クエスト(2)
「ウィス隊長! それで、今日のターゲットはなんなんだ? また前みたいに雑魚狩りってわけじゃないんだろ!」
「ミッシェルさん、聞いてなかったんですか? 今日は手堅く『害獣討伐』をやるって話だったじゃないですか」
ミッシェルが質問すると、隣で聞いていたスミスがあきれるように答えた。
それに便乗するようにウイスタリアも補足的に説明をする。
「そうだよ! それに今日はマシロさんっていう新人冒険者もいるから、さすがに無茶はできないかな。 ああ、マシロちゃんは気にしなくて良いよ。 ミッシェルが馬鹿なのは今に始まったことじゃないから!」
「そうです! ミッシェルさんはもうすこしまじめに生きるようにして下さい! ラビちゃん先生も困ってるじゃないですか!」
「……? いえ私は別に……?」
のんきに会話をしながら街を出て、街道を進んで平原に向かって歩いていた。
今回このパーティーが受注したクエストは『Dランク』クエストのなかでも定番と言われる『害獣討伐』のクエストだった。
指定の害獣は主にスライム類。
スライム類は土中の魔力などの養分を吸収して農家などに被害が発生するため一般的に『害獣』とされているが、危害を加えない限り攻撃されるようなことはなく、移動速度も遅いので「最悪、逃げれば助かる」とされ、難易度のわりにランクとしては『Dランク』に設定されることが多い。
そんな説明を聞きながら街道を進み、途中でお弁当を食べながらの休憩も挟んだりして2~3時間ほど歩き、そこら中で野菜が育てられている畑しかないようなド田舎にまでやってきた。
「さあみんな! 目的地に到着したよ。 準備を始めて!」
リーダーのウイスタリアが皆に声をかけ、それぞれがそれぞれに作業を始めた。
「リョーカイ! じゃあ僕は、いつも通り『魔力探知』を・・・早速見つけたよ! 1時の方向5メートルの地中に小型のスライムを一体発見! ミッシェルさん、お願いします!」
「おう、よく見つけたスミス! うおぉぉぉ! 『一刀……両断』! ……やったか!?」
「……だめです! まだ倒せていなません。 ですが物理攻撃を受けて魔力耐性が落ちているはず! それなら私の魔術で! 『ファイヤー……ボール』!!!」
「……ウィス隊長、スミスさん、お疲れ様です! まずは一体の討伐に成功しました!!」
「「「イェーイ!」」」
「……マシロさん、最初はだれでもこんなもん……です。 少しずつ、役割を探していきましょう……」
「はい、お気遣いありがとうございます、ラビさん」
ラビは、ウイスタリア、ミッシェル、スミスの三人組が完全にマシロの存在を忘れているのをみて気遣う声をマシロにかけたが、マシロはすでに(この仲良しグループに今から参加するのは無理かなぁ……)と若干あきらめ気味であった。
「……みなさん! 仲が良いのはよろしいことです……が、今日は新しいメンバーがいることも忘れないで……ください……」
「あ、そうでした! 今日はラビちゃん先生と、マシロちゃんがいたのでした」
「す、すまねぇ、いつもののりで、つい……」
「とは言っても、僕たちもマシロさんの特徴を知らないからなぁ」
「あ、そうですよね。 どうぞ私のことはお気になさらず……」
「わかりました……。 そこまで言うのなら、次は私とマシロさんだけでスライムを倒します。 ……頑張りましょうね、マシロさん」
「え、あ、はい。 え?」
マシロはもはや(今後この世界で生きていけるのかなぁ)と現実逃避していたが、ラビは『ギルド職員』としての責務も感じているのか、三人組に「マシロのことも気遣うように」と声をかける。
このあたりがラビが「ラビちゃん先生」と呼ばれるゆえんなのかもしれないが……。
「あ、ラビちゃん先生、だったらちょうど良いスライムがちょっと先にいるみたいだよ!」
「はい、よくできました、スミス君。 ……それではマシロさん。 私もお手伝いしますが、まずはマシロさんが今できる全力であのスライムに攻撃……してみてください」
ラビは何らかの魔術のような力を使って地中に潜んでいたスライムを引っこ抜いて地面に転がせながら言った。
水揚げされてぷるぷると震えるスライムを前に、マシロはただ一言つぶやいた。
「攻撃……? パンチすれば良いのかな……。 ……手にくっついたりしないといいんだけど……」