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5話 お宅訪問! その1

 市立深原(ふかばら)中学校・高等学校の校門前に、ユニ〇ロで購入した服を着て葵 月夜(あおい つきよ)が紙袋を持って立っていた。

 ポケットからスマホを取り出し時間を確認しょうとすると、

「葵部長ーー!」

 夏野 空(なつの そら)が小走りに来た。顔が嬉しそうだ。

 秋らしい暖色でまとめられている私服に学校では見せない一面を見た気がした。

 すると別の方角から倉井 最中(くらい もなか)がしずしずと学生服で来るのが見えた。

「おお! ちょうど良かった! これで全員が揃ったな!」

 2人が近づくと葵は安心したように声をかける。

「葵部長ってオシャレですね! とってもステキです!」

「そ、そうか? 実は妹に選んでもらったんだが…」

「そうなんですか。でも、葵部長なら何着ても似合いそうですよね」

 夏野のヨイショに照れる葵。倉井は横でコクコクと(うなず)いていた。


 3人は落ち合うと倉井の案内で道を進む。

 倉井は出戻りの形になるが、苦情も無く2人を導く。

 道すがら葵は倉井に尋ねる。

「ところで、家の者には我々のことを伝えてあるのかな?」

「はい。大丈夫です」

「そうか、ならよかった。突然、地上人が現れたらビックリするだろうからな。はははっ」

「ふふふ。両親も楽しみにしてました」

 楽しそうな倉井の声に夏野はこれから訪れる地底世界にワクワクと心が躍った。

 最寄りの駅方面に歩く事10分。倉庫のような場所へと着いた。

 倉井は片手で入り口のドアを示す。

「ここがそうです」

「ん!? そうなのか? いや、しかし、ずいぶんと倉庫のような家だなぁ」

 葵は見たままを口に出すと倉井はにこやかに返す。

「クスッ、違いますよ。ここから下に降りるんです」

「ああ、なるほど! そうだと思ったんだ! 変だもんね!」

「葵部長…」

 慌てて誤魔化す葵に夏野が冷たい視線で突っ込みを入れる。


 倉井は鍵を取り出すと倉庫のドアを開け中に入る。

 葵と夏野も続くと倉井は入ってきたドアを閉めて鍵をかけた。当然内部は真っ暗だ。

「最中君。真っ暗だぞ! ハッ!? まさか君は暗い所も見えるのか! さすが地底人!」

 真っ暗な中、怖くて腕にしがみついてる夏野を気にせず、葵は感想を(のべ)べた。が、

「違います。少し待ってください」

 倉井の声だけがどこからか聞こえ、カチッと音がすると倉庫内に明りが灯った。

 広い倉庫の真ん中に3メートル近くはある円筒形の小屋が見えた。

 小屋には大きな両扉がついており、倉井は近づいて鍵を開けると再び両扉が現れ、これを開いた。

「おおーー!」

 葵は思わず声を出して内部を見る。

 筒の中はがらんどうで左右の壁側にイスが3脚づつ並んで備え付けられており、それぞれにシートベルトがついている。

 真ん中はわざと空けているようだ。ここに荷物を置くのかもしれない。

 倉井は葵たちを中へ招き、イスに座らせるとシートベルトを締めた。そして内側の両扉を閉じる。

 壁掛け電話のあるイスに倉井が座り、同じようにシートベルトを締めると電話機に手を伸ばして受話器を取った。

 そして電話機についている呼び出しボタンを押すと、緑色のランプがチカチカと応えた。

「もしもし。こちらは準備ができました。よろしくお願いします」

 そう言って受話器を戻すと葵たちに顔を向ける。

「これから下に降ります。危ないですからベルトは外さないでくださいね?」

 倉井の忠告にコクコクと葵と夏野は(うなず)いた。

 すると、ガクン! と筒が揺れる。

「おお……」

 思わず声が出た葵だが夏野も緊張しているのか口を一文字につぐんでいた。

 次の瞬間、ストン! と地底へと落下した。

「おおおおおおおぉーーーー!」

 いきなりのフワッと感に葵が絶叫する。そのとき葵は思い出していた、遊園地の絶叫マシーンが苦手な事を。

 そして特に嫌いだったのがフリーフォール系だったことを。

 ギュッと目をつぶるが胃が持ち上がってきて気持ち悪くなる。口を閉じようにも開きっぱなしだ。

 我慢できず、叫ばずにいられなかった。

「うぁあああああああああーーー! おかあーーさーーーーまーーー!」



「……ぶー」


「…ぶちょー」


「葵部長!」

「ハッ!!」

 誰かに呼ばれ気がついた葵は頭を起こして周りを見る。

 心配そうな夏野が葵の手を握って呼んでくれたようで顔が近い。

「大丈夫ですか? 何か叫んだと思ったらカクンって気絶してたから」

「い、いや、ありがとう。だ、大丈夫だよ。心配かけてすまなかった」

 なんとか状況を理解した葵が答えると、ホッとしたように夏野は身を離した。

「地底に着きましたよ」

 倉井が優しく教えてくれる。

 シートベルトを解除して葵は立ち上がるが、足元がブルブルしている。先ほどの恐怖がまだ残っているようだ。

 2人に助けてもらいながら円筒形の部屋を出ると、通路が真っ直ぐに先の両扉まで続いているのが見えた。

「ここは地下何メートルなんだ?」

 葵はふと思った疑問を口にする。倉井はうーんと少し考えてから答えた。

「たぶん500~600メートルくらい? だと思います」

 驚いた葵はマジマジと倉井の顔を見る。

「何!? 本当か! それにしては過ごしやすい気温だが?」

「えっと、触媒(しょくばい)があるみたいですよ。わたしも詳しくないんですが…それで私たちが活動しやすい環境を整えたと昔、父から聞きました」

 倉井は落ち着いた声で葵に語る。自分たちは普段いるからあまり知らなさそうだ。

「なるほど……。わかったようなわからないような…」

 謎の触媒にどう納得すればいいのか葵は助けを求め夏野を見るが、エヘヘと愛想笑いで返された。

 両扉にたどり着くころには葵も回復し、普通に歩けるようになっていた。


 倉井が両扉を開き中へと進む。

 葵たちも入ると、そこにはスラリとした体に中性的な美しい顔立ちの人物が立っていた。

「はじめましてこんにちは。ようこそ地底へ」

 にこやかに挨拶をする。

 ズキューーン!

 えっ! と夏野は隣から聞こえた声に顔を向ける。

 どうやら葵が口に出したようだ。というか擬音を言うって何?

 美しい人物をガン見している葵に夏野は驚いた。ひょっとして……?

 その人の隣に来た倉井が紹介する。

「この方は盛戸(もりと)さんです。主にエレベーターの管理をしていま…」

 まだ言い終わらないうちに、葵は素早く盛戸の目の前まで移動すると相手の手を握る。

「初めまして葵月夜です! わ、わたしと親しくなりませんか?」

「葵部長ーー!!」

 突然の告白にビックリした夏野が叫ぶ。葵部長が面食いだったのと、手が早いことへの二重に驚いていた。

 かなりなグイグイに盛戸はタジタジになる。

 慌てた倉井が2人を引き離しながら叫んだ。

「盛戸さんは女性です! 盛戸沙知(もりとさち)っていいます!」

「な、なんだと……!?」

 ヨロヨロと後ずさる葵。解放された盛戸は顔が恐怖で青くなっていた。

 夏野はその様子を見ていて、ここって本当に地底なのかしらとため息をもらした。

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