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18話 幻の地下街

 地元の駅から電車で30分。

 2つの路線が交じり合う、この辺りで一番のターミナル駅。

 『地底探検部』の3人はその場所へ降り立っていた。

「空君。この駅だね?」

「はい。間違いないです!」

「ふふふ、楽しみ!」

 葵 月夜(あおい つきよ)が聞くと夏野 空(なつの そら)が答え。倉井 最中(くらい もなか)が感想を言う。

 夏野の案ではバスで行く予定だったが、同じ車内での長時間の移動に葵が難色を示したため、妥協案で電車で行くことになった。

 ホントは葵の隣に座って長話をしたかった夏野だが、気の多い葵の性格のために断念した格好だ。

 3人は駅を出ると目的の地下街へ向け歩き始めた。


「ここに来たのは久しぶりだな…」

 懐かしそうに葵が周囲を見ながら話す。

「そうですねー。あまり遠出しませんし、バスか車を使いますよね」

「ふ~ん」

 夏野が同意し、倉井がなるほどと納得する。

 さすがターミナル駅だけあって、商店街も大きい。賑やかに人が行き交っている。

 “すすらん通り”の名をつけた看板が出ていた。

 何かを発見した夏野が葵を引っ張っていく。

「月夜先輩! ほら! タイ焼き屋さんですよ! 食べませんか!」

「…空君、目的を見失わないようにしようね」

 笑顔で誘う夏野に困り顔で付き合う葵。倉井は2人の後をついていく。

 3人がタイ焼き片手に商店街を歩く。

「さすが栄えてるなぁー」

「モグモグ、そうですね」

 思わず(つぶや)いた葵にタイ焼きを食べながら倉井が(うなず)く。

 倉井は久しぶりに見る商店街に胸が躍った。

 昔、父親に連れられて巡った都会はこの商店街よりもお店が多かった気がするが、それでも軒を連ねているお店にワクワクしていた。


 そして、地下へ向かう入り口の前に立った3人。目の前には国道の大通りがあり、車が行き交っている。

「ここかね? 空君!」

「はい!」

 わかっているのに聞く葵。自信満々で答える夏野。

 葵は倉井に顔を向け(うなず)く。倉井も笑顔で頷き返した。

「では、行くぞ!」

 葵の掛け声に3人は階段を下っていった……。


「……うむ。これは地下遊歩道だな。どう思う空君?」

「えっとーー。そう見えますねーー」

 葵の質問にタハハと笑いながら夏野が答える。

 そこは反対側に通じる幅広い通路があった。確かに先までは長い通路が通っているが、店など一切なく両側にシャッターが連なっているだけだった。

 キョロキョロと通路を観察していた倉井が何かに気がついたようだ。

「月夜部長! あれ!」

 彼女が指をさしたのはシャッターの上。

 葵と夏野が目を向けるとそこには看板らしき物がある。

 3人が近づいてよく見ると、黒く汚れている看板にかすかに文字が読めた『田中洋品店』と。

「こ…これは……。昔は店舗だったのか……?」

 衝撃を受けた葵が(つぶや)く。

「そう、みたいですね……」

 夏野も小声で続けた。

 首をかしげた倉井が尋ねる。

「昔はお店があったってことですか?」

「たぶんそうだ。はるか以前は地下街だったのだろう。夏野君の情報は正しかった。だが、古い情報だったようだ。きっと駅前に商店街ができたので人が来なくなったんだ。それで次々と閉店していったのかもしれない…」

 葵の説明になるほどと倉井は見渡した。

 通りの左右にあるシャッターの上には、それぞれ看板が掲げられいて昔の店舗の名残を残していた。

 かなり昔のようで、どれもスス汚れて黒くなっている。だから初めて目にしたときには発見できなかったようだ。

 3人は看板を見ながら地下のシャッター街を歩いていく。

 物寂しげな通りは、やがて上りの階段で終わっていた。


 振り返った葵は2人に告げる。

「戻ろうか……」

 夏野と倉井はそれぞれ黙って(うなず)き、来た道を戻り始めた。

 なんとも暗い雰囲気に葵がつてとめて明るく提案する。

「そ、そうだ! このまま帰るのも寂しいから寄り道していかないか?」

「どこです?」

 夏野が聞いてくる。

「フフフ。それは秘密だよ空君! 行けばわかるさ!」

 葵は答えながら夏野と倉井の肩に手を置き歩き続ける。

 2人は顔を合わせるとフフと笑い合い、葵の腰に手を回した。


 そして葵が連れて行ったのは駅のターミナルビル。

 地下1階の食品売り場へと2人を導いた。

 エスカレーターで降りると葵がドヤ顔で紹介する。

「どうだい? ちょっとした地下街ってことで?」

「あーなるほど。まあ、少し違いますけど、いいですよ」

 夏野が意地悪い顔で答える。

 吹き出した倉井が笑っている。

 食品売り場には洋菓子店が出店していて、地元にはないスイーツが売られている。

 3人はショーケースのお菓子を眺めながら散策した。

 一通り回ったところで倉井が声をかけてきた。

「あ、あの。あそこのお店。もう一度行っていいですか?」

「もちろん。食べたくなったのかな?」

「いえ、両親にお土産を…」

「なんて感心なんだ最中君! わたしも便乗しよう!」

「あ! あたしも!」

 倉井の言葉に葵と夏野が乗ってきた。

 今度は3人で楽しそうに物色しながら、再びお店を回り始めた。


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