っていると端正で素っ気なく見えるが、そうして表情を崩すとむしろ少年のような印象もあった。不思議な女性だった。

「新入りの人間……人族の男の子ってのは君のことね」

「は、はい。ソアルと言います」

「ソアル君か。ふうん……食べる?」

 彼女は机上の焼き菓子をつまみ上げる。

「よろしいのですか? では、い、いただきます」

 正直に言って、ものすごく魅力的だった。奴隷になって以来、残飯しか口にできないのは城育ちのソアルにとっては苦痛以外の何物でもなかったからだ。

 だが差し出した手に乗せられようとした焼き菓子は、すっと持ち上げられる。

「えっ……むぐっ」

 素早く立ち上がった彼女に一瞬で距離を詰められ、気付けば口に焼き菓子を押しこまれていた。反応できずに目を白黒させているソアルを見て、彼女が笑う。

「あはは、びっくりしたよね。ごめんごめん、人族を見かけるのは珍しいからさ。ついからかいたくなっちゃった。残りも食べていいから、許してくれる?」

「あ、あの、いえ、はい」

 焼き菓子を押しこまれる時、唇に触れた指の感触がまだ残っている。

 物静かでお淑やかな姉とは違うタイプの女性であることは理解できた。

「わたしは時々ここに居るから、またお話ししましょうね」

 彼女はそう言うと、再び少年のように気取らない笑みを見せた。

 そのまま歩み去ろうとする背中に、はっとなって声をかける。

 まだ彼女の名前を教えてもらっていない。

「あの! 貴方のお名前は?」

「ヤナギユカリ。ユカリって呼んでくれる?」

 振り向き、にっと笑ってユカリはそう言った。

 ひらひらと手を振って今度こそ姿を消す彼女を見送ってから、ふとつぶやく。

「ヤナギユカリ……ユカリ」

 今まで耳にしたこともない、異国の響き。

「……変な名前」



 それから、黒髪のお姉さん――ユカリとは時々会って話すようになった。

 ユカリは話題が豊富で、ソアルの知らない国の話を聞かせてくれた。聞いたこともないような不思議な寓話だったり、想像するだけでお腹が空いてくるような異国の料理だったり、どんな動物よりも早く駆ける鉄馬の話だったり。

「ねえ、ソアル君。こういうのは知ってるかしら」

 熱心に紙を折っていたユカリが、それを持ち上げ、ふわりと投げる。

 細く尖った三角形の紙は、滑るように空中を移動して樹に引っかかる。

「紙ヒコーキって言うんだ。おいで、作り方を教えてあげる」

「ヒコーキって何ですか? 鳥の名前……?」

「ううん。鉄で出来た、人や物を運ぶ乗り物だよ。戦ったりもするかな」

「乗り物? そんなの嘘ですよ。それに鉄で出来ていたら羽ばたけない」

「ふうん、羽ばたかないと飛べないの?」

 悪戯っぽく微笑むユカリが、冗談を言っているのだと思った。

「そんなの当たり前でしょ? 鳥もドラゴンも羽ばたいて飛んでるのに」

「でも紙ヒコーキは羽ばたかずに飛べるよ。鳥やドラゴンだって常に羽ばたいてるわけじゃない。ずっと見てれば分かる……いや、ドラゴンは見たことないけどさ」

「……じゃあ、紙じゃない本物のヒコーキも、羽ばたかずに飛ぶの?」

「そう。ヒコーキは風に乗って、空気を切り裂いて飛ぶの。すごく速いんだよ」

 時には現実とは思えないような話もあり、ユカリの作り話ではないかと疑う気持ちもあったが、まるで見てきたかのように語るのでついつい引きこまれてしまう。話すだけではなく聞くのも上手な彼女に促されて、ソアルも色々なことを喋った。

 ユカリはこの屋敷から外へ出してもらえないらしく、ソアルの喋る何でもない日常や、子供でも知っているような常識の話をとても喜んでくれた。怒られてばかりの辛い日々も、彼女と次に会った時に何を話そうかと考えていれば耐えられた。

 そうして幾度も逢瀬を重ねるうちに、気付くこともある。

 いつからか、ユカリが頻繁に生傷を作ってくるようになったのだ。少年のように快活な笑みはいつもの通りだったけど、だからこそ、強がりが混じっているのが明らかだった。彼女はこの屋敷でどういう立場なのだろう、という疑問が湧く。

 疑問を余所に、あるいは傷について問われる前にユカリが尋ねる。

「ソアル君、お城で育ったって言ってたよね。剣や弓の心得はあるの?」

「はい、父上は城主でしたから。ぼくも騎士になりたいと……」

 不意に落城の日のことを思い出す。城内に敵が踏みこんできたら、父上や他の騎士たちのように剣を取って戦おうと思っていたことを。

 お笑い種だ。ソアルに出来たのは、部屋の片隅で震えているだけ。

 シーツを被って、現実から目をそらしているところを捕らえられたのだ。

「……ごめん。思い出したくないことを思い出させたかな」

「いえ……いいんです。ぼくが不甲斐ないだけで」

 貴様には機会が与えられるべきだ、と語った朱染めのオルクスの言葉を思い出す。仇敵への復讐を果たすどころか、奴隷としての身分に甘んじつつある自身に思うところはある。でも、どうすればいいのかが分からなかった。

