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156話 汗をかこう!

 ギリギリギリ……ブーーン。ギリ…ギリ…ブーーーン。

 古い扇風機が危なそうに音を出しながら首を振っている。

 放課後の地底探検部の部室では、たったひとつきりの壊れかけた扇風機がせっせとぬるい風を送っている。

「……」

 扇風機の前に並んで座って陣取る部員たちは、汗をにじませながら風が来るのを順番に待っていた。

 涼しい風もいっとき堪能したら通り過ぎていく……。

「あーーー! めんどくせぇええーーーーー!!!」

 キレた冬草 雪(ふゆくさゆき)が立ち上がった!

「なんで大人しく暖かい風が来るのを待ってるんだ!? これなら外の日陰の方が涼しいだろ!?」

「うむ。雪の言うことはもっともだ。ここでじっとしていても一向に体は冷えない。むしろ熱中症に気をつけなければいけないな」

 じっとり汗をかきつつ葵 月夜(あおいつきよ)が大きく首を縦に振った。

 月夜の隣にいた部長の夏野 空(なつのそら)が聞いてくる。

「前に涼しそうな教室巡りをしましたけど、今日もするんですか?」

「いや、さすがに何度もするのは難しいだろう……」

「あのときは、たまたま冷房の効いている教室に入れましたもんね」

「そうだな……。よし! ここは体育館へ行こう! 体を動かした方が気が紛れる!」

「賛成!」

 ガタッと月夜が立ち上がって力説すると夏野がパチパチ手を叩いて賛同する。

 なに言ってるんだ? イスに座る切っ掛けを失って立っていた冬草が半目になって月夜と夏野を睨む。

 暑くてたまらないと言ったそばから、何で体を動かす方へ行くんだと冬草は目で語る。

 そんなことに構うことなく月夜と夏野が部室から出て行く。

「空君、我々は一刻も早く、この灼熱地獄から抜け出して先に行こう! では待ってるぞ!」

「レッツ体育館!」

 二人は元気な声を残して行ってしまった……。


 ポカンとしていた冬草に秋風 紅葉(あきかぜもみじ)が立ち上がって手を握ってきた。

「私たちも行きましょ。じっとしてても暇だし。それとも保健室のベッドで気持ちいい汗をかきたい?」

「保健室はいかねーよ! あーもう! めんどくせー!」

 文句を言いながらも冬草が秋風を連れて出て行く。

 部室に残された、倉井 最中(くらいもなか)葵 海(あおいうむ)に顧問の岡山(おかやま)みどり先生。

 三人は月夜たちと異なり、長机の方でイスを並べて冷たい麦茶を手にお菓子をつまんでいたのだ。

 ポツンと取り残された気がした倉井が海に聞いてきた。

「海さん、どうしよう?」

「お姉ちゃんたちがいなくなって扇風機の風もくるし、部室から人数が減ったから室温もその内下がるし、ここにいようよ」

「うん!」

 海の説明に安心した倉井は明るく(うなず)いた。

 そう、運動が苦手なので体育館へ行くのを参加したくない倉井だったのだ。

「……それに、お姉ちゃんたちは絶対向こうで騒ぎを起こすに決まってるし」

 危機感を(つの)らす海の(つぶや)きに、みどり先生は確かにありそうだと苦笑した。


 □


 広い体育館は全てのドアや窓が全開で外の風を取り込み、日が当たらないおかげか意外とすごしやすい。

 施設内の半分はバスケ部が練習しており、その横でバトミントン部が練習をしていた。

「う〜む。風が入って涼しいが思ったより部員たちがいて混んでいるなぁ」

「そりゃ部活中ですから」

 目を細めて体育館の中を見渡す月夜に夏野が答える。

 一緒に来ていた冬草が月夜を肘でつっつく。

「どうすんだよ。はじっこで涼んでるか?」

「しかたがない、我々は他の部活の邪魔にならないように隅へ移動することにしよう」

 とりあえず、ゾロゾロと一列で歩いて場所を移した月夜たち。

 壁沿いに陣取り、ヒソヒソと話し始める。

「ここにバレーボールがある。他の邪魔にならないよう、一列になって遊ぼう」

「どうやってだ?」

「うむ。私と空君、雪に紅葉がチームとなってボールをつないでいこう!」

「わぁーいいですね!」

 月夜の提案に冬草が疑問を挟み、夏野が賛同する。


 こうしてチーム分けした月夜たちは体育館の端っこでボール遊びを始めた。

 月夜の前には夏野が立ち、ボールを冬草たちへトスする。前にいる冬草を超えて後ろにいる秋風がボールを受け軽くトスする。

 すると冬草がジャンプしてスパイクを放った!

