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166話 新たな探検へ!

 放課後の地底探検部。

 葵 月夜(あおいつきよ)夏野 空(なつのそら)が部室に一番乗りしていた。

 二人が雑談していると新入部員の春木 桜(はるきさくら)吹田 奏(ふきたかなで)が仲良く入って来た。

「やっほー」

「こんにちは。先輩方は早いですね! さすが現部長に元部長!」

 以前からたまに来ていた春木と吹田もこの部に慣れたようだ。

 月夜が危惧していた楽器を持ち込んでの演奏会は今のところは鳴りを潜めていた。

 春木と吹田も夏野たちの前に座り、お菓子をカバンから取り出して長机に広げる。

 そして再び雑談が始まるのだった。


 やがて葵 海(あおいうみ)倉井 最中(くらいもなか)が連れ立って部室に現れた。

 遅れて顧問の岡山(おかやま)みどり先生が来た後に冬草 雪(ふゆくさゆき)秋風 紅葉(あきかぜもみじ)が登場し、部員が揃う。

 人が多い部室は上がった湿度で気温が高くなり、壊れかけの扇風機がギーギー音を出しながら一生懸命首を振っている。

 全員に麦茶が行き渡ったのを見届けた夏野は、本日の議題を進めるべく席から立ち上がった。

「みなさん! 本日は部活動について話し合いたいと思ってます。最近は校外への探検をしていないので誰か候補となる場所を知っている人がいたら推薦をお願いします!」

 聞いた月夜は眉をひそめた。そう、夏野は『地底探検』とは言わず、『探検』とわざわざ言っていたのだ。

 これでは探検できそうな所なら地底だけでなく、どこでもオッケーな感じだ。

 やはり地底探検部なのだから地底もしくは地下限定でいくべきだ。

 そう思った月夜が口を開きかけたとき、春木が元気に手を上げながら声を出した。

「はーーい! あたし心当たりがあるよー!」

「さすが桜。どこかあるの?」

「もちろん! 空は覚えてない? 昔、小学生の頃に遊んでた場所なんだけど」

 自信満々の春木に夏野は、はてなと思った。子供の時代に遊んでいた場所は、もっぱら住む家の近所だったからだ。

 秘密の場所なんてなかったし……。夏は頭を絞ったが何も思い出せなかった。

「うーん。あったっけ?」

「あれ? 忘れた? ほら、家の近くにあった橋の先なんだけどなー」

「う、う〜ん?」

「川が途中から消える場所があったじゃん?」

「ああ!? あれね! あった!」

 春木のヒントにようやく思い出すことに成功した夏野。

 確かに川が途中から地面の下へと潜り込む場所があった。今では地下水路になった暗渠(あんきょ)だとわかるが当時は知る(よし)もない。

 やっと春木の言っていた場所がわかり、夏野はニコニコだ。その他の部員はまったくわからずポカンと二人を見ていた。


 とはいえ、川がなんだというのか? 夏野は不思議に思った。

「思い出したけど、そこが何かあったっけ?」

「あー、忘れてるねー。川に沿って細い通路があったじゃん。そこでよく遊んでたのに」

「そうだっけ?」

 川まで思い出したが、その先はぼんやりな夏野。

 そこに月夜が口を挟んできた。

「たぶんそれは点検や監視用の通路だろう。確かトンネルでは監査廊とか呼ばれるものだ」

「「へ〜」」

 夏野と春木が感心したように声を揃える。

 尊敬するようなキラキラした視線を向ける吹田に月夜は居心地悪く頭をポリポリかいた。

 照れ気味な月夜を置いて夏野は話を進める。

「それで、つまり川に通路があるってことでしょ。そこに行くわけ?」

「あたり!」

 自慢げな春木が親指を上げてニカッとした。どうやら夏野の推測は正解だったようだ。

「なるほど。わたしも記憶にないくらいだし、近いから行ってみる価値はあるね」

「でしょ!」

「それに地下に潜るから探検気分も味わえるし」

「ね!」

 夏野の言葉に嬉しそうに相づちを打つ春木。息の合うやりとりに、さすが幼馴染みと吹田は感心していた。


 こうして次の探検場所を決めた夏野は、春木以外に事情のわからない部員たちへ詳しく説明した。

