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4話 服を選べ!

 鏡に映る自分を見る。

 ジャージだ。どう考えてもジャージ。

 くるりと一回転してもジャージ。もちろん学校指定の名前入りジャージ。

 葵 月夜(あおい つきよ)はうなだれて妹の部屋へ向かった。

 ふすまの前でノックしようと手を上げたところで中から声が聞こえた。

「今度は何? 絶対に協力しないし、付き合わないから! 大っ嫌い!」

 妹の(うみ)の言葉に月夜はガックリと膝を落とした。

「そんな…。海の美的センスを頼りにしていたのに…。海はいつもオシャレだから、お姉ちゃんにアドバイスが欲しいんだ…」

 泣き出しそうな声でふすまの隙間から声を出す。

「海のコーディネートでお出かけしたかった…」

 するとふすまが開いてポニーテールの妹、海が出てきた。

「今回だけだかんね? 情けない姿のお姉ちゃんが人に見られたら恥ずかしいから!」

「うみーーー! ありがとーーー!」

 感激した月夜は妹を抱きしめる。まんざらでもなさそうな妹は抵抗する気配はない。

「では、さっそくお願いしたい。さ、わたしの部屋へ!」

 妹を連れ立って月夜は廊下を(へだ)てた向かいの部屋のふすまを開ける。もちろんそこは月夜の自室だ。


 そこにはギャル風の服が畳にきれいに並べられていた。

「…なんでよ? いっぱい服があるじゃん!」

 オシャレ着を見て立腹した海が月夜に詰め寄る。

「ま、待て! これには訳があるんだ! どれでもいいから手に取ってくれ!」

 言われて身近な服を取り上げて見る。

 広げて見るとティーンズ紙でギャルが着ているようなヘソ出し確実な短い半袖。

 ん? と思った海はもう一つを手に取ると花柄のショートパンツ……。

「なによこれ? 全部夏服なワケ? 秋物は?」

「それが…今年の春に捨ててしまって」

「はぁーーー!? バカ?」

 あまりの姉の突飛な行動に思わず罵倒する海。焦った月夜は言い訳する。

「いや、言いたいことはわかる。だけど、どれも胸がきつくて…」

「え!?」

「サイズ的にどれも小さくて。丈は合ってるんだが、どうしても胸が締め付けられて痛いんだ」

 お姉ちゃん……海は絶句した。

 とたん姉との距離がスィーーっと遠くなる。そんな数か月で成長するものなの? わたしは全然なのに……。

 思わずジャージの上から姉の胸を凝視する。

「?」

 妹の視線に困惑する月夜。

 このけしからん胸か! 思わず姉の突き出た胸に海がビンタする!

