17話 わたしも会いたい!
深原高等学校1年A組の教室。
「え~!? 月夜部長って、喫茶店でバイトしてたの!?」
「そうだよ。最中と一緒に行ってサービスしてもらっちゃった」
休み時間に春木 桜が先日あったことを夏野 空に話していた。
「ずるいーー! わたしなんてコンビニで1回きりなのに~~!」
「コンビニって駅前の?」
「そうだよ」
「へ~」
ニヤニヤと春木が夏野を見る。ハッと気がつき薄く頬を染めた夏野がアタフタする。
「ち、違うよ? 偶然だからね? マ〇クに行ってちょっと話したぐらいで……」
「へ~」
まだ続く春木のニヤケ顔を見て夏野が膨れて話しを変えた。
「もう! でも、なんかズルくない? なんで最中ちゃんって月夜部長との遭遇率が高いのー?」
「あんたみたいに下心がないからじゃん?」
「し、下心とかないし!」
プイっと横を向いた夏野が急に立ち上がる。
「決めた! 次の休み時間に月夜部長に会ってくる!」
「へ!? 会ってどうすんの? どうせ部活で会えるでしょ?」
至極あたりまえの事を春木が聞く。ムッとした夏野が目を向けた。
「いままで当たり前のように部活で会ってたけど、それじゃダメって気がついた! こっちから行動しないと!」
ぐっと手を握る夏野に、なんでそうなるの? と、春木は呆れた。
次の休み時間──
ベルが鳴ると同時に夏野が席を立ちダッシュで教室を出ていく。
他の生徒がポカンと目で追っていく。春木はそれを見てプッと笑った。
廊下を駆け抜けていく夏野。2階へと階段を上って行く。
見えた! 2年の教室!
そこでハタと気がついて足が止まる。月夜部長の教室ってどこだっけ……?
ええい! ままよ!
A組からしらみつぶしに見ていく。
──いない! あの髪色なら見間違うはずもないのに…。
ちらりとスマホを取り出し時計を見る。まだ大丈夫、時間がある。
目を閉じて考える。ギャルとかヤンキーとか好む場所……。たしかマンガだと校舎裏か屋上か…。
カッ! と目を開けて走り出す。この賭けに勝つ!
さらに階段を駆けあがていく。
バン!
屋上のドアを開ける。
左右を見渡すと…いた!
月夜部長の後姿を捉えた。
「月夜ぶ……」
嬉しくて駆け寄っていくと、どうやらもう一人いて、互いに顔を近づけているようだ。
相手の顔は葵の後頭部で隠れて見えない。かろうじて金色の髪がなびいていた。
え……
ひょっとして、それって…き、キス……!?
「ふぇえええーーー。つきよぶちょーーー」
あまりのショックに情けない声を上げる。
気がついた葵が振り向いて驚く。
「そ、空君!? どうしたんだ? 顔が真っ青だ!」
つられて葵の前にいて隠れていた金髪の人物が露わになる。
「あ、茜先輩ーーー!?」
ビックリした夏野が叫んだ。まさか相手が茜先輩ってことなの!
茜先輩は3年生で引退するまで『地底探検部』に所属していたギャルの1人だ。なぜかそれまで部長をしていて、夏野のこともよく知っていた。
確かにわたしがいない1年を2人は部活で一緒だったし、バイトの紹介してもらうぐらい親しい間柄だ。考えたらだんだん不安で体が震えてきた。
「ん!? おー、空ちんじゃん! どうしたのー?」
茜が気さくに声をかける。青ざめた夏野はプルプルと震える指をさした。
「な、なななななんで!?」
「なんでって、暇つぶしに屋上に行ったらツッキーがいたからさ。オシャレ談義してたわけ。見てよコレ! 可愛いだろ?」
茜先輩が葵の顔を両手で挟んで夏野に見せる。
そこには、ピンクドクロのヘアピンで前髪を分けている葵があった。
あっ! わかった!
さっき顔が近かったのは茜先輩が月夜部長にヘアピンを差してたんだ!
一瞬の理解に夏野は安堵した。身体に血が巡り始めたのを感じる。
は~良かったー。
気恥ずかしそうに葵が聞いてくる。
「ところで空君。何か用かい?」
「いえ、その…」
──キーン、コーン、カーン、コーン
ちょうど授業開始のベルが鳴る。
「おっと! 早めに戻らないと!」
茜先輩が声をかける。葵が続けた。
「それじゃ、後は部活で話してくれ空君」
「え、あ、はい」
曖昧に夏野が答え。3人が屋上への出入り口へと向かう。
ふと何かに気がついた茜先輩が葵の手を取る。
「空ちん!」
夏野に呼びかけ、注意をこちらに向けると葵の頬にチューをした。
「はぁ!?」
「ん?」
立ち止まって驚く夏野と突然のことでわけがわからない葵。
二ヒヒと笑うと茜先輩はウインクをして足を速めた!
「相談ならのってあげるから空ちん! じゃあね!」
ピューっといなくなる茜先輩。
「いや、意味がわからない……」
葵はキスをされた頬を押さえて呟く。
「絶対ワザとだ……やられた……」
ぐっと手を握る夏野。やけに勘のいい先輩に舌打ちする。
キッと葵を睨むと宣言する。
「わたし負けないから!」
そう言うとダッと階段を駆け下りていく。
ポツンと取り残された葵。
「……え!?」
もう何がなんだかわからない。あの2人は何の勝負をしていたのだろうか?
とりあえず放課後、部活になったら聞いておこう。そうしよう。わたしにはもう理解ができない…。
そう決めた葵はゆっくりと階段を降り始めた。
ちなみにその後、葵が夏野に屋上のことを聞くと上手い事はぐらかされていた。