 ほとんどの部員からは質問は出なかったが、月夜が疑問を口にした。

「話しはわかったが、そこは立ち入り禁止じゃないのか?」

「うーん。どうでしょうね。桜が言うには封鎖されてはなかったようですけど」

「それは昔の話しだ。今は違うかもしれないぞ?」

「どちらにしても近いし行きましょうよ」

「むむ……」

 難しい顔をする月夜に夏野が不思議そうに頭をかたむけた。

「なんだか月夜先輩が変な感じですね。悪いもの食べました? いつもなら張り切って行こう! とか言うと思ったんですけど」

「ふふっ。たまには私も慎重になるのだよ空君」

 格好つけた月夜に春木が吹きだした。

「ぶふふーー! あははは! 違うよ空。きっとあたしたちが勝手に進めてたから気に入らないんだよ」

「なんだと!? 仮にも上級生のこの私が、そんなことでふてくされているなんてありえないぞ!?」

「自分で言ってるし! あははは!」

「ぬう。後輩に出し抜かれたとか思ってないぞ!?」

「あはははは!」

 言えばいうほど墓穴を掘っている状態の月夜に春木は笑い転げている。

 慌てた夏野が月夜のそばに寄ってきた。

「大丈夫ですから月夜先輩。わたしそんな事思ってないし、信じてますから」

「空君……」

 感動した月夜はガタッと席から立ち上がると夏野を抱きしめた。

「空君! 私は嬉しいぞ〜!」

「わわっ!?」

 驚きながらも嬉しさに顔を赤らめながら夏野は月夜に身を任せる。

 久しぶりの抱擁に夏野の顔はだらしなくなっていた。

 その横では春木がまだ笑っていた。どうやらツボに入ったままのようだ。


 なんのコントなんだ?

 お菓子をボリボリ頬張りながら、冬草は月夜や春木たちのやりとりをぼけーっと見ながら思った。

 ちなみに秋風は冬草にしなだれかかりながら、うっとりしていて、海と倉井はみどり先生と一緒に新作お菓子の話題で盛り上がっていた。

 つまり言い合っている当事者以外は飽きて別のことをしていたのだ。

 一人ちゃんと聞いていた吹田が恥ずかしげに手を上げた。

「あの〜。ひょっとしてですが、お爺ちゃんが……」

「はい、採用!」

 吹田が言い終わる前に夏野から離れた月夜が勝手に決定してしまう。

「ちょ、ちょっと月夜先輩?」

「なにかね空君? 私は後輩にも寛容だと示したつもりだが?」

「それはいいですけど、最後まで聞いてからにしてください。わかりました?」

「う、うむ。相変わらず圧があるな」

「何か?」

「い、いや……別に」

 夏野にじっと見つめられた月夜が目をそらす。相変わらず夏野の責めに弱い月夜だった。

 頃合いを見てコホンと咳をした吹田が再度話し始めた。さすが空気の読める吹田だ。

「お爺ちゃんが昔、岩山の方で洞窟を見たって言ってました」

「岩山? 奏ちゃんは場所わかる?」

 初めて聞いた場所に夏野は棚から深原(ふかばら)周辺の地図を取りだして長机に広げる。

 吹田はじっと地図を見て心当たりに指を差した。

「たぶん…ここだと思いますけど」

 どれどれと夏野と月夜、春木が頭を寄せて地図を見ると、そこは確かに山のようだった。しかし紙の地図では岩山かどうかは不明だ。

「うーん。わからん……」

「あっ! ちょっと待ってください。スマホで見てみますから」

 難しい顔をしている月夜の隣でひらめいた夏野が携帯を取り出しマップを開いた。


 さっそく航空写真のマップに切り替え、吹田の示した地点を拡大してみる。

「木が()(しげ)っていて普通の山ですねー」

 そう言いながら夏野がスマホを地図の上に置く。

 上から見た状態だと緑がかった低い山としか認識できない。

 月夜が腕を組んだ。

「とりあえず行ってみたらいいだろう。ヒマだし」

「だね。それにあたしが推した川の通路の近くだし、移動も楽だしね」

「うむ」

 春木の言葉に(うなず)く月夜。

 先ほどは言い合っていたのに、こういうときは馬が合うようだ。

 なんとも距離感のおかしな二人に夏野と視線が合った吹田は互いに苦笑していた。


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