 バヨン! 想像したより柔らかい感触。

「なっ!?」

 ビックリして両手で胸を隠す月夜。

 何も言わず妹の海は自室に帰る。

 ポカンと妹の行方を胸を隠しながら月夜は見ていた。


 しばらくすると、おめかしした海が戻って来た。

「ほら! ユニ〇ロに行くよ! 今からじゃイオ〇は遠いでしょ。あたしが見繕ってあげる」

「あ、ああ。ありがとう助かるよ。……ところで、さっきのビンタは何故?」

「ちょっとムカついたから。行くよ!」

 スタスタと妹が玄関に向かう。一瞬ほうけていたが気を取り直した月夜。

「ま、待ってよ海!」

 慌てた月夜がジャージ姿で後を追いかけた。


 家から出た2人は徒歩10分ほどの所にあるバス停へと向かった。

 しばらく待っていると目的地である国道へ行くバスが来て乗り込む。

 空調がきいている車内のイスに座ると2人は暖かさに一安心する。

 妹の海はチラリと隣に座る姉を見た。

 美人なお姉ちゃんなのにジャージだ。これでは部活の途中でどこかの高校に向かうみたい。

 性格も相まってガッカリ美人な姉に海は嘆息した。

 ふと姉が優しい笑みで海に向いた。

「久しぶりだな。こうして2人で出かけるのは」

「あー、そうかもね。2年近く前ぐらいかなー最後は…」

 そこでハタと海は気がついた。

 ちょうどその頃から姉の様子がおかしくなったのだ。

 それまで黒髪ロングで優等生だった姉。中学では生徒会長を務め、優雅なたたずまいによく女子や男子から告白されていたっけ。

 だけどあるとき、突然変わってしまった。言葉遣いもそうだが服装のセンスもおかしくなった。極めつけは、髪の毛を切って染めたことだ。母は激怒して三日三晩、姉と大喧嘩をしていた。でも、今は認めているみたいだけど。

 バスの窓から景色をボーっと眺めて海が昔を思い出していると月夜が声をかけてきた。

「そろそろじゃないか?」

「んー、だね。次だよ」

 答えながら海は思ったより時間が過ぎていた事に驚いていた。

 妹が物思いにふけていた時、姉はずっと黙ってくれていたのだ。いつも騒がしい姉だけど、根っこの部分は昔と変わらないのかな? 姉が変わったことに毛嫌いしていた海は少し考え直した。


 バスから降りた2人は国道の大通り沿いを歩いていく。

 地元の駅より街道沿いの方がチェーン店などの店舗が多い。だから地元民はバスか車で買い出しによく来る。

 広い駐車場を完備している郊外型のユニ〇ロ店舗に入るとさっそくレディースコーナーへ向かう。

 妹の海がいくつか服を見繕っている間に姉の月夜はどこかへ行ってしまった。

 さっきまでわたしの後ろにいたのに…。落ち着きのない姉にイラっとする海。

 とりあえず選んだ何点かを手に持ち、広い店内で姉を探した。

「おーい! 海! 一応、あたしも選んでみたけどどうかな?」

 どこからか姉が海の前に出てきた。

「どこいってたのよ! 探したじゃん!」

「ゴメン、ゴメン。それより、これはどうかな?」

 謝りながらも姉がカゴに入っている服を見せてきた。

 ドクロ柄でピンクのスエット上下セット、なんか袖幅の広い黒ニット…。むしろユニ〇ロでこんなのが売ってたなんて知らなかった。

 何も言わず姉の買い物カゴを奪い取った海は自分の持ってきた服を出す。

「お姉ちゃんのはギャルすぎる! もっと普通のにしなよー!」

「ええ! 普通だろ?」

「違うから! あたしがコーディネートするって言ってたでしょ!」

「あ、そうだった」

 思い出した月夜が後ろ頭をかいた。そう言えば妹に頼んだったのだ。

 海が持ってきた白ニットにプリーツスカート、薄いジャケットを試着してみることにした。


 海が試着室の前で待っていると月夜が頭だけをカーテンから出してきた。

「着てみたけど、自信がないんだけど…」

「いいから! さっさと見せて!」

 海が短気に急かす。

 カーテンが開くと、見事に着飾った姉が出てきた。茶髪が軽さを引き出してとても似合っている。

「…ど、どうかな?」

「いいよ! メチャいいよ! さすが、あたしが選んだから!」

 ティーンズ紙にいそうな姉の姿に自画自賛する妹。褒められた姉は頬を薄く染めると照れてカーテンを素早く閉めた。

 試着室から出た月夜はこの服を買うことにした。

 が、ある事を思い出した。

「あ! そういえばお金がない……」

「はぁ!?」

 姉の言葉に海は固まる。ここまで来て、それはないだろうと。

 無言で涙目の姉が妹を見つめてくる。

「ああもう! わたしが払ってあげるから! いい? これが最後だかんね!」

「ありがとう海! この借りはいつか返すから!」

 感激した月夜が妹を抱きしめる。

 中学生の妹に支払わせる姉もどうかと思うが海はグッと我慢した。


 会計をしている妹の後姿を見て月夜はニヤリとする。

 こうして姉にいいように利用されている妹……。

 月夜は言葉づかいは悪いが、素直で優しい妹に感謝した。


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