表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/213

8話 バーチャルで体験!

 放課後の『地底探検部』部室。

 部長の葵 月夜(あおい つきよ)、部員の夏野 空(なつの そら)倉井 最中(くらい もなか)の3人が集まっている。

 ここには葵月夜の妹、葵 海(あおい うみ)は、もちろん参加していない。

 不敵な笑いを漏らしながら葵月夜がカバンの中から何かを取り出す。

「ふっふっふっ。今日はこれで地下世界を体験してみようと思う!」

 ジャジャーンと12インチぐらいのタブレット端末を長机に置いた。

「これって…スマホでよくないですか?」

 素朴な疑問を夏野が口にする。

「ふふふ。違うんだよ空君! スマホだと画面が小さいだろ? これだと三人で一緒に見られるからさ!」

「あ! なるほど~。それじゃ、月夜部長が真ん中に来て、わたしと最中ちゃんが両側でいいですね」

 有無を言わさず夏野が倉井に指示して葵を挟んで座る。

 二人とも葵にピッタリとくっついているので、なんとも居心地が悪い。


「そ、それでは、どこか見てみようか。最中君は地上について詳しいかね?」

「そうですね。だいたいはわかります」

 葵が倉井に聞きながらタブレットを操作していく。

「そうか。では、大阪に行ったことはあるかな?」

「いえ、都市部は地下鉄や下水などが編み目のようになってまして、地上との接続が難しいので」

「そうなのか。空君はどうかな?」

「えっと、東京は二度ほど行ったことがありますよ! でも、地下街はわかりません」

 少し遠い目をしながら夏野が答える。

 彼女たちの答えを聞いて満足そうに(うなず)く葵。

「良かった! わたしも大阪や東京とか行ったことないからさっぱりだ。というわけで、今日は大阪の梅田地下街にレッツゴー!」


 葵がタブレットをタップすると梅田地下街のストリートビューが表示された。

「「「おお~~!!」」」

 3人はハモって画面に釘付けになる。そこには柱が何本も立った地下街が映されていた。

 しかし夏野はあることに気がつく。

「……誰もいませんね?」

「きっと早朝か閉店後に作成したんじゃないかな。寂しいが探検している気分になるよな?」

「ふふ、そうですね」

 ふと横を向いた夏野はまた気がついた。

 近い! めちゃ月夜部長の顔が近い! 綺麗な横顔につい見とれてしまう夏野。

 その事に気がついていない葵は、タブレットを操作して地下街の中を探索してく。

 しばらく見つめていた夏野だったが、目の端にタブレットの画面を認めると慌てて葵の操作を止める。

「月夜部長! ストップ!」

「な、なにかね空君!?」

「そこの角を曲がってください!」

 言われた通りに角を曲がるとショッピング街のようで、左右にアパレルショップが並んでいる。

「あ! ここです!」

「なにを発見したんだ空君!?」

「ほら、見て! わたしの好きなブランドショップ!」

「は?」

 満面の笑みでブランドショップを拡大している夏野。葵は(あき)れた。

「月夜部長は好きじゃないですか? ここ」

「いや、いいとは思うがわたしには地味に見える」

 なんだかんだと夏野のブランドショップ巡りに付き合わされる葵。

 ワイワイと楽しそうにアパレル店を探索していく。


 しばらくしてハッと気がついた葵がタブレット画面に釘付けな倉井に話しかける。

「最中君! 先ほどから寡黙(かもく)だがどうした?」

「あっ! いえ、あまりにも華々しくて見とれてました」

 照れながら倉井が答える。その様子に微笑んだ葵は倉井の肩を抱いた。

「よし、これからは最中君が操作したまえ! 自分の好きな場所を探検だ!」

 葵がタブレットを倉井の前に置き、簡単に操作を教える。

 最初はおっかなびっくりにタップしていた倉井だったが、操作に慣れるとスイスイと地下街を進み始める。

 そして、飲食店や雑貨の前で止まっては看板やポスター、店内の様子を確認していく。

「これは…?」

「ああ、これは立ち食いそば屋だ。イスがなくて、素早く食をすますのに適している飲食店だな」

 わからない場所などを葵に聞く倉井。葵は一つひとつ丁寧に教えていく。

 なるほど、倉井は地下街が初めてなのだろう。だから目に映るものが珍しくて楽しいのだ。

 夢中で画面を見ている倉井に優しい眼差しを向ける葵。だが、彼女も初めては一緒なのだった。

 夏野は身を乗り出す形で倉井の操るタブレットを見ている。

 この体勢だとさっきよりも葵に密着していた。

 ああ、良い香りがする……。それに横顔見放題! 夏野は違う意味で楽しんでいた。


 ちょうど部室に入ろうとして、ドアを半開きで中の様子を見ていた顧問の岡野(おかの)みどり。

 身を寄せて和気あいあいな3人を見て、入る切っ掛けを失っていた。

 ちぇっ、せっかく差し入れのお菓子を持ってきたのに……。

 明日にするか──

 フッと微笑みドアを閉めると(きびす)を返して、みどり先生は職員室へと戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