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クエストツアー(3)

<<角兎討伐クエスト(クエストツアー)>>

  依頼種別:魔獣討伐

  依頼者:ラシビートプ王国

  期限:二ヶ月以内(緊急)

  報酬:150G

  概要:ラシビートプ王国周辺で発生する以下の魔物の討伐

  ・角兎(つのうさぎ) 30匹

  備考:

  ・討伐時に得た魔物の素材はお譲りします

   ※市場価格×0.8の金額で買い取りも行います

  ・討伐時に発生した損害のうち、100Gまでであれば依頼者が負担します

  ・100Gを超える損害については、報酬から天引きします

  ・100G+報酬額を超える損害については、依頼者が2割負担します


 ◇


 ラシビートプへと向かう馬車の中で、マシロとウィス、スミスとミッシェルの四人は、ラビに渡されたクエスト一覧の中から、これから受ける予定のクエストを一枚取り出して、囲むようにしてみんなで見ていた。

「角兎か。あれの肉は、食ってもうまくないんだよな……」

「そうなんですか? 私は兎肉って食べたことないんですけど、なんかおいしそうなイメージがありましたが……」

 これから作戦や役割を考えようという場面で、緊張感のないことを言い出したミッシェルに、マシロが真面目に返事した。

 その様子を見てウィスとスミス、そしてミッシェルまでもが驚いた顔をして、やがてミッシェルが「ップ」と思わず吹き出したのを皮切りに、ウィスとスミスもつられて笑い出した。

 その様子を見て、マシロだけは首をかしげている。


「マシロちゃん。ミッシェルの冗談に、真面目に答える必要はないよ! 魔物の肉なんて、食べられるわけないじゃん!」

「そうなんですか? ごめんなさい、よく知らなくて……」

「マシロさん。ウィス隊長の言うとおり、基本的に魔物の肉は食べられませんよ。肉自体に濃度の高い魔力が染みこんでいることが多く、普通の人が食べると魔力中毒をおこします。ごく一部の魔物の肉はそのまま食べることもできると聞いたことがあるけど、少なくとも角兎みたいな小型の魔物は無理。かな……」

「そうなんですか……それは、残念です」


 リトルワイバーンを討伐したときにお祝いで食べたサラダの感動を思い出したマシロは、「魔物の肉」というおいしそうなワードに一瞬胸を膨らませたが、食べることができないという話を聞いて、目に見えて落胆していた。

 期待が大きかっただけに、その様子は空気の抜けた風船のようでもあった。

「ミッシェル! 隊長命令です。マシロちゃんに謝ってください!」

「んな!? 俺が悪いのか?」

「そうだよ、ミッシェル。君がマシロさんの期待を煽るようなことを言うから……ほら、マシロさんが悲しんでいるだろ?」

 突然ミッシェルに対して隊長ぶったウィスにスミスも便乗し、ミッシェル一人を責めるような構図が完成する。

 その頃にはマシロも冷静さを取り戻していて、馬車の床板を指でなぞるようにして、見るからにふてくされているようなポーズをとる。

「いじいじ……(ちらっ)いじいじ……(ちらっちらっ)」

「いや、どう見てもこれは演技だろ! なあ、俺は悪くないよな? ……いや、そんなうるうるした目で見られても、謝らないからな?」

 ミッシェルは、どこか気まずそうな空気を漂わせつつ、「理不尽だ」と叫んでみんなを説得しようとするが、すでに彼以外の三人は、そんなミッシェルのことを半ば無視して次の話に移っていた。


「ところでウィス隊長。角兎の討伐なら、僕の魔道具でおびき寄せるのが一番手っ取り早いと思うんだけど、どうかな……」

「そうよね。あの子達は、魔力の反応に敏感だから、私の魔術は使いにくいものね……あと、動きがすばしっこいからミッシェルも使えないし……マシロちゃんは、どうかな」

「私ですか……どうでしょう。兎狩りなんて、したことないですし……」

「だよね。マシロちゃんは、ついこの間冒険者になったばかりだもんね」


 冒険者にとって、定期的に発生して農作物に被害を与える角兎の討伐というのは、クエストの中でもメジャーな部類であり、依頼者とのコネクションも築きやすい点から、人気のあるクエストでもあった。

 ウィスとスミスとミッシェルの三人も、以前に何度か角兎討伐クエストに参加したことがあったのだが、実はその時は他のチームとの合同でクエストを受けており、実は単独で角兎討伐のクエストを受けるのは今回が初めてのことである。

 というか、まだ若い三人に与えられた仕事は、年配の冒険者達が待機している場所に角兎を追い込む囮や、倒した角兎の死骸を運ぶ運搬役といったことが多かったのだが……

 そんなことは口には出さず、ウィス達はマシロに角兎の特徴や倒し方について、知っている限りの情報を伝えていった。


「……というわけだよ、マシロちゃん。だから、残念だけど今回、私の魔術は角兎を驚かせて一カ所に集めるためにしか使えなくて、本命はスミスが仕掛けた罠になるのかな」

「私は、何をすれば良いんでしょうか……何かお手伝いできることはありますか?」

「そうだね、マシロちゃんは……スミスが罠を仕掛けるのを手伝ってもらおうかな。ミッシェルは不器用だから役に立たないし、私は魔術の準備に時間がかかると思うから……」

「おいおい、ウィス隊長! 俺が役に立たないって? 聞き捨てならねえな! 俺だって……」

「ミッシェル。君は、手伝わなくて、良いから! ……というわけで、マシロさん。よろしくね!」

「あ、はい。よろしくお願いします、スミスさん!」


 スミスにぴしゃりと断られたミッシェルは、「がっくし」という効果音が聞こえてきそうなほどのオーバーリアクションで落胆し、三人だけでなく、その様子を聞いていた馬車の御者までもが「ハハハ」と笑い声を上げた。 

 そんなふうに笑うみんなの様子を確認し、ミッシェルもつられて「ガッハッハ」と豪胆に笑い声を上げる。


 そんな賑やかな馬車は、ガタゴトと進んでいき、やがて目の前に大きな、西洋風の城が見えてきた。

「お客さんがた、そろそろ着きますぜ! あれが、ラシビートプ王国の城ですぜ!」

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