真央、村へ。
森を抜け、平原を進む真央一行は目的地である小さな村へと着実に近付きつつあった。
歩き続けてからダークネスロードの言っていた半日近く時は流れ夕暮れの空の下、真央の表情は曇りに曇った物になっていた。
「あぁ……やっと村に着きそう。本当に長い間歩きっぱなしでもう疲れたぁ……」
先頭を進むダークネスロードは愚痴を漏らす真央に対し、歩みを止めることなく前を向いたままである。
無視というよりかはここに来るまでに真央から何度も愚痴を聞かされていたために同じような返答をし続けても仕方ないという判断であろう。
そんな不満な真央の後方から付き従うヴァンパイアクイーンはどうしたものか思慮しながら駄々をこねる子供をあやすかのように話しかける。
「疑問なのですが…主様でしたら肉体的疲労は感じないと思うのですがどこかお体に不調がおありですの?」
「疲れてないんだけどさぁ……こんなに長いこと歩き続けると元女子高生の私としては精神的につらいというか……早く休みた〜い!」
「目的地もすぐ近くですし、あと少しの辛抱ですわ主様」
もはや遠足で泣き言を言う生徒をなだめる引率の先生のような構図が出来上がってしまっているが、ダークネスロードは目先の村の様子を確認している。
村の入口らしき場所が分かるとダークネスロードは後ろ手に真央とヴァンパイアクイーンに止まるよう合図する。
「雑談は一旦止めてくれ。実際に村に入る前に最終確認だ」
さすがの真央もいよいよ村に入る手前、口を閉じる。
当然ヴァンパイアクイーンは既にダークネスロードの話を聞く態勢が整っており周囲の確認も怠らない。
「まず、我等の人としての設定は放浪しながらあの村に流れ着いた冒険者とその連れという物でかまわないか?」
「うん、大丈夫だよ〜」
「異存ありませんわ」
ダークネスロードの言う放浪する冒険者という設定は敢えての物であった。
この件に関しては村まで歩く途中にも真央とヴァンパイアクイーンは話していた。
「えっと、まだこの世界に関する知識が充分じゃないなら世間に疎い風に装ったほうが都合が良いし怪しまれない可能性が高いから……だっけ?」
「そうだ。確実に怪しまれないとは断言できないがな、現状変に身分を詳細にして齟齬が生まれないようにするにはこれが最適だと考えている」
ヴァンパイアクイーンもこの提案とほぼ同じ内容を考えていて身分をあやふやにしておいたほうが後々動きやすいというのは共通認識であった。
「それでダークネスロード様…」
ヴァンパイアクイーンが何かを言いかけた際にダークネスロードが右手を挙げ静止する。
「ここからはもう先程決めた偽名で呼び合ったほうがよい」
「失礼しましたダークン様。仮に村でトラブルが発生した場合はわたくしの精神スキルで沈静化するという手筈でよろしいですのよね?」
「ああ、なるべく痕跡が残らないように頼む」
ダークネスロードの懸念とも言える不安要素に関してヴァンパイアクイーンは自信に満ち溢れた整然とした表情で答える。
「お任せくださいませ……精神支配においてわたくしには絶対的信頼を置いていただいて構いません」
精神支配のみに限定するならばダークネスロードよりも上であるヴァンパイアクイーンにはそれだけの自負があった。
ダークネスロードもそのことに異論はないため疑う素振りは一切ない。
「次に……主に重要な確認だ」
「え? なになに?」
今まで異常に真剣な顔つきになるダークネスロードに些か真央も構えた様子になる。
「主が絶対的力の持ち主であるために些細なことであるかもしれないが……万が一にでも主に危険が生じるような事態になった場合は武力行使することになることは了承してくれ」
ダークネスロードの言う武力行使とは文字通り主に害する存在は自ら排除すると宣言を行う意味である。
無論、真央の平和的な行動理念は最大限尊重する次第ではあるが僅かな危険が迫る可能性に対してダークネスロードの発言は当然と言えば当然である。
「う、うん……もし危なくなった時はそうしてもらっていいんだけど……その……なるべく殺めるのとかはやめたほうがいいかなぁって」
ダークネスロードの断りに真央は反論するつもりは無かったが、元女子高生の倫理観から過激的な行為は看過できないために消極的な態度になりつつ小声で注意をする。
「ああ、なるべく殺戮行為は避けると約束しよう。最終確認は以上だ、では手筈通り目的地である村に入るぞ」
最終確認を終えた真央一行はいよいよ異世界で暮らす者達がいるであろう村へと足を進めた。
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