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8話 王宮生活④

 今も私は理解が追い付いていません。


 夜の庭園の散歩を終えた私たちはお互いの部屋に戻ったのですが。


 あれ? 常に視界にいろというお約束は? いえ、確かに初日から同衾などしてしまいましたら私間違いなく爆発します。


 ローズ・カーン・ラプラス。死因は内臓破裂。原因はサムエル様との同衾による血圧の上昇ね。


 妄想で死んでました。いえ、正直サムエル様の婚約者になれたことで、十分心臓が肥大化している気分です。


 そういえば、あの扉の向こうにはいつでも向かっても宜しいのでしたよね?


 おかしいですよね。今までサムエル様がいない生活が当たり前でしたのに、今日一日ご一緒しただけで、いないことに耐えられそうにありません。


 私は扉の前まで足を運び、開くべきかやはりやめておくべきか悩み始めました。


 扉から漏れている明かり。サムエル様はまだ起きていらっしゃるのでしょうか?


 ドキドキしながら扉を見つめています。この扉一枚先に大好きなあの人がいらっしゃるのです。


 行きたい。逢いたい。逢って抱きしめて頂きたい。ローズは欲に満ち溢れた悪い子です。それでも愛してください。


 私がドアノブに手をかけようとすると、突然ドアが叩かれた。


「へ? あ? ど! ふぉうぞ!」


 ふぉうぞ!! って何!? 思いっきり噛んでしまいましたわ。


 ドアノブがガチャリと音を鳴らします。はへ? あ、そうでしたノックされたのでした。嬉しさカウンター作ります? いえ、壊れるためにあるものは不要。


 いざ! 数刻ぶりの再会!


「ローズ、君は何故わざわざ扉の前に来ている」


「え? えと……眠れそうにありませんでしたので、サムエル様を話相手にして差し上げましょうかと思っただけですが?」


 そうです! 私はもっとサムエル様とお話がしたいのです! 私のワガママ、聞いてくださいますか?


「そうか。俺は君の道具か何かか。もうそれでいい。今日一日君と一緒にいて腹を立てるのは疲れた。君はそういう女と割り切ろう。少し邪魔するぞ」


「え? 腹を立てる? え、ああ! こちらにいらっしゃるのですね? ど、どうぞ!」


 腹を立てる……何に? え? 聞き間違いかしら? 聞き間違いよね? 腹を……腹を……腹の方が聞き間違い? では何かを立てたというのですか?


「ローズ、眠れないと言っていたな。家に帰りたくなったのか?」


「私がホームシック? ばかばかしい」


 そんなサムエル様のお隣以外に私の居場所なんて不要ですわ。ここ以上に心地の良い場所などありません。


 実家が恋しい? ばかばかしい。確かに大好きなものはたくさんありましたが、ここより大切な場所なぞあり得ませんわ。


「君が逃げ出さなければそれでいい」


「そうでしょう? 私に変わりなどいませんもの」


 本当に愛されているのですね。やはりさきほどの腹が立ったは言い間違い聞き間違いの類でしょうね。


「……そうだな。ある意味君にとって代われる人間はいないだろう」


「……? そういえばサムエル様はどのようなご入り用でこちらに?」


「……いや、もういいんだ」


「まさかですが、私と同じ理由でした?」


 え? 本気ですの? 可愛いローズちゃんを婚約者にしてしまって眠れなくてなってしまったのですか?


 まあ! まあ! まあ! 可愛らしい方ですわ!


「詮索するな」


「図星ね。お子様みたい」


 子供らしいというべきでしょうか? 愛くるしいの方がしっくりきますね。うん、サムエル様愛くるしい。


「婚約者が子供みたいだったらどうなんだ?」


 子供みたいだったら? そうね。


「抱きしめていい子いい子して差し上げましょうか?」


 いえ、子供らしくなくてもめちゃくちゃしたい。本当は私がサムエル様になでなでよしよしされたい。


「よほど人を小ばかにするのがするのが好きらしいな。せっかくだ。君が俺にしたいと言ったことが実際にされたらどれほど侮辱か教えてやろう」


 ? どれほど侮辱? 聞き間違いよね? どれほど部族? これね! 野蛮すぎたかしら?


 そんなくだらないことを考えていたせいでしょうか。ふいに腕を引っ張られて私はサムエル様の胸の中にすっぽり収まりましたわ。


 これが部族的親愛行為!! 二人で部族に生まれなおしましょう?


 さらにサムエル様の手が私の頭頂部に触れました。はい! 殺人! ローズちゃん心停止ですよ?


 そのまましばらくサムエル様に頭を撫でて頂いていたら、気が付いたら眠ってしまいましたわ。

公爵令嬢の部族転生・・・! いや、いけない扉な気がする。


今回もありがとうございました。

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