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176話 探そう!

 軽やかな足取りで放課後の廊下を通り抜けていく。

 夏野 空(なつのそら)は、今し方同じクラスの友達に聞いた話しを胸にわくわくしながら部室へと急いでいた。

 地底探検部の部室前に着くとドアを開けて室内を見渡す。

 すでに集まっている部員たちは、雑談を交わして暇をつぶしているようだ。

 そこにのっぽなギャルな葵 月夜(あおいつきよ)の姿を発見すると満面の笑みで近づいてゆく。

「月夜先輩!」

「おっ! 空君。今日は遅い登場だね。それになんだか機嫌が良さそうだ」

「えへへ。そんなことより知ってました? なんでもこの学校のどこかに地下に通じる扉があるみたいですよ?」

「なに!? 本当かそれは! 初耳だ!」

「ですよね。わたしも今日初めて聞きましたから」

 そんな会話を二人でしていると、興味を持った他の部員たちも近づいてきた。


「それで? その扉はどこにあるんだね?」

 見当がつかない月夜が夏野に聞いてくる。

 よくよく考えてみれば学校については調べたことがなかった。

 外にばかり目を向けていて足元には気がつかなかった。まさに灯台下暗(とうだいもとくらし)しだ。

 そんな月夜の思慮とは程遠い明るい顔で夏野が答えた。

「なんでも校舎じゃなくて、離れの用具倉庫にあるみたいですよ。意外ですよね」

「なるほど用具倉庫とは。何度も利用していたのに気づかなかったとは意外だ」

「ですよね。友達の話では外側じゃなくて中にあるみたいですよ?」

「うむ。なら、ミドリちゃんに倉庫のカギを教員室か事務で借りてもらうしかないな……」

 月夜が部室内を確認するが肝心な岡山(おかやま)みどり先生の姿が見えない。

「まだ先生は来てないみたいですね」

 同じように部室を見渡した夏野が月夜に代わって代弁する。

「そのようだな。まだミドリちゃんは職員室にいるのだろうか?」

「かもしれないですね。ちょっとわたし見てきます!」

 そう言うと夏野が颯爽(さっそう)と部室を出ていく。

 さすが部長と月夜は頼もしそうに夏野の背中を見ていた。


 しばらくすると夏野が息をきって部室へと戻って来た。

「はぁ、はぁ、はぁ。みどり先生は職員室にいませんんでした!」

「なんだと!? いつもなら部室の一角でお茶をしてお菓子に手を伸ばしている頃なのに!」

 くわっと目を見開いた月夜が驚く。

 その手にはお茶とお菓子が握られていた。どうやら夏野を待っている間に手持ち無沙汰(ぶさた)になって、お茶とお菓子に手をつけていたようだ。

「月夜先輩ずるい! なんで先にお菓子を食べているんですか!?」

「す、すまん。小腹が空いてつい……」

「もー! わたしも後でください! じゃなくて、先生がいないんですよ! どうします?」

「うーむ。ここは手分けして探すしかないだろう。ミドリちゃんがいないと正式に倉庫のカギが借りれないからな」

 互いに(うなず)き合った夏野と月夜は、雑談をしている部員たちへと向き直った。

「みなさん! みどり先生が行方不明です! 先生がいないと今日の部活に支障がでるんです! 協力して(さが)すのを手伝ってください!」

 部員たちに夏野が声をかける。

 いままで夏野と月夜のやりとりを聞いていた部員たちは、それまでの雑談をやめてイスから立ち上がる。

「こういう探し者ってのは楽しそうだな」

