22話 ウサギ小屋建築④
あれから二か月。
ウサギ小屋が完成間近になる頃、サムエル様が思い出したかのようにウサギ小屋を見に行くと仰りました。
「そういえばウサギ小屋が完成したって話を聞いていなかったな。どうなっているんだローズ」
「え? まだ完成していませんが?」
「今すぐ建設している場所に案内してくれ」
ことの始まりはこの会話。書類に向かってしかめっ面をしていたサムエル様がすぐに机の上を片付け、私の腕を掴み退室しました。
まあ、大胆ですこと。
「何か問題でも?」
「大ありだ。一体どんな規模のウサギ小屋を作ろうとしたら二か月もかかるんだ」
「……伯爵邸くらい?」
サムエル様の表情がぎょっとした表情になられました。もしかして小さかったかしら?
そして建設予定地までたどり着きました。ちょうど王宮の庭にある森林に埋もれていていることと、サムエル様の普段の生活圏から離れた位置の為一切気付かれなかったそうです。
「ここに住むのはあのウサギだけか?」
「あとは世話係のあのそっけない女官さんもですね」
それとルイーズ専属のコックも必要ですよね。あとは獣医さんもお呼びしましょう。
「……これはもはや別館だと思うが」
「え? そのつもりですが?」
もしかして、離宮にすべきだったのかしら。嘘。ローズ失敗。
サムエル様の残念なものを見るような眼は、確かに私を捉えています。間違いありません。ウサギ小屋が思ったよりも小規模すぎて顔の筋肉が硬直されたのですね。
その御尊顔のままこちらを見れば、ええまあその表情でも仕方ないでしょう。
「……まあ、既に着工しているものを壊させるのも悪いしこのまま行こう」
「そうですか。もっと豪華に改築しても宜しくてよ?」
ルイーズちゃんの為にもっといいおうちを作りたかったのですねサムエル様。
「よしてくれ」
あら? んー? どういう心境からし。「よしてくれ」ってもしかして「よし、やってくれ」の聞き間違い?
絶対にそうです。違いありません。私ってよく聞き間違えをするんですよね。何故か皆様とお話がかみ合いませんし。
「大丈夫ですサムエル様。お金なら私自らで賄いますので」
「君らしさがでてきたな」
ラプラス家の領地の名産や、贔屓にしている商家もたくさんいらっしゃいます。最悪、よく知らない方々から頂いた宝石も……でも一応私の為に頂いたモノですしうーん。
まあ、サムエル様から以外の物は、サムエル様の為に活用しましょうか。
そして更に数日後。私の実家ほどの大きさのウサギ小屋が完成しました。近くにたててあった東屋でサムエル様が頭を抱えていらっしゃいます。どこかの領地の飢饉でしょうか?
「サムエル様」
「ああ、ローズか。ウサギ小屋完成おめでとう…………小屋? あれは屋敷だな。もうあと数匹飼い始めたらどうだ? せっかくこんなに大きいのにウサギ一匹は広すぎるだろう」
え? サムエル様、ウサギさんをたくさん飼いたいのですか。可愛すぎる。飼いましょう。もっとたくさん。
ウサギ小屋の管理を任されたルーツィアさんが新造されたウサギ小屋の管理で大忙しの様子をよそに、私は新しいウサギたちのことをユルシュルたちに相談しに行くことになりました。
しかし、どうやら小さな国柄。私がウサギの飼育をしていると聞いた貴族たちからウサギの献上品をたくさんいただくことになることは、また別のお話。
ウサギたちに囲まれる次期王太子妃の噂は色んなところで噂されていたのでしょう。
初めましての貴族の方と会うたびに、ウサギのお話をされるようになりました。サムエル様が仰るには、ウサギの印象で多少は前みたいな印象がなくなったのだろうと言われましたが、どういう意味かよくわかりませんでした。
そして妃教育が順調に進んだある日。王妃様からお声がけされたのです。
「ローズ。そろそろどうかしら? サムエルと結婚するというのは」
「へ? 宜しいのですか?」
「ええ、今のあなたなら問題ないわ」
私、ついに結婚します。
婚約しかしてませんからね。
今回もありがとうございました。