クエストツアー(2)
「皆さんに用意したのは、討伐系のクエストを中心に組んだクエストツアーです……。 サブクエストには魔道具作成系のものを、多く設定しておきました。 スミスさんが中心になって進めていくことになると思いますが、素材集めなどは皆さんで協力して集めてくださいね……」
そう言いつつ、ラビは四人の代表としてウィスに一枚のカードを手渡した。 ウィスはカードを受け取ると、早速カードを操作してクエストの一覧を表示させる。
全員でのぞき込むようにしてカードの内容を確認すると、そこには難易度から種類まで様々なクエストが表示されている。 基本的にどのクエストも、街で普通に暮らしていたら関わることもないような高い難易度で、マシロを除くウィス、ミッシェル、スミスの三人は不安を感じつつも、挑戦することが楽しみであるかのようににやりと笑顔を浮かべている。
マシロはこの世界のクエストについて詳しくないが、ぶるぶると武者震いをする三人を見て、クエストの内容が過酷であることを知った。
「クエストツアーに期限はありませんので、焦らず、確実にこなすようにしてくださいね……」
ラビはそう言うと、「私の役目はこれで終わり」と言わんばかりにそそくさとその場を退席する。
残された四人は改めて顔を見合わせて、早速クエストを達成する順番について話し合うことにした。
「それで、ウィス隊長。 俺たちは何から始めるべきなんだ? やはり近所のクエストから片付けていくべきか?」
「そうだね。 ミッシェルの言うことにも一理あると思うけど……スミスはどう思う?」
「そうですね……このツアーは、基本的に上から順番にクリアしていくと進めやすいように作られているみたいです。 だからきっと、この順番通りに進めるのが良いと思いますよ、ウィス隊長」
スミスは、クエストカードを見直して、魔道具作成のサブクエストに必要な素材の一部が直前の魔物討伐の戦利品であることに気がついた。 実際、このカードのクエスト一覧は「クエストツアーの条件を満たすように」と気をつけた上でラビが設定したもので、ラビも基本的に上から達成していくものと考えてクエストを決めていたので、この考えは間違ってはいないことになる。
「なるほどね……ちなみにマシロちゃんはどう思う?」
「私は、見てもよくわからないので、皆さんに合わせます」
「ま、だよね。 じゃあ、まず最初に向かうのはラシビートプ王国で、クエスト内容は『魔獣討伐』にしよう! それで問題ないね?」
ウィスがミッシェル、スミス、マシロに問いかけると、三人はそれぞれ「オウ!」「ええ、もちろん!」「あ、はい」と返事を返した。 全員の了承を得たウィスは「それじゃあ早速、出発しよう!」と言い、会議室を抜け出して歩き出す。
ミッシェルとスミスは何も言わずにウィスについて行き、マシロも慌てて後を追いかける。
ギルドの廊下を抜けて、ラビに「頑張ってくださいね!」と応援の言葉を受けて、ギルドの広間に出ると、ほかの冒険者たちからも「頑張れよ!」「応援してるからな!」と声を受けた。 皆、この街出身の『Bランク』冒険者が誕生することを楽しみにしているようだ。
四人はギルドを後にすると、そのまま街を抜け、街道に沿って歩き始めることにした。 ようやく話をする余裕ができたマシロは、早速ウィスたちにいろいろと訪ねてみることにした。
「ウィスさん、ラシビートプ王国って、どんな国なんですか?」
「そうだね……まあ、一言で言っちゃうと、牧畜が中心産業の……」
「ど田舎、だな!」
ウィスの説明を途中で遮って、ミッシェルが単刀直入にラシビートプの感想を告げた。
それを聞いたスミスは少し怒ったような困ったような口調でミッシェルに語りかける。
「ミッシェル、それは言い過ぎです。 これから依頼を受けに行くんですよ、失礼のないように気をつけてください」
「んだよスミス、わかってるよ、そんなこと。 俺も向こうに着いたら気をつける。 だが実際のところ、都会とは呼べないのは事実だろ」
「それはまあ……否定はできませんが」
「つまり、田舎なんですね……」
マシロは、スミスとミッシェルのやりとりを見て、これから向かう場所が田舎町だと知り、内心少しがっかりしていたのだが、そんなマシロの表情を見たウィスがミッシェルとスミスを肘で小突きつつフォローを入れる。
「とは言え私たちが今から向かうのは、ラシビートプの王都です。 少なくとも私たちの街よりは都会ですよ」
「そうなんですね、楽しみです! ウィスさん、一緒にお買い物しましょうね!」
「えっと……私たち、観光に行くわけじゃないんだけどね」
そんな会話を繰り広げながら、四人はラシビートプの近くへ向かう乗り合いの馬車を見つけ、前払いの料金を支払ってから乗り込んだ。
この馬車はラシビートプ地区から家畜を運んできた帰りだったため、荷台には獣臭さが残っていたが、マシロ以外は気にした様子もなく、マシロも「仕方ない」と諦めて動物の抜け毛を払って椅子にちょこんと腰掛けることにした。
ガタガタと揺れる馬車は、御者以外に乗員はおらず四人の貸し切り状態だったため、周りを気にする必要もなくクエストツアーのことや、これから向かうラシビートプのことを話しながら、歩くよりは速いぐらいのペースでゆったりとラシビートプへと向かって移動していた。