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prologue:僕という殺人鬼




 ――僕は生まれた時から生粋の殺人鬼だった。

 

 暗殺者の名門に生まれた僕は、生まれた時から生き物を殺すことが好きだった。虫を殺すなんていう子供にありがちな生易しいものではなく、殺せるものは何でも殺した。


 屋敷によく来る雀がいた――首を切り離して殺した。

 屋根の上で休んでいた猫がいた――毒餌を与えて殺した。

 野犬が襲ってきた――返り討ちにして熱湯に沈めた。


 いつしか僕の日常には常に殺害が横たわっていた。それが当たり前になってくると、次はその手段に関心が向いた。

 どれだけ効率的に殺せるか、どれだけ残虐に殺せるか、どれだけ綺麗に殺せるか。

 そういったことを繰り返していた僕を、家族は褒めたたえた。

 『お前は天才だ』、『一族の誇りだ』何度聞いたかわからないその言葉。僕にはどうでもよかった。殺すことさえできればそれでよかった。


 ある日、僕は家族を殺した。

 誰一人として僕には気付かなかった。自分が殺されたことにすら誰も気づいてはいないようだった。

 古代から続いた暗殺者の名家はこうして潰れた。

 

 いつしか、僕は殺すのに飽きてきた。


 ……でも、殺す。


 これはもう、僕にとっては呼吸のようなものだった。殺呼吸とでもいえばいいのだろうか。冗談ではなく僕にとってはそれが不可欠だった。それをやめることは僕の血が許さなかったのだ。


 あるとき、僕はある少女に出会った。

 僕は彼女をいつも通り殺そうとした。でも、やめた。なぜかは今でもわからない、僕は何を思ったのか、そのとき息を止めてみたのだ。ただの気まぐれだったのかもしれない。

 自分が命の危機に瀕しているなどとはつゆ知らず、彼女は屈託のない笑みで話しかけてきた。最初の言葉は今でも一言一句違うことなく覚えている。


「――キミ、優しそうな顔をしているね」


 その後のことを語ることは今は避けておこうと思う。

 結論だけ言うと、僕は彼女を殺さなかった。彼女は僕のすべてを変えた。僕は殺したくなくなった。それから、僕は次第に長く息を止められるようになっていった。

 

 彼女との別れの後、僕は自分にいくつかの戒律を定めた。


 一つ、無暗に他者を殺さない

 二つ、無暗に他者を苦しめない

 三つ、困っている者を助ける


 戒律は増えていったが、これらが最初に定めた主要なものだった。僕はそれからというもの、これらの戒律を遵守することを第一目的に生きてきた。

 生き物を殺す、その言葉を聞くだけで今の僕には辛かった。それだけで、僕は自分の行いを鮮明に思い出すことができたから。自分が生きているだけで無数の微生物を殺している事実でさえ僕の胸を締め付けるようだ。


 それにもかかわらず、僕は未だに殺人鬼だった。

 運命は僕を逃がしてはくれなかった。僕はまた殺すようになった。それが僕の仕事だった。

 僕は殺したくはなかった、でも殺さなければならない。その矛盾は僕に生きることを難しくさせる。そして、それから逃れるためか、いつしか、()()()()()()()()

 辛くなった時、彼女は僕に声をかけてくれる。僕が戒律を守っている限り、彼女は僕に力を貸してくれる。それは、僕の望みをかなえる力だった。


 ――殺す力


 神はそれを僕に与えてくれた。

 もちろん、ただ殺す力ではない。

 一切の苦痛なく殺す力。相手を安らかに眠らせる力。

 僕が得たのはつまりはそれだった。


 そして、僕は今、自分が死んでいくのがわかる。

 無数の死を生み出してきた僕だからわかるのだ。

 自分の命がどこか遠い所へと向かおうとしているのが。

 抵抗する気は起きなかった。

 緩やかに薄れていく意識――


 ――僕は暗闇に飲まれていった。





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