始まりと終わりの神様
エブリスタにて投稿していた短編をこちらに移しました。
もしよろしければご覧ください。
「さあ、お前の人生は今日を持って終了する」
突如僕に告げられたのはその一言だけ。
目の前には神様を名乗る、黒髪の青年。
彼がこの言葉を口にしたことで……僕の幸せな日々は消えてしまった。
そう、僕は……死んでしまったのだ。
この神様によって、人生の終わりを決められた。
時は過ぎ。あの日、僕が死んでから3年が経つ。
何も言えずに僕は死んでしまった。僕を大事に育ててくれていた両親、たった1人しか居なかった僕の大事な人にも。
……それなのに。
僕には何も出来ないのに。何も伝えられないのに。話す事も触ることも出来ないのに。
見ることや聞くことだけは出来る。
それも決まって夕暮れ時だけ。いわゆる僕は幽霊という存在になってしまった。
ああ、神様はなんて残酷なんだ。
神様の身勝手で僕はこの世で生きることになって。そしてまた神様の身勝手でこの世を去ることになる。
終わりも、始まりも選ぶことが出来ない。
いや、終わったはずなのに終われない。
いっそ、夕暮れを壊してくれれば僕はこんな辛い思いをしなくて済むのに。
殺すぐらいなら見せなくていいのに。
しかもその例の神様は時折僕の様子を見に来てはニタニタと笑い去っていく。
「僕は、神様なんて大嫌いだ」
僕の大事な人。
それは僕をどん底から救ってくれた女の子だ。恋愛関係とかそんなものではないけど。僕にとっては恩人とかそういう部類のもの。
彼女は、優しいから。僕が死んだことを3年が経った今でも悲しんでくれている。
もちろん両親も悲しんでくれてはいるのだけど。
僕にとっては彼女が、僕のせいで悲しんでしまっている事がとても辛かった。
彼女が泣いているのを見る度に胸がぎゅっと痛む。なにか言葉をかけてあげたくても何も出来ない、そんな無力感だろうか。
僕が死んだのは夕暮れ時、見れるのも夕暮れ時。
そして彼女が泣いているのも夕暮れ時。
お願いだ。
もうこんなのたくさんだ。
「神様、夕暮れを壊してくれよ」
「それは、無理な相談だな」
ニベもなく断られる。このやり取りももう何度目だろう。辛い気持ちになるたびに思い出す。幸せな思い出。
それは僕を苦しめる。だから、忘れたい。忘れてしまいたい。幸せな日々を。
心に刻まれた記憶を。消し去って楽にしてほしい。
消えたい。
もう、見たくないんだ。
ねえ、死んだあの時に『さよなら』はしたはずなのに。どうして、僕は未だにここから離れることが出来ないの。
「さよならを、許して」
夕暮れを壊すことが出来ないなら。
せめてさよならを、許してよ。
僕には悲しんでいる君を見ることも何も出来ないままここにいることも嫌なんだ。
だから。
「神様……」
「なんだ」
「僕はもうたくさんだ」
「だから?」
「『さよなら』を許して」
そう言って僕は飛び降りた。
この、世界から。これでやっと、僕は開放される。君との思い出も生きていた記憶も何もかもを忘れて。
ごめんね、こんな僕を……許して。
それはこの世界から『僕』という存在が完全に消えたことを意味する。完全な人生の終りを。
〈追憶〉
僕は子供の頃から価値観が他の人と合わないことが多かった。
だから……受け入れられることがないと分かった僕は両親にも話すことはしていなかった。友達にも、家族にも話さずにしようと。
けれど。僕がふと漏らしてしまった本音を彼女は笑わず受け入れてくれた。
その日から……僕の人生は大きく変わった。信頼できる人がいることがこんなにも心の支えになることを僕は知らなかったんだ。
「私もね、同じなの」
ある日、彼女は僕に言った。彼女も自分が受け入れてもらえないと思う時があったらしい。
僕達の関係は似たもの同士の、ただ認めてほしいという欲望を満たすための関係だったのかもしれないと僕は思う。
それでも。僕はあの日々が幸せだったということは確信を持って言える。
それなのに。今の僕は彼女に何も伝えられない存在になってしまった。
きっと彼女が泣いているのは同じ価値観を共有し、ある意味自分の半身とも言える存在が無くなったからだろう。
自分のことをそんなふうに言うのはいささか過大評価し過ぎだとも思うけど。
ああ、神様。
酷いとは思わないんですか?
この言葉を何度問いかけたことだろうか。
死を宣告されたあの日、僕は交通事故で死んだことになっている。なっている、というのは僕自身に実感がないからだ。
宣告された時、既に僕の魂は神様が僕の肉体から取り出していたから。肉体の方は神様の仕組んだ事故により損傷。
壊れた体にはもう、戻れない。
ただ神様は僕やあの子が傷つき、悲しむのを見て笑っている。
それがこの世界の真理だったんだ。
僕は『僕』がこの世界から消える寸前にこんなことを考えていた。走馬灯というやつだろうか。
「さよなら」
最後に呟いた言葉は風にかき消されて誰の耳にも届くことは無かった。
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