出られるよ、と8歳で断言しちゃうんだからね
「落ち着いて、出る方法は……ある。……ことはあるよ………」
黒龍と呼ばれる災害とも言えるドラゴンの洞窟。
封印の陣で封じ込まれた異空間にあるその洞窟に逃げ場はなかった。
背の高さ程のいくつかの岩陰でブレスを避けながら、ミスリーシアにささやく。
「うそ…ここから出る方法なんて無いわよ」
ミスリーシアは同じ言葉を繰り返した。
3人のハイエルフが数年をかけて築き上げた強固な封印。
普通に考えれば、出ることも、入ることも、よほど高レベルな強者でなければ不可能だろう。
ここにいるのは8歳に成ったばかりの男の子とエルフとはいえまだ16歳の少女である。
ちなみに男の子とは私の事だが。
ドラゴンの足下には足を地面に張り付け行動を抑制する陣が刻まれている。
お蔭で回り込んで攻撃を受けることもなく、二人は岩陰で息を潜めて生きながらえているのだ。
俗に『封印の洞窟』と呼ばれるセイスの山の山腹にある小さめな洞窟。
入り口は厳重に閉ざされ、山自体が立ち入り禁止になっている。
その洞窟の最深部にある『デシサクの封印』。
その封印の中の異空間、本来なら居るはずもない二人、しかも二人っきりである。
ーーーなぜ、こんなことに……いえ、それよりも、私がこの子を守らなければ………どうしよう………
三日前、ミスリーシアは父であるエルフの族長リョージョイと共にセイス山のある辺境の領地の領主の館を訪れた。
年に数度、ミスリーシア達は『デシサクの封印』の状態を確かめるためにこの地を訪れている。
それは、遥か昔から続けられてきたリョージョイ達の部族の使命であった。
もっとも10年程前までは、数年に一度程であった。
しかし、リョージョイは僅かな綻びを感じ、毎年、そして数ヵ月に一度と、徐々にその訪問は頻繁になっていった。
領主の館を訪問した朝、その日は領主の息子の誕生日であった。
訪問が頻繁になり、エルフ達と領主一家はより親しくなっていき、特に幼い領主の息子とミスリーシアはまるで姉弟の様に仲良くなり微笑ましく毎度遊び回っていた。
そのミスリーシアの強い希望によりこの日の訪問となったのだ。
そうして、その夜の誕生日会でそれは決まった…てしまった…。
「封印の確認にボクも連れていってくれませんか?」
唐突なお願い。
僅かな綻びを感じていたとはいえ、もう十年近く全く変化は無かった。
まだまだ大丈夫そうだ…、軽い気の緩み、さらに今回特別に用意された格別な酒に心地よく酔っていたのかもしれない。
「そうよ、ぜひ一緒に行きましょう!ねえ、お父様、良いででしょう…」
さらに久しぶりの再会に機嫌良く少し興奮した娘からの甘えたおねだり…。
リョージョイはかなりうっかりとその提案を飲んでしまった。
普段の彼ならあり得ない判断である。
まるで混乱や催眠の魔法をかけられたかの様な……。