194話 プレゼントを買うよ!
ターミナル駅を乗り換えて目的の駅につき、バスに揺られた先はこの地域唯一のイ○ンモール。
夏野 空と倉井 最中は人々で賑わう施設の中へと吸い込まれていった。
「ごめんね。ほんとは海ちゃんときたかったでしょ?」
「ううん。わたしもプレゼント選びたかったから、空ちゃんに誘われてよかった」
「よかった。頑張っていいの選ぼうね!」
「うん!」
二人はクリスマスのプレゼントを買いにモールへと来たのだ。
夏野はこっそりと編み物にチャレンジしていたが、どうしても綺麗にできずに苦戦していた。
そこで保険のつもりで別にプレゼントを用意しようと思い立ったのだ。どちらかといえば本命はこちらになりそうだが。
対して倉井は夏野に誘われるまで、クリスマスプレゼントについて考えていなかった。
去年のことを思うと、気持ちのこもったものを葵 海に渡したい。
直前で慌てるより余裕のある今のうちが安心だ。だから夏野に言われて助かったと倉井は思っていた。
そんな二人は好きな相手に渡す最高の一品を探し出す気でいる。
人混みに流されつつもアパレルショップへと向かっていった。
休日のこの日はさすがに人出が多い。
なるべく混雑していない方を通っているが、それでもすれ違う人の多さに倉井はくらくらしてきた。
「最中ちゃん大丈夫? 顔色が悪くなってきたけど」
「まだ平気。だけど人が多いね」
「向こうにイスがあるから少し休もう。それに喉が渇いたし」
人酔いし始めた倉井を気遣ってか夏野はイスのある壁側へ向かい座る。
ふーと息をつくと二人はポーチとリュックからペットボトルを取り出して飲み始めた。人混みの暑さもあるが、施設内は空調で乾燥していた。
渇いた喉を潤し座っていると気分も落ち着いていくる。夏野の判断は正しかったようだ。
上着を脱ぎ、続けて夏野がリュックからカロリー○イトっぽい栄養食品ブロックを取り出し倉井へ渡した。
「はい、これ食べて。ビタミン類が最中ちゃんの体を補うから」
「ありがと」
柔らかいクッキーっぽいブロックを口に放り込み、もぐもぐと食べる。
味もココア風味なので倉井はお菓子感覚で三つほど口に入れてしまった。
相変わらず甘いお菓子に目がない倉井に夏野は楽しそうに笑う。
「あんまり食べるとお昼が入らなくなるから我慢してね。ところで最中ちゃんはプレゼントについて何か決めてる?」
「うーん。海さんには可愛いのがいいかなと思ってるけど具体的には…まだ」
「そうなんだ。難しいよねー、選ぶの。月夜先輩ならギャル服だと喜びそうだけど、あんまりわたしの趣味じゃないしなー」
「ふふっ。難しいよね」
「ね!」
なかなか意中の人へのプレゼント選びは難航しそうで、夏野と倉井は笑い合う。
人通りも落ち着いてきたようで二人は立ち上がってショップへ向かった。
とりあえず近くにあった雑貨屋に入る。流行りのシンプルな品から北欧デザインのおしゃれなアイテムが目立つセレクト店だ。
夏野たちと同じような十代の女の子たちが楽しそうに商品を見ていた。
確かにおしゃれだけども、どれも月夜先輩には合わないなとギャル姿を思い浮かべながら夏野は思った。
それでも新しいアイテムを発見して楽しむ夏野と倉井。夏野は何かを挟む台座に回転するハンドルがついている商品が目についた。
「これなんだろ?」
「不思議な形だね。こっちに説明が書いてあるよ。えっと、キャベツや大根などを挟んで取手を回すと千切りができるんだって。ふふっ。面白い」
「へー。便利そうだけど場所をとるね。でも楽しそうだから一回やってみたいね」
「わたしもやってみたい!」
「あはは、だね! あっ!? あっちにエミュー柄の雑貨があるよ!」
「本当に!」
