ほうれん草(1)
マシロたちが祝勝会で最高級の料理を食べながら今後の目標を宣言している頃、ラビは『ギルド』の個室で上司にリトルワイバーンの討伐結果を報告していた。
「……と、いうわけ……です。 彼らは力を合わせてリトルワイバーンを見事討伐してみせました」
「なるほどな。 確かあのチームにいたのはミッシェルとスミスと……あとはウィスだったか。 確かに奴らは将来有望だと思っていたが、現時点でリトルワイバーンを討伐できるとは思えない。 ラビ、お前が手助けしたのか?」
「確かに私も手を貸しました……。 ですがそれ以上に、3人の勇気と、新しく加入したマシロさんがの存在が一番大きな要因……です」
「マシロ……、マシロ? 聞かない名前だな。 外の街の冒険者か?」
「いえ、マシロさんは……この世界に転生してきたばかりの転生者……です。 こちらが転生報告書になります……」
「転生者か。 ……見た感じ普通のステータスだが、転生特典か?」
「はい。 個人情報なので詳しくは申し上げられませんが……。 ですがおそらく次の時代の中核を担いうるだけのポテンシャルを持っているかと……」
「お前がそういうのであれば、その可能性は高いのだろうな」
ラビの上司はリトルワイバーンの討伐報告書とマシロの転生報告書に目を通すと、魔術で刻印を押してラビの方に投げ返す。 ラビは返された書類にしっかりと刻印が刻まれているのを確認すると「ありがとうございます」と言いながら丁寧に折りたたんで懐にしまった。
この時点でマシロの転生手続き及びマシロたちによるリトルワイバーンの討伐手続きが完了したため、近いうちに『ギルド』からそれぞれの口座に報奨金が振り込まれることになる。
「それで、彼らの今後なのですが……」
「そうだな。 お前がここまで評価する人物をこんな狭い街にとどめておくのはもったいないな。 とは言えこの街でできる支援には限りがあるぞ」
「はい……。 ですので彼らには旅に出てもらうのがいいのではないかと、考えているのですが……」
「なるほど、クエストツアーか。 ちょうど4人集まったわけだしタイミング的にもいいのかもな」
「もちろん、全員が承諾してくれれば……という前提ですが」
クエストツアーとは、固定の街に拠点を構えてクエストを達成するのではなく、大都市などで定期的に開催されているクエストを達成して廻るもので、クエストの達成をツアーのように廻ることからその名で呼ばれていた。
街から街への移動に時間がかかることや、地元の冒険者にはクエスト達成時の報酬が優遇されることなどから短期的に考えれば収入が落ち込むことになるが、実戦経験を積むという観点ではツアーの方が優れていたし、何よりこのツアーは「『Bランク』冒険者になるための登竜門」とも呼ばれているほどで、ツアーを無事完遂させた冒険者は世間的にも評価されることになるため最終的な収入額では天と地ほどの差が生まれるほどでもあった。
「ミッシェルとスミスは知らんが、ウィスは確か以前、クエストツアーに参加したいって言ってたな……」
「そうですね、ウィスさんは向上心がありますから……。 ミッシェルさんとスミスさんも、ウィスさんが『やりたい』って言えばきっと……。 後はマシロさん……ですか」
「まあ、事情はわかった。 実際に選ぶのは4人に任せることにして、俺はとりあえず資料だけは用意しておこう。 明日にでも4人を『ギルド』に呼んでくれや」
「お気遣い……、感謝します」
ラビは上司に一礼すると、個室を退出して自席に戻り、残っていた仕事を片付け始めた。
ラビは今日一日マシロたちのクエストに同行していた関係で本日分の書類仕事が手つかずで残されていたのだ。
とりあえず緊急性の高いもの以外は翌日に回すことにするが、それでも今日は夜中まで徹夜をする必要がありそうだ。
「打ち上げに私も参加したかったけど……まあ仕方ないですね。 マシロさんたちには明日にでも伝えることにしましょう」
ラビは同僚の手助けも借りながら、まだまだ仕事を続けるのだった……。