11話 視察➂
目的地である南の国土。麦の名産地バックシャオに到着致しましたわ。
「これが全部麦?」
「ん? ああそうだ。お前は狭い世界しか知らないんだな」
「あら? 知らなくても問題ないでしょう?」
だってこれからサムエル様が教えてくださるのですよね? ローズは良い子なので全部信じますよ!
あたり一面緑色。……本当にこれが麦なのかしら? 葉のように色が変わるのよね? 多分そう。
「まあ、確かに君は意味もなくここにいるがな。君が知りたいと懇願するのであれば、仕方なく俺が教えてやろう」
仕方なく? そうよね。サムエル様は忙しいのですよね。
「なら結構。自分で勉強致しますわ」
あなたのローズちゃんがどれほど優秀か教えて差し上げるところね!
「そ、そうか? そうなのか」
あ? あら? サムエル様少し寂しそうな気が……気のせい? いいえ、これはきっとあれよね? 可愛い子には旅をさせよ精神の我慢!
ってこの場合の可愛い子って私キャー!
おっといけませんね。早速この頭脳をサムエル様に披露して、いい子いい子して頂かなくては。
サムエル様とご一緒に領主邸に到着致しますと、それぞれ別行動。
サムエル様は領主様とご一緒に領内を回ることになり、私は領主夫人であるカッセル辺境伯夫人とお茶会をすることになりました。
「どうも初めまして私はローズ・カーン・ラプラス。サムエル・エル・ディ・カーリアム殿下の婚約者で御座います」
「あなたが次期王妃様ね。私はヴィルジニー・カッセル。カッセル辺境伯夫人よ」
カッセル辺境伯夫人は、茶色い髪に赤い瞳の女性。落ち着いた雰囲気から年上の余裕すら感じる方でした。
「ローズ様と呼んでも宜しいかしら? 私のことはヴィルジニーーでいいわ」
「いえ、そんな。ヴィルジニーー様と呼ばせてください」
呼び捨て? 確かに彼女は身分でいえば辺境伯夫人。ですが、私はまだ公爵令嬢でしてよ? ダメですダメです。せめて王妃になってからそう呼ばせて頂きます。
「この地域では麦が特産ですのよね? 他には何かないのかしら?」
「そうね。領地内では他に特産品としてオリーブが有名よ? サムエル殿下もここのオリーブを大変よく気に入っていらっしゃるから王宮に良く手土産に持っていくことがあるの」
「オリーブですか。そういえばあれの収穫時期っていつ頃なのかしら?」
「晩秋に入る前くらいかしら?」
「ではその頃に王宮に訪れてくださるのかしら?」
「ええ、勿論ですわ。その時はローズ様にも何か気に入って頂けるものをご用意致しますわ」
「まあ、ありがとうございます」
えー? ちょっと楽しみですわね。何かしら何かしら? ウェディングケーキとか? それともウェディングドレス? そういえば私とサムエル様の結婚っていつ頃なのかしら?
サムエル様が戻られる前にこの領地の特産品のことや、出没する野生動物。最近あったことなどをお聞きしましたわ。
中でも興味を惹かれたのは、大量の野生のウサギが街中に侵入してきたお話ね。
普通は野生のウサギたちは野山にいるはずですのに、なぜか朝になったら路上に大量発生していたウサギたち。
「何かあったのかしら?」
「そうよねぇ? 試しに野山に行ってみても何もなくてね? でもウサギたちは野山に戻ろうとしないのよ」
「ふーん」
そういうこともあるのね。まるで野山に何かいるみたいに……あれ? でも野山には何もなかったのよね? じゃあ、何かしら?
となると、街中に野生のウサギを呼び寄せる何かがあったということでしょうか?
その夜、サムエル様とお話することでウサギの件の真相がわかりましたわ。
「野ウサギ? ああ、あれはだな。他の麦が特産の領地からの妨害行為だな?」
「へ?」
「ここら一帯に捕まえた野ウサギを放ったんだよ」
「下劣ね」
野ウサギはなんでも食べてしまいます。植物に限りますが。
それを他の麦畑の特産としている地域の方がここで放つということはこの地域の農業の妨害以外の何物でもありません。そう易々と許せますでしょうか? いいえ、許せませんね。
「そうだな。犯人の目星はついているから、王宮に戻ったら呼び出して処罰だな」
「その時は私も一緒に処罰を決めさせてくださいな」
「君が? ……処罰を聞いた者はさぞ震え上がるだろうな」
「それはどういう意味でしょうか?」
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