夏野が見つけたコーナーへ向かう。倉井と海がエミューにハマっているのを知っていたのだ。といっても、地底探検部の部員たちは全員知っているわけだが。
そこにはエミュー柄の弁当箱やエプロン、コップにハンドタオルなどが並び人気があることを示していた。
倉井は嬉しそうに眺める。
「わぁ〜すごい!」
「こういうプレゼントもいいかもね?」
「うーん」
夏野の提案に倉井は首を横にこてんと傾けた。どうやらお気に召していないよう。
「他にする?」
「うん。かわいいけど、今はオカピが一押しなんだ」
「あーなるほど。エミューから変わったんだ」
「うん。ちょっと前から海さんと盛り上がってて、動画をよく見てるよ」
「そうなんだ」
いつのまにか倉井と海の好みが変わっていたようだ。
そういえば、好きな動物がころころ変わっていたなと夏野は思い出して微笑んだ。
残念ながらこの雑貨屋には期待していたものがなかったようで、二人は別のショップへと向かった。
通路沿いにあるショップを眺めながらゆっくりと進む。
と、夏野が何かに気がついたようで倉井を引っ張ってショップの中へと連れて行った。
「最中ちゃんごめんね。わたしが好きなブランドだから少し見てていい?」
「もちろん」
そんなわけで倉井が店内を見渡してみればアウトドアブランドのようで、アウターやグッズなど全体的に地味な色合いが多い。
ウエアにプリントされているブランドロゴをよく見てみると倉井に馴染みがあるマークだった。
「これ知ってるよ空ちゃん」
「本当に! とうとう最中ちゃんも機能重視のウエアに目覚めたんだ!」
マークを指さす倉井に夏野は仲間ができてテンション高めに返事をした。よほど嬉しかったようだ。
しかし、倉井はすまなそうに首を横に振ると小さな声で答えた。
「そうじゃないけど。この服を作っているのお父さんのいる会社なんだ。その…地底人の会社なんだけど」
「マジで!? すごい最中ちゃん! だから機能が誇張じゃなくて実用的なんだ! ひょっとしてわたしって先見性がある!?」
地底人の会社だから嫌がられるかと思ったが、逆に信頼感が増したようだ。やはり地底という過酷な環境のせいだろうか。
自宅ではよくわからなかったが、こうして世間の店にあると父親の仕事がよくわかる。特に喜んでいる人が身近にいればひとしお。
それから夏野は安いインナーを二点購入し、倉井に社員割引はあるのかなと聞いていた。どうやら倉井を通して安く手に入れようと考えているようだ。
倉井は苦笑しながら今度聞いてみるよと答えていた。
休憩がてら早めに昼食をとった二人は、再び広いモール街へと繰り出した。
備え付けてあった館内マップを入手してショップを巡る。
途中にあった売店でマンゴースムージーを買って、ずるずるすすりながら回る夏野と倉井。
なかなか思い描いていた商品に出会えなかったが、面白い物を見つけては楽しんでいる二人には焦りはなかった。
たまにはこうして友人と回るのもいいものだ。
互いに好きな人のことを話し合えるのも学校ではできないことのひとつ。
気兼ねなく遊べるのも楽しい。
前に部員たちでモールを回ったのも楽しかったが、笑う夏野を見てこうして親しい友達だけでも楽しいなと倉井は思った。
休みを挟みながらショップを見ていき、とうとう二人はプレゼントを決めて購入した。
「海さんに喜んでもらえるかな?」
「もちろんだよー。これを渡せばイチコロだね! 楽しみだねクリスマス!」
自分の選んだプレゼントに不安げな倉井を夏野が励ます。
そんな夏野も購入したものに自信があるわけではなかったのだが。とはいえ、相手に喜んでもらえたらとの気持ちは一緒だ。
かわいいリボンをつけた包みを大切にしまった倉井は満足げに微笑んだ。