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187話 ひさびさの地下だ!

 地底探検部の部員たちを前に部長の夏野 空(なつのそら)は宣言した。

「そういうわけで来ました! 今回はここで探検しまーす!」

「いや、空君。ここといってもイ〇ンモールだが?」

 葵 月夜(あおいつきよ)のツッコミも当然で、部員たちがいるのは地域で唯一の大型商業施設イオ〇モール。人々が行き交う広いエントランスに立っていた。

 久しぶりの野外活動に夏野が選んだのがここだったのだ。

 詳細を説明せずに部員たちを連れてきた夏野は自信満々。一体何があるのかと月夜たちは首をかしげた。

「ところで(ゆき)先輩と秋風(あきかぜ)先輩が見当たらないんですけど?」

「ああ、それなら雪はバイトだ。紅葉(もみじ)は雪がいないから出ないと言付(ことづ)けがあったぞ」

「…そうですか」

 聞かれて思い出した月夜の言葉に夏野は今さらかと苦笑した。

 どうりで集合場所に現れなかったわけだ。てっきり先に行っているのかと夏野は思っていたから、まったく違っていた。

 部員が二人減ったが、まあいいだろう。

 気を取り直した夏野は拳を突き上げる。

「それでは出発しまーす! みんなわたしについて来てね!」

「早く行こう! ここは寒くていかん。なるべく暖かい所へ行こう!」

 薄い革ジャンを羽織った月夜が震えながら先へとうながす。もっと暖かいギャルコーデにすれば良かったのに、選ぶ服を間違えたようだ。

 そんなこんなで部員たちは夏野の案内についていくのであった。


 夏野はそのままエントランスから施設内へと入らず、脇へと向かい北風の吹く外へと出ていく。

「こっちですよー! そっちじゃないですから気をつけてください!」

「いや、空君。ここにはイ〇ンしかないぞ?」

 早く暖を取りたい月夜に言われた夏野はえへへと笑う。

「違うんですよ! こっちです!」

 自然と月夜の手を取った夏野が先へと導く。

 冷え切った手は思ったのと違ったが、それでもつないでいるのだ。もうちょっと漫画みたいな温もりが欲しかったなと夏野は少し残念だった。

 ちょうど大型施設に隠れるように、もうひとつの建物が見える。

 どうやら新しくできた施設のようだ。外観はすでに建てられている施設に合わせてあるようで、よく馴染んでいる。

 歩いて一分の場所に建てられたのは新規開業したばかりのモールの二号棟。部員たちが知らないのは無理はない。

 自信満々に夏野が紹介しはじめた。

「ここでーす! なんと先日オープンしたんですよ! なんとここには地下があるんです!」

「おぉおお……これは凄いな。いつのまにできていたんだ。ところで空君。ここから二階が見えるんだが、どうやら空中通路で二つの施設がつながっているようだ。つまり、先ほどのイ〇ンに入って中から行けるのではないか?」

「さ、みんな行きましょー! 楽しみですね!」

「うむ。しらじらしいほどのスルーぷりだな空君」

 月夜のもっともな言い分も笑顔で誤魔化して先に進む夏野。

 こうして新しくできた施設へと部員たちは入っていくのであった。


 やっと空調の効いた施設内へとやってきた部員たちは一息ついた。

 まだまだ本格的な冬の前だとはいえ、夏の暑さを覚えている体には寒さがきつく感じる。

 ぞろぞろと大きな案内板の前へ向かい、施設内のフロア情報を見る。

 そこには地下一階、地上二階の建物の全容がわかりやすい図面で描かれて案内されていた。

 夏野はピッと地下のフロアを指で示す。

「ここです! この新しい施設はアドベンチャーっていうテーマで建てられたそうなんです。地下が過去の世界で、今いる一階のフロアが近代、二階が未来を表現して楽しくショッピングできるようにしているとホームページに書いてありました」