「ねえ。ソアル君は、強くなりたいって思う?」

 それは、問いかけと言うよりも。

 決意を表明しているように、少年には聞こえた。

「君に剣の心得があるなら……わたしの練習相手になって欲しいの」

 ユカリは訓練用の木剣を差し出し、じっとソアルを見つめる。

 そんな彼女の表情が、誓いを立てる騎士のように凜々しくて、見惚れてしまう。

 どれだけの時間、そうしていただろうか。ユカリの表情にふっと影が差す。

「ソアル君が忙しいのは知ってる。わたしはそれを見て見ぬ振りして、その上で勝手なお願いをしてる。だから、断ってくれても別に気にしたりは……」

「やりましょう、ユカリ。いえ、ぼくの方からお願いします」

 身分は奴隷でも剣で身を立てれば、あるいは復讐を果たせるかも知れない。

 そんな、淡い希望が胸に芽生えていた。

 三日で後悔した。

 ユカリは本気だった。そして容赦がなかった。ソアルが指南役に叩きこまれた剣術をつたない言葉で伝えただけで、彼女はそれなりに形にしてしまう。体格差も活かしてソアルを散々に打ちのめすと、今度は利き手ではない左手での練習や、蹴りや足払いのような体術も織りこんで色々な戦い方を試し始めた。

 そしてソアルが相手にならなくなると、ユカリは屋敷の用心棒であるオークやゴブリンに喧嘩を吹っかけ始めた。警戒を怠ってはいないが、基本的に暇を持て余している彼らはおもしろがって挑戦を受け、そして容赦なく彼女を叩きのめした。

「どうしてユカリは戦えるんですか」

 ある日、整った顔に青アザを作った彼女を見て、問わずにいられなかった。

「痛くないんですか。恐くないんですか。そんなはずないでしょう!」

 なぜか彼女は用心棒たちに逆らっても殺されないようだが、それで打ちのめされる痛みや恐怖が消えるわけもない。女性であるユカリがそこまで強さを欲するからには、よほどの理由があるはずだった。

「なのにどうして! どうして、そこまでできるんですか!」

 ちょっと叩きのめされた程度で復讐を諦めてしまう自分とは違う彼女の存在が、とても眩しく、そして妬ましかった。衝動的に発した言葉は止まらない。

「女子供が大人に勝てるはずないのに、なんでそんな無意味なことを……死んだらどうするんですか! 何の才能もないぼくにはもうユカリしかいないのに、貴方が死んだらぼくは、ぼくは……げほっ、ごほごほっ!」

 咳が止まらず、ついに喋っていられなくなった。

 子供の自分でも分かる。

 執事のエルフがソアルに向ける、酷く冷たい視線。

 彼はソアルを疎ましく思っている。その態度を隠そうともしない。

 食事は少なく不衛生で、石床に藁を引いた寝床は凍えるような冷たさ。仕事で失敗したり無駄口を利こうものなら即座に鞭か拳が飛んでくる。数日前からは咳も止まらず、酷く身体が怠い。だが仕事を休むことは許されない。死ねば楽になれる、いっそ仇敵の手で首をはねられた方がよかったなどという考えが頭をよぎる。

「……君がここにいる理由が分かった気がする」

「げほっ、ごほっ……え?」

 硬い表情でソアルを見つめていたユカリが、不意に背を向ける。

「ユカリ……けほっ、どこ行くの?」

 答えは返ってこなかった。

 そして、この日を境にユカリは中庭へ姿を見せなくなった。

 わけが分からないまま数日を過ごし、ついに発熱で倒れてさらに数日。ようやく起き上がれるようになったその日、屋敷の中は奇妙な沈黙に包まれていた。元から人の少ない静かな屋敷だが、気配すら感じないのは初めてだった。

 不安に駆られて屋敷の中を歩き回っていると、ふと中庭に面した窓の外で何かが動いた気がした。東屋に人影。理由もなくユカリだと直感した。

 急いで中庭に出ると、植物や花の香りに混じって鉄臭さを感じた。足元に目をやると、点々と血が散っている。驚いて東屋に駆け寄ると、果たしてそこにはユカリがいた。頭から血を流す彼女は、ソアルに気付いて悪戯っぽく微笑む。

