10話 視察②
私は今二人のメイドシュザンヌとユルシュルに荷造りや化粧を手伝ってもらっているところです。
「ローズ様、今日もお綺麗ですよ」
「ええ、とてもお美しいです」
そんなに褒めちぎらないでください! 嬉しくて首が飛ぶくらい頭を振ってしまいそうです!
「煩わしいわあなたたち」
これ以上聞いていたらテンションマックスで踊りだしそうです。セットして頂いた髪が台無しですわ。
私は鏡に映っている自分を眺めながらお二人に感謝のお言葉を伝えようとしましたが、ふふふ何といえばよいかしら?
「申し訳御座いません!」
「黙ってやります!」
あら? お話はしてくださっても……上手くコミュニケーション取れませんね。照れ屋な方々なのかしら?
その後、お二方は黙々と作業をしてくださいましたわ。寂しさもありますが、私の為に一生懸命に作業しているお二人がかわいらしかったのでゆっくりと眺めていました。
しばらくして馬車の前まで連れられて行きますと、既に素敵なサムエル様がいらっしゃいましたわ。
「遅いぞ」
「女性は準備に時間がかかるのです」
サムエル様に可愛い可愛い大好きローズと言って頂くために綺麗にして頂いたのです! さささ! 抱きしめて頂いても構いませんのよ???
「そうか」
そうかって……ああ、そうですか。抱きしめるのを我慢していらっしゃるのですね。
とにかく二人で馬車に乗り込み窓の外を眺めようかサムエル様を見つめようか。サムエル様を見つめましょうか。それがいいですわよね。
「なんだ急に」
「いえ、ふふ……お気にせずに」
「なんだ!? 言え! おいローズ!!」
そんな! 恥ずかしくて声に出せませんわよ! でもそうね。サムエル様に正直に言うべきよね。
「いえ、サムエル様のお顔を見ている方が愉快だと思いましたので」
「ローズゥ!?」
あら? おかしいですわね。サムエル様が怒っていらっしゃるように見えますが……見えますね。もしかして照れすぎて!? 感情が制御できなくてつい行動に出てしまうなんて……
「子供みたい」
そう! 子供みたいに可愛らしいですわ!!
「くそ昔はもっと素直で可愛かったはずなのに」
「昔? 昔のサムエル様のお話ですか?」
「え? あ、いや違う」
否定だけされてサムエル様は黙って窓の向こうの景色を見つめてしまいましたわ。あら残念。
と言う訳ではなく、サムエル様の金糸のような髪がさわさわ。あ! 許可なく触ってしまいましたわ! 絞首刑にされても文句を言えないような国宝……いえ、人類の宝ですのに!!
「あその……」
「気にするな。続けていい」
「え? あ、はい」
触り続けて良いのですか? 禁断の果実って知ってますか? 食べてはいけないのですよ?
もしかしてサムエル様は私をサムエル様沼に沈めるおつもりですね!? どうしましょう!? 既に這い上がれないし、呼吸もできない状態でしたのに!?
ですが触り続けても宜しいのでしたら、馬車に乗っている間ずっと触らせて頂きます。ローズだけの特権です。
細くてやわらかくてさらさらしてます。これまだ触っても良いのですよね? あ、すごい指が幸せ。
「撫ですぎだ」
「あら? 続けて良かったのではなくて?」
仕方ありませんね。サムエル様を困らせる訳には行きませんよね。
私は名残惜しくその手を引っ込めましたわ。
「宜しければサムエル様も私の髪を触りますか?」
「は? 俺がか? 何を言っている……いやその……いいのか?」
「構いませんよ? 貴方が私の髪を触れればの話ですがね」
このような髪、触る価値もなければサムエル様のお手と比べて汚らわしいと言っても過言ではありません。
そのような髪に嫌悪感がないと言ってくださるのでしたらどうか、ローズの頭を撫でてください。
「そうか。触れないほどピュアな奴だとあざ笑いたいのだな? 残念だったな。お前の髪くらい堂々と触ってやる」
話があっていませんね? どういう意味でしょうか? それとも……やはり照れ? 素直になれないのですね。可愛い。
その後、丁寧に撫でて頂いた私は、天にも昇る気持ちで視察予定地である南の国土に向かうのでした。
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今回もありがとうございました。