「ふむ、なるほど。この案内板ではフロアの雰囲気はわからないからな。実際に行くということかな?」

「です! さ、あそこのエスカレーターで地下へと行きましょう!」

 入口近くにあるエスカレーターへと月夜を引き連れて向かう夏野。部員たちもその後ろをぞろぞろとついていく。

 しかし、同行していた岡山(おかやま)みどり先生はちらりと見てしまった。

 今いるフロアの先に自分の好きなスイーツ店が並んでいる事に。あとで絶対に見ようとみどり先生は心に決めたのだった。

 エスカレーターを下って降りた先は、まるで洞窟のようなゴツゴツした岩肌の壁があり、明かりの量を少し落としていかにも地底にいるかのようにできている。

 各ショップの入り口も洞窟のようにぽっかりと穴をあけたような凝りようだ。

 巨大なキノコが生えた壁はさらにところどころ崩れたようにできており、その隙間から太古にいた恐竜がこちら側を覗いてる。

 フロアの壁を見た月夜は感動して(つぶや)く。

「こ、これは……まさしく地底旅行の世界ではないか! きっとこれを作った人はジュール・ヴェルヌの大ファンだったんだな!」

 嬉しそうにぺたぺたと壁をさわりまくる月夜。ちょっとしたサプライズができた夏野は上手くいって、くすくすと笑う。

 部員たちが地底世界を堪能して通路を進んでいくと段々と壁の様子が変化してきた。

 やや暗かった照明が明るくなり、大きなシダ植物が乱立するような世界に変わり始めた。

 巨大な昆虫が天井に描かれ、青空が広がる。先ほどまでと違って解放感あふれる世界になったようだ。

 洞窟の陰から覗き込んでいた恐竜たちも、晴れた空の下に堂々たる巨体をさらけ出す。

 どうやら恐竜のいた時代へと進んでいたようだ。

「ぬう。もう洞窟は終わりか……。短いな……」

 残念そうな月夜は名残惜しそうに通った通路を振り返る。

 そこまで気に入っていたのかと焦った夏野はみどり先生に声をかけた。

「みどり先生。わたしと月夜先輩はもう少し洞窟エリアを見てきますから、先に皆で行ってください。あとで合流しますから」

「そう? 迷子になったら携帯鳴らしてね。いい?」

「はい。それではあとで!」

 手を振ってみどり先生と別れた夏野は、月夜を連れ出してきた道を戻り始める。

「おや!? いいのかい?」

「もちろん! 地底探検ですからね」

「ふふ、そうだな。冒険しなくてはな!」

 笑う月夜と夏野は最初に下りた地点へと向かっていった。


 再び戻った地底エリアで月夜と夏野は、その世界観を堪能した。

 最初に来たときに見てない場所を探してエリア内をうろつく。

「おおっ! ここの岩陰に水晶が生えているぞ! こっちの大きな葉に隠れているのは小さな恐竜だな!」

「あっちにも何かありますよ!」

 新しく発見するたびに月夜は喜び、夏野は嬉しそうだ。

 二人は見つけたものが何なのかと話し合ったり、イメージの元となった小説の感想を言い合いしながら通路を探索していく。

 小さなエリアだが、そこかしこに架空の地底洞窟を再現してあり月夜と夏野は探検気分を味わっていた。

 通路には大きなキノコのイスが連なって置いてある。

 休憩がてらに月夜と夏野はキノコに座った。

 持ってきたペットボトルで喉を潤した月夜は夏野に笑いかける。

「ふぅ、満喫したな。空君ありがとう。まさかこんな場所があるなんて思わなかったよ」

「喜んでもらってよかったです。えへへ」

 照れ笑いする夏野。

 そう。夏野はこの場所が新しくできると聞いて最初は興味が薄かったが、テーマパークのような施設だと聞いてひらめいて調べたのだ。

 情報を得るうちに小さいながらも地底旅行をテーマにしたエリアがあるとわかり、ここを部活動の場所に決定した。

 思った通り、月夜が喜ぶ姿を見れて夏野は幸せだった。

 今年もあと二か月と少ししかないし、来年になったら三月で月夜は卒業してしまう。

 少しでも月夜に部活を楽しんでもらおうと夏野は考えていたし、あわよくば今のように二人きりですごしたい。

 己の欲望を満たしつつ相手のために動くという、ちょっと欲張りな夏野であった。


 月夜は微笑み夏野に目を向ける。

「地底探検部に空君が入ってくれて本当に良かった。空君がいてくれたから他の部員たちも続いてくれたからね」

「そんなことはありませんよ。月夜先輩にみんなが親しんでいるからです」

「ふふ。だといいが。私は空君に感謝していることは覚えておいてほしい」

「なんか照れます。えへへ……」

 急に月夜に持ち上げられ頬を赤くする夏野。今まで頼りにされたことはあっても、ここまで褒めてもらったことはなかった。

 よっぽどこの場所が気に入ってくれたのかなと夏野は嬉しく思う。

 なんとなく照れくさくて、夏野はさっと立ち上がって月夜に手を伸ばす。

「みんなが待ってますよ! そろそろ合流しましょう!」

「う、うむ。しかし、今休んだばかりなような?」

「いいですから! 最中(もなか)ちゃんたちは買い物で回り疲れてる頃ですよ!」

「ありえるな、それは」

 苦笑した月夜は夏野の手を取って立ち上がり、二人は上の階へと続くエスカレータへと向かった。


 夏野の予想通り、みどり先生たちは別れた後は気になったショップを巡っていた。

 アパレル店をウインドウショッピングしながら回り、スイーツ店に寄っては舌鼓をして口を甘くしていた後はぐったりしていたのだ。

 連絡を取って合流した夏野たちは、この部活動に満足して帰宅することにした。

 帰りの電車の中では各自が立ち寄った場所の感想を言い、疲れを忘れて盛り上がっている。

 今日は良い一日だったなと月夜は妹の(うみ)倉井 最中(くらいもなか)を連れて自宅へと戻っていった。

 しかし、自宅の玄関前で月夜は気がついた。

 地下世界ばかりにかまけていて、新しくオープンしていたギャルショップに寄るのを忘れていたのだ。

 それにいろいろなスイーツも味わってなかった。

 お土産を手に持つ海と倉井に今更ながら目についた月夜。

 その日の夜は妹に泣きついて、お土産をおすそ分けしてもらっていたのであった。


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