30話 結婚➉
翌朝、サムエル様が国王様と王妃様との謁見の約束をして頂き、今晩お二方とお会いすることになりました。
私はユルシュルやシュザンヌと三人でウサギ小屋に遊びに行き、ルイーズとルーツィアにも昨晩のことをお話しに行こうと思いました。
「ルーツィアさんいらっしゃいますか?」
「はぁ、私は基本ここから出ませんが? そもそも、この広いウサギ小屋で働いているのが私だけですので、ある意味籠の中です」
そういえば、ルーツィア以外にここで働かせていませんでしたね。たまにルイーズのご飯を調理してくださるコックさんが立ち寄ることも御座いますが、それくらいかと思います。
「どなたかお呼びしましょうか? どのような作業がお辛いでしょうか?」
「間違いなく屋敷そのものの管理です! ウサギと私しか住んでいませんのに一貴族のお屋敷と大差ない大きさのウサギ小屋など非常識です!」
「そういうものなの?」
ユルシュルたちの方を向いてみると、彼女たちは引きつった笑顔のままでした。世間知らずな自分が悪いのは百も承知ですが、まさかウサギとルーツィアさんだけでこの規模が大きすぎるだなんて思いもしませんでした。
「参考までに私が昔住んでいた屋敷の規模からみても三倍以上の広さと大きさがあります」
「それはルーツィアさんのご家族込み。ですよね?」
「当然です。三名ですが使用人もいらっしゃいました」
仕方ありません。ルーツィアさんにご確認したところ、空き部屋は七つもあるそうですので、使用人はもう少しだけ増やして差し上げましょう。ウサギの飼育はもう彼女で良いと思いますので、屋敷の掃除や管理などをされる方々を集めましょう。
「ルーツィアさん、あとでどのような人が必要かリストアップしておいてください」
「はぁ。まあそのくらいでしたら」
ルーツィアさんは、何かをユルシュルたちに耳打ちすると、苦笑いだったユルシュルは、少しだけ微笑ましい表情で耳打ちすると、ルーツィアさんはプククと笑いをこらえるようなそぶりをしていました。何か?
「ローズ様、やっとご自身が破天荒な発言をしていたとお気づきで?????」
「何よ! 悪いっていうなら使用人は増やさないわよ!!」
「ふは、ごめんなさい。面白すぎて」
ルーツィアさんの遠慮のない笑顔は、初めて見るような気がします。彼女はいつもどこか寂しそうで、ウサギを撫でる時も、どこか寂しそうにしていた為、少々心配しておりました。
「ユルシュルやシュザンヌも元々国外の方でしたよね。ご実家が恋しいとかあったりするのですか?」
私付のメイドのお二方。この二人のことも、外国から来た方ということしか知らないままでしたね。
「私とシュザンヌは、元々とある諜報機関の者でした」
「え?」
予想の斜め上を行く経歴に、少々戸惑ってしまいましたが、お二方のことをもっと知ろうと思いお聞きすることにしました。
ユルシュルとシュザンヌは、元々とある国で諜報活動をするために、また別の国でメイドとして働いていたそうです。ややこしい。その別の国で最後の任務をしていた際に、ルーツィアさんを連れて我が国に亡命してきたそうです。
「あなた方、亡命って一体何を」
「まあ、諜報員でしたので他国からすれば消されてもおかしくないですし、ルーツィアさんにつきましては我々のボスが見通す先の未来にて彼女は生きながらえる方が喜ぶ方がいると言われましたので」
「何よそれ? 天啓か何か?」
私がそう呟くと、ユルシュルとシュザンヌは、目を見合わせて笑ってしまいました。そんなに天啓という言葉がおかしかったのでしょうか?
しばらくウサギたちと戯れていますと、サムエル様がいらっしゃいました。
「君は本当にウサギが好きだな」
「ええ、とても」
私が抱きかかえているルイーズを撫でると、サムエル様が私の頭を同じように撫でてきました。その様子を見ていたユルシュルたちがひっそりと退室していったことは素直に感謝しましょう。
「私がウサギだとでもいうのですか?」
本当は嬉しいのに、ついこのような言い回しをしてしまいます。ですが、サムエル様は、それが私の照れ隠しだと知ってからはむしろわざとそう言う風に言わせようとしているような気がしてなりません。
「そうだな。君はウサギのようにかわいい」
「ふん、獣と一緒だなんて。ひどい扱い」
「違いないだろう。君は獣だろうと大事にしている。私も君を大事にしている」
そう言われ、ルイーズを抱きかかえる私を、更に覆う様に抱きしめてくださりました。私は抱きしめられたことにより、腕の中で大人しくしているルイーズのようにおとなしく抱きしめられることに甘んじてしまいました。
彼の腕の中こそ、私の居場所だと言える。以前までの勘違いではなく、今は胸を張ってそう言える。なんだかそれがとても幸せで私は少しだけ眠りについてしまいました。
もう誰にも誤解などとは言わせません。もう何も勘違いとは思いません。私とサムエル様の間に障害なんて何一つないのです。
今回もありがとうございました。