29話 結婚⑦
サムエル様の腕に抱きしめられている中、私は緊張の糸がほぐれ、途端に眠たくなってしまいました。
「ローズ!?」
「いえ、ごめんなさい」
「素直な君がこんなに可愛いとはな」
「お、おやめなさい!」
私が反射的に叫ぶと、サムエル様の表情がまた固まってしまい、数秒ためてから呟きました。
「いや、素直じゃない君の方が可愛いかったのかもしれないな」
「素直じゃない!? いえ、そういう訳では? あーもう!」
心地よく眠くなってきたはずでしたのに、一気に目が覚めてしまいました。
ですが、私は昨晩までと違い幸せで、嫁いできてから一番彼と愛し合えている。
そう実感しています。
抱きかかえられて部屋まで強制送還されてしまい、ベッドに優しく寝かしつけられました。
「あの、まだお時間は?」
「午後はすべて君に使うつもりだ。だから夕食も夕食後も君といよう」
「え? え? ええええ? はぁあ!?」
サムエル様、本日はもうずっと私とお過ごしになると仰ったのですか?
嘘やだ。もうダメ。
ベッドで横になっている私と、ベッドに腰をおろしては私の髪を撫でる彼。
昨晩のような微笑みを眺めても、彼は逃げようとしない。
「君が幸せそうに笑うのは、ウサギといる時だけだと思っていた」
確かにルイーズといるときの私は幸せいっぱいでしたが。
そういえば、ルイーズを飼い始めてから、サムエル様は時々ご一緒に来てはルイーズを抱える私を見て微笑んでいましたね。
あれってサムエル様もウサギが好きだったのではなく、微笑む私を見ていたと言うことですか?
嘘嘘嘘。そんなことってあり得ますか?
急に体温の上昇を感じ、それを隠す様に布団に潜り込んでしまうとバっとはがされてしまいました。
「な、なにを?」
「君が嫌がっていないというのなら、どうかこのまま顔を見せて欲しい」
「嫌、嫌に決まってます!」
「…………そうか」
そういってサムエル様は、がっちりと私が逃げられない様に掴んでしまいました。私にできることは、精々顔を逸らすことが限界でした。
「嫌と言いましたが?」
「本当に嫌なら、俺を蹴っ飛ばすといい」
「…………卑怯者」
そう呟いた時、サムエル様がそのまま私を抱締めてきました。私が抵抗しないとわかると彼もそのままベッドに横になりました。
「何故入ってくるのですか」
「君が喜ぶと思って」
「考え方が安易すぎます」
「安易な考えが満足なのだろう?」
「…………好きになさい」
私が最後にそう呟くと、彼は私を抱締めたまま離してくレませんでした。
離されないことをいいことに、彼の胸に顔を摺り寄せると、先ほどのように髪を撫でてくださりました。
「君は言動の割に甘えん坊だな」
「甘えん坊なのはあなたです。私に構って欲しいから私を構うのでしょう? 子供の発想ね」
私がそう言いながら、また顔を摺り寄せると、君よりは甘えん坊じゃないと思うけどな。と、聞こえたような気がしました。
「ローズ、明日父と母に話しに行こう」
「明日? まさか、ご結婚の準備を?」
「ああ、俺たちの気持ちを伝えに行こう」
次回結婚。婚約生活の終わりです。
今回もありがとうございました。




