クエスト(8)
リトル・ワイバーンを討伐したマシロたちは、ギルドからの素材回収班が到着するのを確認したら、一度街に戻ることにした。
リトル・ワイバーンを討伐するのに疲れたことと、十分な稼ぎが得られたのでこれ以上頑張る意味もないという理由だった。
「よし! 臨時収入も入ったことだし、ここはパーッと飲みに行こうぜ!」
「待ってくださいミッシェル。 まずはギルドへの報告が先です!」
「そう固いことを言うなよスミス。 今日ぐらいはいいだろ?」
「スミスの言う通りだよ、ミッシェル。 きちんと報告をするまでがクエストだよ! ね、ラビちゃん先生」
「ウィスさんの言う通り。 ……ですが今日は無礼講としましょうか。 ギルドへの報告は私の方からしておきます。 (それに、マシロさんのことは報告しておきたいですしね……) 無事に生き残れたお祝いと、Aランクの魔獣を討伐したお祝いです。 皆さんは楽しんできてください!」
「ラビちゃん先生がそう言うなら……。 じゃあみんな、お店はいつもの場所でいい?」
「おうよ! それじゃあ、マシロさん。 今日は俺達のおごりだ! 好きなだけ飲み食いしてくれ!」
「ここで『俺のおごり』って言わないあたりがせこいよね! だからいつまでたっても独り身なんだよ、ミッシェルは」
「うっせーな! だったらお前が払うか? 今日の飲み代……」
「さ、マシロさん! バカは放っておいて、とっとと飲みに行きましょう!」
「そうそう! 今日は三人で楽しみましょう!」
「ウィス隊長まで!? おい、待てよ! 待ってくれって……」
マシロたちは、ギルドへのクエスト達成報告などはラビに任せ、一足先に町の大衆食堂へと向かうことにした。
その店は、高級な料亭といった感じではないが安くて量が多くてその上美味いと評判で、少し高い金を積めばさらに高級食材を使った料理も用意してくれるという融通の利く店だった。
さらには食料品系の素材の買取も行なっており、食材を持ち込んで調理だけを依頼することも可能という、冒険者御用達の有名な店だった。
「へい、らっしゃい……ってなんだ、ミッシェルとスミスじゃねぇか。 っと、ウィスさんも一緒とはめずらしい。 なんだい? 新メンバーの歓迎会でもやるつもりかい?」
「親父さん、お久しぶり。 今日はミッシェルのおごりらしいから、パーッと豪華なお任せ料理を用意してくれる?」
「ちょ、ウィス隊長!? いつの間にそんな話に?」
「さっすがー。 ミッシェルは気前がいいなー。 すげえなー」
「おいスミス、そう思ってないにしてももう少し気合いを入れて演技をしろよ」
「ご馳走になります、ミッシェルさん……」
「マシロさんまで!? ったく、しょうがねぇなあ……。 親父! 特上のコース、4人分で!」
「へい、毎度あり!」
店員に案内されて個室に案内された4人は、席に着くなり早速やってくる高級食材を使った料理に目を見張る。
「こちらは、エルフの森から直送されてきた薬草のサラダです。 回復成分は抜いてあるので安心して食べてくださいね!」
「うお! いきなり高級料理だぜ! さすがは特上のコース!!」
「しかもこれが、ミッシェルのおごりときたもんだ。 まずいわけがない!」
「えっと、ミッシェルさん、ありがとうございます?」
「マシロちゃん! ミッシェルにそんなお礼なんて言う必要ないよ! さあさ、食べよ、食べよ!!」
マシロが(なぜか光り輝いている)野菜をひとかけら口に放り込むと、口の中に森の景色が広がった。
じんわりと、森が体に染み込んでくる。 まるで今、マシロ自身が森の中にいるかのような錯覚をも感じさせる。
「ウィスさん、これ、すごく美味しいです!」
「そう、気に入った? でも勘違いしないでね。 私たちも毎日こんないいもの食べてるわけじゃないから」
「ああ。 明日からはまた並コースの毎日に逆戻り……だろうなぁ」
「そうだね。 もっとランクが上の、それこそ『Aランク』ぐらいの冒険者になれば、毎日これぐらいの料理が食べられるんだろうけどね……」
「……マシロさん、ミッシェルさんスミスさん! 私、決めました!!」
「「「決めた? 何を?」」」
マシロは、サラダの一欠片をしっかりと味わって飲み込むと、覚悟を決めたような瞳で三人に向かって宣言した。
「私の、この世界での目標です! 私はいつかこんな料理が毎日食べられるような、そんな冒険者になることを目指します!!」