「……ソアルか。びっくりさせて、ごめん……少し休んだら、元気になるから」

 彼女は椅子に腰掛け、だらりと手を垂らしていた。床には血染めの剣が二振り。酷く疲れた様子で、呼吸が荒い。顔色が悪く、憔悴しているのは明らかだった。

「ユカリ、頭に怪我を……ぼく、包帯を取ってきますから!」

「待って……こっちに来て、座って。本当に、大したことないから」

 懇願するような調子。ユカリがそんなに頼りない声を出すのは初めてで、なぜか気圧されてしまって言う通りにするしかなかった。

「間に合ったみたいで、よかった……君はもう、自由だよ」

「え? それって、どういう……」

 焦げるような臭いが鼻を突き、思わず視線を上げる。主人であるノウバディがいるはずの本棟から黒煙が上がっていた。窓の向こうに火の手が見える。

「火事だ! 誰かに知らせないと!」

 慌てて立ち上がろうとするソアルの手を、ユカリが掴んで引き留める。

「いいよ、もう。みんな燃えちゃえばいい」

 そう口にしたユカリの瞳に、複雑な感情の光が宿っていた。

 どことなく捨て鉢な口調。何かが彼女の中で変わったのだと分かった。

「後のことはエルフの彼に任せてある。ソアルは〝人族の領域〟に向かうんだ。道中、魔法の指南もしてもらうといい。おそらく、君は……魔法使いになっている。ごめん、もっと早く気付いていれば……せめて、得た力を有効に活かして欲しい」

「ユカリ……どうしたんですか? 魔法って何のことですか?」

「その名前で呼ばないで」

「え?」

「ヤナギユカリは死んだ。ここにいるのは……」

 彼女は真上を見上げた。視線の先を遮るものは雲ひとつない。

「勇者のなり損ない。ただの人殺しだよ」

 顔を歪めて、ユカリが笑う。

 身体を曲げて、絞り出すように声を上げて。

 あの少年のような笑みではなく、酷く空虚な嗤いだった。

 彼女が何を思ってそんなことを口にしたのか、ソアルには分からなかった。

「……だったら、ぼくがなります」

 考える前に口にしていた。

「事情は分からないけど、ユカリがぼくのために何かをしてくれたのは分かります。だからぼくが勇者に……ユカリの勇者になって、貴方を守ります」

 ソアルがそう言うと、彼女は目を丸くして。

 おかしそうに、でも楽しそうに笑った。

「ふふっ。あははっ。ソアル、ねえ、君、そんなことを勢いで口にしちゃダメだよ。ああ……ちょっと、ちょっとだけ……それもいいなって思っちゃった。でも……うん、やっぱりダメだ。君は〝人族の領域〟へ行って、人生をやり直すべきだ」

 ユカリがソアルの背後に視線をやる。

 振り向くと、執事のエルフが感情を読ませない無表情で立っていた。

「連れて行って」

「ユカリ……うっ!」

 当て身を食らわされ、意識が飛ぶ。

 黙々と歩くエルフの背中で気付いた時には、彼女の姿はどこにもなかった。

「起きたなら歩け。私はお前を〝人族の領域〟まで連れていき、魔法について最低限の手解きをしてやる。そういう命令だからだ。その後は勝手にしろ」

 彼は一方的に告げると、ソアルを降ろしてさっさと歩き始めた。

「待ってください! ここは? それよりユカリはどうしたんですか?」

 エルフは振り返ると、怒りに顔を歪めてソアルの胸ぐらを掴んだ。

「我が主人ノウバディを殺めたあの女の名は二度と口にするな。遺書にあの女の命令に従えと記されていなければ、我が全霊を以て呪い殺してやったところだ」

 ユカリが彼の主人、ノウバディを殺した。

 ただの人殺し、という彼女が口にした言葉を思い出す。

 事情が飲みこめなかったが、質問が許される雰囲気ではなかった。

 エルフは不機嫌そうなままソアルを突き放し、再び歩き始めた。彼は決して親切ではなかったが、口にした通りソアルに魔法を教え、驚いたことに火を付けるくらいの芸当はすぐできるようになった。もちろん魔法を使うのは生まれて初めてだった。

 不審げな表情をするソアルに、エルフはつまらなそうに言葉を投げる。

「記憶の連続性はあっても、お前は奴隷になる以前とは本質的に異なる存在だ。女に食べ物を与えられただろう。あれがお前を作り替えた。つまり、お前はもう純粋な人族ではない。分かるか、人族が言うところの〝魔人〟となったのだ」

「ぼくが〝魔人〟に……」

 その晩、エルフは珍しく酒に酔い、普段より饒舌だった。

「奴が何を考えてそうしたのかは知らん。ひとつ言えるのは、お前は運がよかったということだ。それだけ急速に身体を作り替えられてなお生きているのだからな。だが代償は決して小さくないだろう。同族からは迫害を受け、ただでさえ短い寿命もより短くなっただろう。同情はしないが、哀れではあるな」

 エルフが酒を呷る。そして、ようやく理解できた。

 やはりユカリはソアルを守ってくれたのだ。

 きっと彼女は知らずにソアルを殺しかけたことに罪の意識を憶えたのだろう。

 だが、ユカリがいなければソアルはとっくの昔に死を選んでいた。

 ユカリは間違いなく、ソアルにとっての勇者だった。

 今度は、ソアルが恩返しをする番だ。


――ユカリ。いつか君の勇者になる。


 後の〝天騎士〟ソアル・エンペリオ。

 絶大な力を振るう人族の守護者が、ここに産声を上げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