 体を動かしたくてウズウズしていた冬草 雪(ふゆくさゆき)が両手の指をぽきぽきと鳴らす。まるでケンカに行くときのようだ。なにか勘違いしているのかもしれない。

 隣にいた秋風 紅葉(あきかぜもみじ)がそんな冬草の腕とって抱きしめる。

「探すふりしてどこかで二人きりにならない?」

 冬草の耳元で秋風が(ささや)く。

 耳を真っ赤にさせた冬草が慌てたように部室を出ていく。

「いいか? そんなことしないからな! あたいは先生を探すからな?」

「大丈夫だって。わかってるから」

 冬草の腕に抱きつきながら引きずれらるように笑う秋風も連れていかれる。

「よっしゃ! あたしらも行くか!」

「はいっ! 先輩のパワフルな行動力なら岡山先生もすぐに見つけられそうですね!」

 春木 桜(はるきさくら)吹田 奏(ふきたかなで)も声を掛け合い部室を出ていく。

「わたしたちは先生が部室に来たときに誰もいないと困るからここにいるね。最中(もなか)もそれでいいでしょ?」

「う、うん」

 月夜の妹の(うみ)倉井 最中(くらいもなか)は部室に残るようだ。

 本当は自分が残る気満々だった月夜は、妹に先を言われ唇をかんだ。当然、どこにいるのか不明な先生を探すより部室にいた方が楽だからだ。

「それじゃあ、わたしたちも探してくるね!」

 ぐぬぬと悔しがる月夜を夏野が引っ張って部室から連れ出す。

 こうして部員たちは二人を除いて校舎へと散り散りになって、みどり先生を探しに行くのであった。


 夏野と月夜は部室棟を離れ、高等部の校舎へと向かった。

 部の顧問であるみどり先生が高校の教師だから、その辺にいる確率が高いと月夜は計算していた。

 だが、そんな二人の予想も外れたようで、校舎のどこを見てもいないようだった。

 しかも先に出た冬草や春木たちにも会うことがなく、夏野と月夜は無駄に校舎をさまよっていた。

 汗をぬぐった月夜が訪れた最後の教室のドアを閉めながら疑問を口にする。

「おかしい……普通ならどこかで出会うはずなのに」

「中等部の校舎にはみどり先生はいないと思うんですよね。ひょっとして校庭か校舎裏かもしれませんよ?」

「ありえる。まずは校庭を見てみよう」

 夏野の提案に乗った月夜はさっそく校庭へと向かう。

 しかし、下校する生徒たちの中にみどり先生の姿はなかった。

「しかたない、校舎裏へ行こう」

「いてくれるといいですね」

 二人は反対側へと向きを変えると校舎裏へと急いで向かっていった。


 すっかり日が落ちるのが早くなり、夜が迫ってくるのがわかる。

 夏野と月夜が校舎裏へ行くと建物の角に貼り付いた冬草たちが、頭ひとつぶんを出して向こう側をうかがっている様子が見られた。

 不思議な光景に顔を合わせた夏野と月夜。なにごとかと冬草たちの元へと向かった。

「そこにはなにがあるんだ雪?」

 月夜が声をかけると驚いて振り返った冬草たちが皆同じように唇に一差し指をあてて、しーっと注意する。

 近づいた夏野が声を落としてヒソヒソと冬草に聞いていきた。

「どうしたんですか?」

「あたいらが校舎裏を探そうと来たら、いたんだよみどり先生が。で、(むらさき)先生も一緒にいたから何かあるんじゃないかって見てるところだ」

「ああ、なるほど。それは興味ありますね」

「だろ? まあ、おまえらも見てみなよ」

 冬草に言われて夏野と月夜も建物の角から顔を出して校舎裏をのぞくと、そこにはみどり先生と恋人の岩手 紫(いわてむらさき)先生が丸太に並んで座って話しているようだった。


