9話 視察①
私とサムエル様が婚約されまして、王宮生活が始まりましたのがつい昨日。
「朝ですか」
頭の中がぼーっとします。重りをつけられた感覚なのでしょうか?
ああ、そうですわ。今私の視界にサムエル様がいらっしゃらないから全魂のうち一パーセントしか稼働していませんのね。
「あの扉の向こうがサムエル様のお部屋ね」
私はそそくさと扉の前まで移動し、深呼吸。さらに準備体操。そして徳をつんでフィニッシュ。
「あ、この格好のままははしたないわね」
使用人が控えている部屋に向かってノックをしますと、二人のメイドが現れ私の着替えを手伝ってくださいましたわ。
「……随分とフリルの多いドレスですこと」
着せて頂いたドレスの生地や裾や刺繍をチェックしつつ、フリルを摘まみ上げながら私は呟きました。
しかし、これはとても可愛らしいドレスですね! 私大変気に入りましたわ!
何故かメイドのおふたかたがあたふたし始めましたわ。はて?
「申し訳御座いません!」「すぐに別のドレスを用意致します!」
「え?」
何を仰いますのでしょうか? え? 気に入ったドレスをまた脱がされてしまうのですか?
あれよあれよと着替えは進み、今度はフリルは少ないが、比較的清楚な青と白のドレスに着替えさせられましたわ。
これはこれで可愛い。むしろさっきより好きかも。もしかしてメイドさんたちは一瞬で私の好みを察知?
そう、あなた方は妖精さんでしたのね。
「上出来じゃない」
「ありがとうございます!」「以後気をつけます!」
気を付ける? 知らない言葉かしら? まるで妖精さんが失敗したかのように聞こえるじゃない。
「勘違いする余裕はあるようね下がりなさい」
いい? あなたがたは、成功した後に大成功したのよ?
「は! はい!」「失礼しました!!」
「あ、お名前は?」
「私はシュザンヌです」「私はユルシュルです」
赤い髪の可愛らしい女性がユルシュル。青い髪のクールな印象の彼女がシュザンヌですね。
「今後ともよろしくお願い致します」
「はい!」「はい!」
はい可愛い! 妖精さんたちはは可愛らしい返事をして使用人部屋に戻られましたわ。
さてと、サムエル様のお部屋に行きましょう。今日も可愛がってもらいます!
私はそそくさと扉の前まで移動し、深呼吸。さらに準備体操。そして徳をつんで、太陽に感謝しフィニッシュ。
???
まあいいわ! いざ尋常に勝負!
私はドアをノックしますと、ドアの向こうから神に愛されていていると言っても過言ではないお声が、空を振るわせました。
「起きたか」
「ええ、サムエル様は随分とお早いのですね」
早起きって本当に素敵ですね。一日の時間がより長く感じます。
「まあな。昨日は予定より早く寝てしまったようなものだしな」
あら? 夜更かしのご予定が? それは良くないですね。いえ、深入りする必要はないでしょう。サムエル様が今日も素敵なら何でも良し!
「今日は何をなさるのかしら?」
「ああ、今日は君を構っている余裕がなくてな。視察があるんだ。しばらく王都に帰れないと思っている。三日後出発だが、準備をしていたくてな。まあ、君はそこら辺でゆっくりしていてくれ」
「はぁ……視察ですか」
視察に行かれるのですね。しばらく王都に帰れない?
……はぁ!?
「へえ? ではしばらくこちらを空けている間、私のことは放置なさるのですね」
それはとても寂しいですサムエル様。せめて三日間ずっと抱きしめていてください!
「……そうか。君はその間自由になってしまうんだな」
そうです。そのような自由など不要なのです。私はサムエル様に拘束されていたい。
あら? つまり、私が視察についていけば良いのでは?
「あの」
「そうだ。君が自由なのはつまらない。俺の視察についてこい。拒否させないからな?」
「え? はぁ……ではご一緒させて頂きますね」
「……随分素直だな。まあいい」
はい! ローズちゃんはサムエル様にいつも素直です! あれ? 何故わざわざお言葉に? あ! 愛玩動物につい可愛いと言ってしまうあれですね!
では私も! サムエル様! 好き! 大好き! 愛してる!
あ、そうだ私も視察に行く準備をしませんといけませんね。新婚旅行みたいになってしまうのかしら? いえ、控えめに言って新婚パレードよね? ああ、楽しみですわ。
さささ! 始まります視察旅行! 控えめに言いますと新婚パレード! 一体何の視察? てゆうかそんな三日後の視察に急遽参加できるの? できるよ! だってローズちゃん行動力の塊ですもん!
今回もありがとうございました。