17話 視察⑨
翌朝。大量のウサギ放出はついに終わりを迎えようとしている。……はずです。
「おはようございますローズ様!」
メイドのユルシュルは長く赤いツインテールを揺らしながら、私に朝の挨拶をしてくださりましたわ。
「おはよう、シュザンヌはどちらに?」
「シュザンヌでしたらローズ様の言いつけ通りにウサギ騒動の後始末に出かけましたよ?」
「……私、いえそう。そのはずよね」
全く、記憶に御座いませんわ。まあ、きっと何かそういう風に捉えられたのでしょう。
お二方に伝えた作戦。対した案じゃなかったはず。誰でも思いつくけど、とにかくお金が必要な方法。
そう、全部捕まえて家畜にしましょうと提案しただけ。ついでに産業にして街の名物を作りましょうって言っただけですのに。
初期投資すべてを私が賄うことで今までの被害は損害賠償ではなく餌代として領民や領主にお渡し、ウサギたちを飼う土地と仕組み。仕事をするものを雇い、雇用主も私。
それだけのはずですのに、どうしてシュザンヌは出かけたのかしら?
まあ、いいわ。事態は好転するでしょ。
「着替えるわ」
「はーい、少々お待ちください」
ユルシュルに着替えを手伝って頂き、サロンに向かいますとサムエル様がいらっしゃいましたわ。
「おはようございますサムエル様」
「ローズか。君らしい傲慢な解決方法だったな。まあ結果は結果だ。よくやった」
「……? ふっ当然です」
全くわからない。傲慢っていい意味がある言葉でしたっけ?
照れ隠しにしてもちょっとサムエル様言葉選び間違いすぎでしょ?
そのレベルの間違いはさすがに、外見に反して可愛いがすぎるのでは!?
思わず笑顔になりそうなところ、多少ふっと息を吐く程度で抑え、凛々しい表情で返事を返せましたが、あやうくデレッデレのだらしない表情をお見せすることになってしまいました。
「まさか領を財源で押さえつけ、被害をすべて買い取りで抑え込み。あまつさえ自分の息のかかった人間をこの地に配置。さらにウサギで産業をはじめ新たな財源を作り出す」
悪意のある捉えられ方。そうですか。そういうことですか。わかりましたわ。
つまり、可愛い婚約者である私をたまにはいじめたくなってしまったのですね!
ここは良い嫁になる予定の私。ご要望通りしおらしくなるしかないじゃない。
「はい。すべて私の考えですわ」
ダメ。サムエル様とお話していて口角を下げることができません!
いじめられている時に口角をあげる嫁がどこにいるというのですか!
「うっ!? なんだその表情はまだ何か企んでいるのか? それとも上手くいきすぎて笑いを隠せないのか?」
そうです。ごめんなさい。サムエル様と楽しい談笑ととらえて笑いが隠せませんでしたわ。
「……なんだ。そういう表情もできるのか」
「はい?」
「いや、きのせいだったようだ」
今、私どんな表情をしていたのでしょうか?
サムエル様と談笑をしているとお考えになっていた時?
見ていない表情はわかりませんね。良い表情をしていましたら問題ありませんが、意外そうな表情。
もしかして私のイメージからかけ離れた意地悪い表情でもしていたのでしょうか!?
その日、私はなるべくサムエル様と顔を合わせない様にしました。
戻ってきたシュザンヌからウサギの家畜として飼育として色々お話がありましたが、ほとんどから返事をしてしまいました。
そしてしばらくしてユルシュルが白くて大きなもふもふを抱えて私のところにいらっしゃいましたわ。
「その毛玉は?」
「申し訳ございません! いえ、その勘違いでしたら非常に申し訳ありませんが、ローズ様ってウサギお好きですよね?」
そういわれてユルシュルから大きなウサギをお渡しされ、私はその暖かな動物を優しく抱きしめるのでした。
次で視察終わります。終わらせます。
基本コメディなのでもう少しボケられるように書ければよかったです。
今回もありがとうございました。