 少し距離があるため聞き取れない部分もあるが、二人の話す内容はおおまかにはわかる。

「……ところで、あの話しは大丈夫だった? ……難しいなら別の日でも……ならいいけど……」

「問題ないけど……お母さんが……時間があれば……楽しみにしてるって!」

 どうやら誰かに会う予定を立てているようだ。

 あまりの聞きづらさに月夜はぐぐっと身を乗り出す。

「おわぁ!? 押すなよ!」

 体重をかけられた冬草が驚いて小さな声で抗議する。月夜はすまんと口パクで謝った。

 ちなみに夏野は先生たちをのぞくという建前で、月夜にひっついてギャルの匂いと体温を堪能していた。

 一方、先生たちは一通り話し終わったのか身を寄せ合って座ったままだ。

 そこに岩手先生がハンドバッグからごそごそと細長い包みを取り出し、みどり先生へ渡す。

「これ……なの。ちょっと早いけど……だから。私の……気持ち」

 手にしたみどり先生は感激した表情で包みを両手で大事そうに持ち直す。

 しかし、月夜たちには肝心な言葉が抜けていてイマイチ伝わらない。

 聞きづらくてイライラしだした月夜と冬草を置いて、みどり先生は岩手先生に抱きつき顔を近づけた。

「おおっ!」

 いいところに月夜が先ほどよりも身を乗り出し全体重が冬草にかかる。

「くっそ重いんだよぉおおお!!!」

 ブチキレた冬草が立ち上がって腕を振り回した!

「わぁあああ〜〜!?」

 すると角に縦方向に連なっていた部員たちが月夜もろとも校舎裏の方へ放り出されてしまった。

 ちなみに秋風は上手く逃げたため無事だ。

「いてて…雪は乱暴だなー。あ!?」

 倒れ込んだ月夜が体を起こすと、その先に抱き合ったまま固まっているみどり先生と岩手先生が顔を向けて目を見開いている。

「……」

 無言で立ち上がった月夜は土埃(つちぼこり)をパンパンとはらい、他にも倒れていた夏野や春木、吹田を立ち上がらせて校舎の角へと連れて行く。

 ひょこりと顔だけ出した月夜がみどり先生と岩崎先生にウインクする。

「さ、我々のことは気にせず続けてくれたまえ」

「「できるかぁああああ!!!」」

 抱き合ったままみどり先生と岩崎先生が吠えた!


 □


 部室に戻った先生と部員たち。

 中で待っていた海と倉井はお菓子を片手に楽しそうに話している。二人だけの世界にすっかり当初の目的を忘れているようだ。

 それに比べて部員たちに囲まれてみどり先生たちは居心地が悪そうだ。

 おほんとわざとらしく咳をした月夜がみどり先生を問い詰める。

「ミドリちゃん。プライベートなことは聞かないが、我々部員が必要なときに不在なのはいかがなものかな?」

「ううっ。どうしていつも必要ないのに、こういうときだけ用があるのよ〜」

 密会を邪魔されたあげく責められているみどり先生は悔しそうだ。

 そこに岩手先生が割って入ってきた。

「待って! 私がみどりを連れ出したの。だからみどりは悪くないわ。それにこれは大切な話しだったから、落ち着いた所で話したかっただけなのよ」

「紫、それは……」

「いいから私にまかせて。近々みどりのご両親に会いに行く予定だったの。そこで今日は詳細を詰めて話していたのよ。それにみどりにプレゼントもあったし」

「ちょ、ちょっと!」

 慌てたみどり先生が止めようとしたが、もう手遅れだ。

 そんなあからさまに全部言ってしまっては、きっと大変なことになる。

 なぜならここの部員たちは……


「なるほど! そういうことだったのか! なら、我々は全力で応援するしかないな!」

 月夜が親指を上げて二カッとする。

 そうなのだ。お人好しな部員たちは応援と称して盛り上げる気満々なのだ。

 案の定、

「わたしたちにできることは手伝いますよ!」

 目をキラキラさせた夏野が手を上げる。すると他の部員たちも賛同していく。

 みどり先生は頭が痛くなった。絶対に部員たちは実家までついてくつもりだから。

 これでは部員たちと両親の前で岩手先生が挨拶をするはめになる。

 いまいちわかってない岩手先生は、手伝い宣言をする部員たちに笑顔で頼みますよと応えていた。

 どうして自分の恋愛事情を部員たちに公開するのかと、みどり先生は羞恥にプルプルと震えていた。


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