3話 慈愛➂
屋敷で過ごしていた時のことでした。私は大好きなサムエル様へのアピールをどのように行うかずっと色々な方に相談していたら、執事が突然の入室。
「何でしょうか?」
そのように慌てて入ってきましては転んでしまいますわよ。あなたに怪我されて得をする方もいませんし、私含めてみな心を痛める可能性も考慮してください。
「ローズお嬢様、こちらを!」
執事から受け取った手紙を拝見しますと、これは王家の紋章? 一体何が書かれているのやら? まさか、サムエル様からの恋文?
そんな……私ってばサムエル様から恋文を受け取らなくても飛んで参ると言いますのに……でも、これはこれで家宝に……サムエル様に嫁いでこれを家宝にしたらある意味国宝よね。
あらいけない。気持ちが先走って全然違うことを考えていましたわ。とにかく中を確認することが先ですわね。
「えっと何々? ふむふむ? ほー? えっとこれは……ローズさんがサムエル様の婚約者になるって」
ローズさん? 羨ましい限りですね。どなたかしら? めっためたに……私か。この手紙私宛ですものね。え? 何? なんと? なんと書かれてました? ローズ・カーン・ラプラス公爵令嬢を第一王子サムエル・エル・ディ・カーリアムと婚約……?
「ねえこれ……私読み間違えてない?」
「いえ、間違いなくローズお嬢様とサムエル王子の婚約と書かれています」
執事と私の見識は一致。どうやら本当に婚約されるそうです。私と王子。
「え?」
お父様からそのようなお話は一切聞いておりませんよ? 何故急に? いえ、私は一考にかまいませんが……え? え? 本当に私が婚約しても宜しいのでしょうか?
「ふふふ、あらいけませんわ……ふふふ、もう誰にも譲りませんわよ」
珍しく本音が口からこぼれてしまいましたわ。それほどまでに私は舞い上がっているのでしょう。何が気に入られて婚約に至ったのか……とにかくこないだ王妃様に呼ばれた段階からチェックされていたのでしょう。
「あ、あの……え? えとあ、そうだ続きを読みましょう」
続きに記されていましたのは、王宮への呼出しとその日時。えー……今夜? 今夜に参りますの? 早くありませんか?
早速ドレスに着替えましょうか。
銀色の髪を整えて貰いながら、着替えさせて頂いた水色のドレスのデザインを確かめるように鏡を覗き込みます。
化粧のチェックもしましょう。うん! 昨日までの最高に可愛かった私より可愛い! 完璧じゃない!
「テレサさん? 今までありがとうございました。王宮のメイドが気に入らなければ、あなたをお呼び致しますわ」
私は今まで私の面倒を見てくださったメイドのテレサに声をかけてあげました。本当は一緒に王宮まで付いて来て欲しかったのですが、王宮にはすでに私様にメイドが用意されているそうです。
あああ、テレサ今まで本当にありがとう! もう大好き! 結婚しよ! あっ、私これから婚約者に会うんだったいけないいけない。
「いえ、お嬢様のお世話ができて光栄でした。どうかお幸せに」
「ふっ……幸せね。ええ、例え政略結婚でしてもそれが不幸とは限りませんものね。幸か不幸か私の裁量次第ですわ」
いやいやいや、すっごいい幸せになるつもりですよ私。我が国の王子殿下に一目ぼれしちゃったんですもの! どのような方かまでは一度お話した程度ですので、あまり把握していませんが、これは幸せになるしかねえ! あらはしたない。絶対幸せになるわね。
「さすがですお嬢様。いつまでも美しくあれ」
「では、平民のあなたとはもう会うことはないでしょう。さようなら」
そうでしょ? そうでしょ? 私って美しいでしょ? もうテレサさん大好き! …………私もう会うことはないってなんで口にしたのでしょうか。いいえ、テレサさんまた会いましょう?
「はい、お嬢様」
テレサさんは最後の最後まで私に笑顔で手を振ってくださいましたわ。ああ、最後に一言くらい彼女にやさしい言葉を、私の気持ちを口にすればよかったのでしょう。
出発の馬車に乗り込み、小さくなるお屋敷を眺めていました。馬車の中で私は風に乗って揺れる銀色の髪を撫でぽつりとつぶやきましたわ。
「テレサも幸せになってね?」
さてと……サムエル様にたくさん甘えて、たくさん愛し合うためにも脳内イメージって必要よね。ああ、待ち遠しいわ。なんてお声をかければ宜しいのでしょうか。
やはり第一声は、愛しています! いえ、さすがにドン引きよね。好きです! これも違いますわね。私たち政略結婚ですもの……一緒に頑張りましょう! 何を?
予行演習などと考えた私はおバカさんですね。
「なんと面倒な……」
「面倒? 登城してすぐにその発言か……もう女王気分とはいい心構えじゃないか」
「……え?」
いつの間にか馬車は王宮に到着。目の前には私の出迎えにとサムエル様がいらっしゃいましたわ。あらー。
やっと短編の前半に追いつきましたね。
変更点過多の為、短編より面白いものを届けられるように頑張る所存です。