4話 慈愛④
私の目の前にはサムエル様。あら素敵な方。旦那様にしたいですわ。いけません私の婚約者でした。
「サムエル様、わざわざお出迎えですか?」
「くっ、わざわざか。ああそうだ! 迎えに来てやったんだ。既に女王様気分の君をね。ついてこい。これから君の部屋に案内する」
「まあ、それを王子自らですか。他の方にさせなかったのですね」
いえーい! ローズちゃんこれってサムエル様に愛されてるのでは!? ふふふ、サムエル様ったらそんなに私のことが大好きだなんて。嬉しいけど恥ずかしい。
「君は一々そういう言い方しかできないのか?」
「何か問題かしら?」
もしかして、可愛げある雰囲気で攻めた方が良かったのでしょうか。淑女らしく行こうと思ってお返事していたつもりなのですが…………ダメでした? しかし、他に適当な喋り方など……まあ、こういうのは少しずつわかり合っていくものですよね。
「傲慢な君にはわからないだろうな。もういい」
そういわれますと、サムエル様は私の腕を掴んでそのまま王宮内に足を運ばれましたわ。さきほど何か私のことを言われていたような気がするのですが、腕を掴まれた拍子にすべて忘れてしまいましたわ。いやったぁー! って気持ちしか脳内にありません。
はぁ、すっごい好き。愛おしい。私この人と結婚するのですね。
「淑女の腕を気安く触るものではありませんよ?」
サムエル様にそんながっちり掴まれたら心拍音に殺されてしまうじゃないですか。あなたは凄腕の殺し屋さんね。ローズを内側から殺しに来るだなんて。でも、離されたらそれはそれで嫌なのでお部屋までしっかり掴んでいてくださいね。
「良いだろ別に! 君はもう俺のモノだ!」
その時、私の頭の中にストーンと何かが落ちたような気がします。
「モノ? ふっ」
ふぁーはっはっは! そこまで私にゾッコンでしたか! いえいえいえ仕方ありませんね。この大地において私とサムエル様の間に障害など何一つないのです! ローズちゃん大! 勝利!
「何がおかしい」
「え? えっと……? 何も?」
私は愛想よくするために口角をあげてサムエル様のことを見つめましたわ。おっと、笑顔は目を細めるものでしたね。いけないいけない。
「なんだその顔は」
「ふふ? お気に召しましたか?」
「……何を企んで女王になろうとしているか知らんが、先に言っておくが君を政略結婚に選んだのこちらだ。決して君の思い通りにならないと思っておけ」
? いえ、思い通り結婚することになったのですが? 何か失敗したのかしら? 全然わかりませんわ。もうゴールにいるのですから……まさか! そうね、そう思い通りに行くとは限りませんものね。子宝。確かにそうね。どうせなら世継ぎのことを考えるべきですよね。思い通りになるかわからない。息子を産めずに厄介者扱いされる可能性を考えて心配してくださるのですね。
ですが、ローズあなたとの間に子が授かるのであれば姫だけであろうと一向にかまいませんのよ! 私はできる妻なのです。
「ローズ、ここが君の部屋だ」
「へぇ、随分とまあ可愛らしいお部屋ですね」
公爵家にある私の自室でも十分豪華な内装でしたが、こちらの方が勝っています。さらに女性らしいとても素敵なお部屋です。これはもう愛ですね。もう、ローズは毎秒サムエル様に篭絡される未来しか見えません。何言われても言うこと聞きそう。
「ふっ。君のような大人になり切れていないワガママ令嬢にはぴったりな幼稚さだろ?」
え? えっと? つまり? あれ? あのお優しいサムエル様からあからさまな暴言……照れ隠しかしら? えっと、私どうすればいいの? そうだわ! きっとこれはサムエル様の願望! ワガママを言ってほしいのですね!! ええ、今度から願望はどんどん発言させて頂きますわ! まさかワガママの多い幼い女性が好みだったとは思いませんでしたが、サムエル様のお好みに合わせて頂きますわ!!! 外見は無理ですけど!
「そういえばサムエル様のお部屋にはどのようにお伺いすれば良いのでしょうか?」
「俺の部屋か? それなら左側の壁に扉が見えるだろ? 俺の部屋にのみ直接繋がっている。隣が俺の部屋だから厚いとはいえ壁一枚しかない距離だ」
「不要ですわね」
壁なくてもいいじゃない。同室でよいと思いません? サムエル様はプライベートスペースを大切にされる方なのかしら? でしたら仕方ありませんね。しかし、なんとまあ私からすればすべてを受け入れて貰いたいのですが。
「そうか。だが今更工事する予定はない。そこまで部屋にドアがあるのは不満だったか」
ええ、不満です。ドアも壁も…………ぜーんぶ取っ払って二人でイチャイチャしちゃだめですの!!!
「俺は一度部屋に戻る。用があるなら直接来てくれても構わないが…………あまり期待しないでおこう」
そういわれますと、サムエル様はお部屋に戻られてしまいましたわ。何を期待しないのでしょうか?
今回もありがとう御座いました。