クエスト(3)
マシロは、まずはともかくよく観察することにした。
スライムは、初めは掘り返された土と同じような色合いだったが、それは体内に土を大量に取り込んでいるからで、スライム自身はどうやら透明度の高い薄い黄色の存在のようだった。
ラビによって突然地上にあげられたことに驚いているのか、プルプルと震えており、慌てて地中に戻ろうともしているようだがそれはラビの魔術が許さない。
地面に飛び込もうとして障壁に弾かれて……を繰り返した結果、地上をピョコピョコ飛び跳ねているようにも見えた。
「ふふっ、かわいい」
「……マシロさん、油断は禁物です。 スライムは、低級……とは言え一種の魔獣ですので。 それに地中の栄養分をため込む性質も……持っています。 あのスライムを定期的に倒す冒険者がいて初めて、生態系は……」
「わかりました、ラビさん。 それで、あの石みたいな部分を破壊すればいいんですよね?」
「石……? まさか。 マシロさん、でしたらその石を避けるように、このナイフで少しずつスライムを解体……できたりしますか?」
マシロが目を凝らして観察をすると、どうやらスライムの左胸のあたりには特別魔力の強い核のような部分があるようだった。
ラビから解体用の切れ味に特化したナイフを受け取ったマシロは、ラビに言われた通りに体内の魔石を避けるようにスライムに刃を通していく。
このナイフは戦闘向けの武器ではないので強い衝撃には耐えられないのだが、その分ピンポイントで刃を通せば無類の切れ味を誇る。
切り落とされたスライムの破片は栄養分の豊富な土に戻っていき、十数秒後にはスライムから魔力の集まった小石のみを取り出すことが完了した。
「……これは、……間違いありません、小さいですが、確かに魔石……です」
「すげぇぜ! 俺、生の魔石って初めてみた!」
「ラビちゃん先生、僕もミッシェルと同じで、とれたての魔石は初めてみたんですけど。 そもそもスライムからも魔石って取れるものだったんですか?」
「ラビちゃん先生! スミスの言う通り、スライムから魔石を採取することはできないって習ったんですけど。 例外はあるって言うことですか?」
「はい……。 スライムは衝撃やダメージを受けたとき、魔石から魔力を消費して回復するので……。 ですが今マシロさんがやったように、スライムにダメージを認識させずに倒すことができれば……」
スライムは魔獣というよりは魔力生命体に近いので、体内には高純度の魔石が存在することが多い。
ただし、スライムは体へのダメージや強いストレスなどを受けると魔石から魔力を取り出して、回復や攻撃に使ってしまい、倒したときには魔石の魔力は残っていない。
かといって、スライムが反応できない速度で攻撃しても、魔石は強い衝撃で簡単に壊れてしまうので、この場合もやはり魔石の回収は難しい。
「へぇ~、マシロちゃんって、すごいんだ! うちの二人とは、大違いだね!」
「ちょ、ウィス隊長! それはあんまりっすよ!」
「そうだよウィス隊長。 それに、僕だって索敵能力には自信があるし、軍略についても勉強中だよ! そしていずれは5大ギルドの一つに……」
「はいはい。 ミッシェルもスミスもいじけないの! それよりも、スライム狩りの続きをやろ! あ、ましろちゃん。 その魔石はマシロちゃんが回収した分だからマシロちゃんの物で良いよ! きっと街に持って帰ればギルドに高く買い取ってもらえるはずだよ!」
マシロは、ラビから魔石の活性度を下げる魔術を教えてもらい、その魔術を回収したばかりの魔石に発動する。
すると魔石は輝きと透明度を失って、見た目上はただの石と同じ状態になった。
「これで……、マシロさんの魔力で魔石を封印することができました。 マシロさんの魔力を流すと封印解除することもできます……。 ギルドに納品するときは封印解除してください……ね」
「ラビさん、ありがとうございます! あの、このナイフは?」
「そうですね……。 せっかくなので、そのナイフはマシロさんのデビュー記念としてプレゼントすることにします……。 大事に扱ってくださいね」
マシロは再びラビに礼を言い、封印された魔石をポケットに突っ込むと、ウィスタリア、ミッシェル、スミス、ラビの4人と共に、再びスライム狩りを再開した。