「うぉおりゃああああ!」

「ひゃあ!?」「ふぅん!!」

 ビビッた夏野がしゃがみ強烈なボールをやり過ごし、月夜が抜群の運動神経でレシーブで止める!

 勢いを殺されたボールが天高く舞い上がった。

 こういう遊びだと理解した夏野はタイミングを見計らってジャンプアタックした!

「えいっ!」

「ちょ、ちょっと!?」

 鋭いボールは冬草の頭を通り抜け、秋風の足元へと突き進む。

 戸惑いながらも難なくボールを拾い、冬草へとつなぐ。

 すかさずスパイクを打とうとした冬草だったが、いつの間にか近くに来ていた夏野が邪魔をした。

「やっ!」

「あっ!? バカ!」

 打とうとしていたボールをちょこんと夏野が押し出す。

 タイミングを失った冬草が空振りして、慌てた秋風が手を差し伸べるが無常にもボールはコートへと落ちていった…。

「やった!」

「策士だな空君!」

 喜び会う夏野と月夜。二人はハイタッチで息ぴったりをアピールする。

「くそぉ…」

「次がんばりましょ!」

 悔しがる冬草を秋風が励ます。

 月夜はもちろん、夏野たちも運動が得意なのだ。特に秋風はかつて月夜をライバル扱いしていただけあって、運動は一通り上手だ。

 こうして四人はバレーボール風な攻防を繰り広げ、体育館の片隅で熱い戦いをしていた。


 しばらくして月夜たちの拾い損ねたボールが、コロコロとバトミントンのコートへと転がっていった。

「すみませーん。ボールいいですかー?」

 部活の邪魔をしてまずいと申し訳なさそうに夏野が声をかける。

 するとバトミントン部二年生の新部長の少女が出てきた。

「さっきからいい加減にしてよね! こっちは真剣に部活してんだから!」

 怒鳴り込む部長。先ほどから体育館の隅で他の部員よりも声を出して騒がしい月夜たちに怒りがこみ上げていた。

 決して楽しそうに熱い戦いをしていた美少女たちが羨ましいとは無いはずだ。

 バツの悪そうな夏野をかばい月夜が出てきた。

「まあ、まあ。そう腹を立てないでくれ。せっかく貴重な練習を止めてしまって、すまない。だが、本当は自分も加わりたいと思っているだろ?」

「はぁ? どういうこと?」

「こう思っているはずだ。遊びでバレーボールみたいな真似事をしている私たちより、バトミントン部の方が上手だと」

「……」

 黙り込むバトミントン部の部長。意外や月夜の言葉が当たったらしい。

 ふふふと薄笑いをする月夜。

「なら、どうだろうか。我々と対決してみないか? その怒りをボールにぶつけてみては?」

「……なるほど。やってやるよ!」

 安い挑発にまんまと乗ってくる部長。

 なんだこれ? と後ろで見ていた冬草は吹き出していた。


「うちらの実力を見せてやるぞ!」

「「「おーーーー!!!」」」

 バトミントンのコートで部長をはじめ部員たちが声を上げる。

 バレーボールのネットより低く狭いが四人ぐらいならちょうどいい大きさだ。

 周りを巻き込んで、しめしめと胸の内で笑う月夜。

 成り行きでこんなことになったけどいいのかな? と疑問に思いつつポジションにつく夏野や冬草、秋風。

 こうしてバトミントン部との戦いの火ぶたが切られた。


 月夜たちとバトミントン部は顧問の先生が来るまでバレーボールで戦っていた。

 皆は暑さに負けない熱戦に青春の汗がキラリと光っている。もはや最初の問題を忘れていた。

 終了時間に近づき、やってきたバトミントン部の顧問は全く部とは関係ないことをしていた部員たちと部外者たちに唖然とした。

 そして月夜たちや部長たちは顧問にこってり絞られ解散となった。

 ちなみに地底探検部は本日の活動を終え、月夜たちを待たずにそれぞれ帰路についていた。

 家で姉に事情を聞いた海は「やっぱりね」と漏らしていた。どうやら戦いは月夜たちが勝ったようで、喜々として妹に報告していたのだ。

 みどり先生は次の日、バトミントン部の顧問に苦情を聞かされ愛想笑いで誤魔化していた。


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