19話 視察⑩
視察をすべて終わらせたサムエル様。と、ウサギを抱えた私。
「そのウサギはなんだ?」
「こちらですか? 可愛らしいウサギさんですが?」
私が自慢げにウサギをサムエル様にお見せしますと、小さなお声でまた何か企んでいるのかと聞こえたような気がします。
企み?
まさか、王宮に大きなウサギ小屋を作ることがバレているということでしょうか。
「サムエル様。探りを入れていい範囲にも限度がありますよ?」
絶対に怒られます。そんな気がします。だって私がウサギさんを構いすぎたら、サムエル様が寂しくて死んでしまいますもの!
だからといっても、目の前でウサギさんを撫でる手を止めることができずサムエル様はそんな私を凝視しています。
「君はそう女性らしくしていればもっと…………いや、なんでもない忘れてくれ」
「…………はい! 忘れます!」
サムエル様が忘れろと仰ったなら忘れましょう!
ところで、何を忘れればいいのか忘れました。でも、多分サムエル様が素敵な御尊顔を私に向けているのだから、きっと正しいことですよね?
ユルシュルとシュザンヌのお二人にウサギさんを預け、ヴィルジニー辺境伯夫人にお別れの挨拶をしに行くことになりました。
「ローズ様。このたびは誠にありがとうございました。軍資金に回すばかりで資金難気味になっていたこともあり、ローズ様の働きかけは領地の繁栄につながると思います」
「それはよかったです」
「時にローズ様はそのお噂とかなり乖離されている方だと思いますが、何かそのお心当たりはおありでしょうか?」
「噂?」
ヴィルジニー辺境伯夫人からお聞きしたお話ですと、なんでも私は性格のキツイ我儘令嬢で、言葉がキツく態度も大きい。我が道を征くといった雰囲気だそうです。
誰がそんな噂を…………。もしかして私が王太子妃に選ばれたことを妬んだ令嬢かしら?
それでしたら仕方ありませんね。嫉妬して我を忘れるくらいにはサムエル様の妻というものは素敵な場所ですもの。ローズ納得。
「噂がなんだというのですか。持つべきものの通る道です」
「それもそうなのかもしれませんね」
しかし、もしそのお噂がサムエル様のお耳に入ってしまうことがありましたらどうしましょうか。
ちょっとばかり不安ですね。サムエル様の前だけいい女を演じていると思われるだなんてショックが大きすぎます。
決めました。私、誰もが素敵なお妃さまと認める女になります!
夫人とお別れし、王都に帰る準備を進める中、ユルシュルが抱えた大きなウサギさん。
「あのローズ様。お好きかなと思いお渡ししましたがこの子は飼われるということで宜しいのでしょうか?」
「え? もう小屋の建てる場所まで考えていたのですが?」
「畏まりました!」
少しばかり嬉しそうなユルシュルさん。どうやら彼女もウサギさんがお好きのようです。ツインテールが長い耳みたいで可愛いのですよね。
おっと、シュザンヌさんが可愛くないという訳じゃないんですよ!
まあ、心の中でお話してもお二人には聞こえないでしょうね。
「ローズ様」
「何かしらシュザンヌ」
「私はウサギではありません」
そういわれ、はっとしますとどうやら抱きしめながらシュザンヌさんのことを撫でていたようです。
お二方。可愛らしい見た目とは裏腹に、私よりも七つも年上の熟練メイドなのですよね。
サムエル様も準備を終え馬車の元にやってきました。
「そのウサギをどうするつもりだ?」
「飼います!」
私がはっきりとお返事しますと、サムエル様は考えこみました。あ、その顎に手を当てる仕草素敵すぎます。
所作一つ一つで私を魅了するサムエル様は、まあいいかと呟き馬車に乗り込みました。
私はユルシュルさんが抱きかかえたウサギさんを一度撫でてから、サムエル様の後に続きました。
ウサギさんを撫でていた私をまじまじと見ていたサムエル様が私にお声がけしてくださりました。
「ローズ。お前はウサギの利用の仕方が上手いな」
「はい?」
ウサギさんの利用?
しばらく考えてみましたが、サムエル様は私に何を求めているのでしょうか。ですが、何かお返事すべきですよね。
「あら? サムエル様に私の考えがわかるのかしら?」
もしわかるのでしたら、それはもう以心伝心のおしどり夫婦。理想の家族まっしぐらですわ。
「どうだろうな。すぎた後の嵐ならわからなくもないが…………うさぎの可愛さはイメージアップにはいいのかもしれんな」
「……イメージアップ?」
まさか、サムエル様がウサギさんとお戯れになり、可愛さを全国民にアピールなさるのですね!?
「ええ、素敵でしょう?」
「どうだろうな。ツンツンとした印象を打ち消すにはもっとこう……なぜこんな話をしているんだ。まあいい。飼いたいなら構わないから君の好きにしたまえ」
ツンツンとした印象?
サムエル様はご自身のことをそう思われているのですね?
大丈夫です。ローズには神々しいお優しい方と認識されております。私があなたを最高の王にして差し上げましょう。
視察先からの帰り道。私は最高の王妃になることと、サムエル様を国民からお優しい王と認識してもらうという目標を手に入れましたわ。
よーし、頑張るぞー!
お久しぶりです。大鳳です。
メインで執筆している作品を完結させるべく疾走していました。
更新遅れて申し訳ありませんでした。ぺこり。
今回もありがとうございました。