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147話 競争だ!

 深原(ふかばら)中学校・高等学校の一般開放されたプール。

 日差しが水面をギラギラと照りつけ、蒸発させようと熱を伝えている。

 その中を涼をとろうと近所の親子や遊びに来た学生たちが楽しげにはしゃいでいた。

 プールの隅っこでは肩まで水に入っていた葵 月夜(あおいつきよ)が満足そうに声を漏らした。

「ふぃい〜〜。気持ちいい……」

 そう、月夜はひとり学校のプールに涼みに来ていたのだ。

 周りでは泳いだり、浮き輪につかまり遊んでいる子供たちがいた。まるで一人だけ温泉にでも入っているかのようだ。

 パシャリとプールの水を顔にかけ、気持ちよさそうに月夜はマッタリとしていた。

 今日はここで一日すごそうと月夜は密かに思っていた。


 月夜は目をつむり、楽しそうな声を聞きながら水に揺られている。

 なんとも贅沢なプールの使い方だ。

 しかし、そんなひとときはよく知っている声によって壊された。

 ドタドタと足を鳴らして月夜の近くへ来る音が聞こえた。

「やー! 来たねぇ〜! 今日は暑いからプールがサイコー! 早く(かなで)も来なよ!」

「待ってください(さくら)先輩。まだ帽子をかぶってないですー」

「あたしがやるよ! よいしょ! これでバッチリ!」

「わぁ〜! ありがとうございます。さすがテキパキしてますね!」

「へへ〜。そうでもないよ?」

「フフフ」

「あれ? ここにいるの月夜先輩じゃない?」

「ほんとですー! ずっといたのに私達に気づかないふりしているのがすごいです! さすが三年生!」

 どうやら春木 桜(はるきさくら)吹田 奏(ふきたかなで)が現れたようだ。

 足元のプールにいた月夜を発見した二人の言葉に目をカッと開く。

 大げさに振り向いて驚く月夜。

「おやぁ!? 誰かの声が聞こえると思えば桜君に奏君か! 偶然だね!」

「さすが月夜先輩! 白々しいながらも恥ずかしげもなく貫き通す姿勢がステキです!」

 モロバレでも吹田が両手を合わせて褒めてくる。

 なんだか気分がよくなった月夜はへへへと照れていた。


 春木と吹田は、月夜の隣でプールへ入り向き合う。

 月夜はそこで気がついた。三人ともスクール水着じゃないか……と。そこにはバカンスを楽しむ雰囲気は無く、まるで授業の一環としているかのようだ。

 とはいえ今は夏休み。こういうことも多々あるに違いない。

 気を取り直した月夜は二人に聞いてくる。

「君たちも涼みに来たのかな?」

「そうだよ! この間行った東京に比べたらマシだけど暑いからね!」

「確かに東京はずいぶん暑かったな……都会に住む人々の熱気がそうさせるのかも」

「わぁ〜詩的! ポエマーですね月夜先輩! 凄いです!」

「ふっ、内なる心の声が漏れてしまったな……」

 年下におだてられていい気になっている月夜を春木は笑った。

 つられてクスクス笑った吹田が月夜に聞いてくる。

「月夜先輩はお一人ですか?」

「うむ。今、家には(そら)君と最中(もなか)君が泊まっているのだが、二人とも宿題に追われてて遊ぶ時間がないのだよ。ちなみに私の可愛い優秀な妹が二人の面倒をみているよ」

「意外ですー。空先輩って部長もしているから、もっとキッチリしている人かと思ってました」

「ふふふ。あれでいて自分の事となると結構ぐ〜たらなんだよ。わはははは」

 笑う月夜の肩を春木がバシッと叩いた!

「当たってるけど、あんまり空の悪いところは言わないで!」

「ははは、すまん」

「本人の前では言っちゃだめだからね! だいたい先輩はここで何してるの?」

「うむ。プールの端でじっとして、自然を感じていたところだ」

「泳がないんじゃ、お風呂で水浴と一緒じゃない?」

「そうでもないぞ。やはり太陽の下にいると気持ちがいいからな」

「ふ〜ん」

 爽やかな月夜の笑顔に単純な春木もそうなのかなと納得する。吹田はネイチャーってすごい! と喜んでいた。


 そこで良いことを思いついたのか春木が提案してきた。

「競争しようよ! 競争!!」

「突然どうしたんだい桜君?」

「どーせ、プールにつかってボーッとしてるだけでしょ? だったらわたしたちと競争しようよ!」

「ふぇえ!? わ、わたしも?」

「あったりまえじゃん! 奏も泳ごうよ!」

 驚いている吹田の背中をバシバシ叩く春木。

 どう考えても運動部的なノリな春木に、どうして吹奏楽部に所属しているのだろうかと月夜は不思議がる。

 しかし、春木が言い始めたら止めるのは難しい。

 ここは上級生として大人な態度でいこうと月夜は決意した。

「いいだろう。だが、私は五位の記録を持っているぞ?」

「ふふん! あたしは学年で三位だから!」

 勝ち気な月夜に譲らない春木。五位の記録って、全国の? 吹田は首をかたむけた。

 月夜と春木がプールから上がり、消極的な吹田を両手を持って引き上げ、スタート台へと向かう。

「め、眼鏡置いときますね?」

 吹田が疑問系で聞くが二人は目を合わせてバチバチと火花を散らしていた。

 スタート台へ上がり、姿勢を整える三人。

「ふぇええ……」

 学校の授業でもスタート台は怖々なのに、遊びにもかかわらずビビっている吹田。

 そんな吹田の気持ちを知らずか春木が号令をかけた!

「スターーーート!!!」

 バシャーーン!!!!!

 三人が一斉に水面に飛び込み水しぶきをあげた。


「ぷはぁあっ!」

 最初に頭を出したのは吹田だ。スタート台から二メートルほどしか離れていない場所だ。

 水をかいて平泳ぎで前を見ると二人の姿がいない。

 キョロキョロと辺りを見回すと、遙か前方で水面に出た月夜と春木が両足をばたつかせクロールを始めたところだった。

 すでに二十五メートルプールの半分以上は潜水していたようだ。

 あっという間にターンをして、半ばにいる吹田を追い抜いていく。

「ふぇえええ」

 半泣きしそうな吹田は一生懸命に平泳ぎをして壁にタッチすると戻り始めた。

 スタート地点では月夜が最初に着いたようでガッツポーズを決めていた。遅れて春木が着いたようだ。

「ふぇえ」

 必死、必死に吹田は泳いだ。重い手足をせかせかと動かし、授業でもこんなんに一生懸命に泳いだことはない。

 なんとか二人の元へたどりつくとパチパチと温かい拍手で迎えられた。

「やったね奏! よく頑張ったね!」

「なかなか根性があるな。さすが桜君の後輩だ」

「ふぇええええん……」

 泣いた。

 吹田は泣いた。

 半分笑われるものと思っていたのに、春木と月夜は吹田の頑張りをちゃんと見ていたのだ。

 そう、水泳が下手な吹田だったが、なんとか二人についていこうと無理をしていたのだ。

 吹田の頭をなでて微笑む春木。嬉し泣きしながら吹田は笑った。月夜は親指を上げ、よくやったといっているようだ。

 そこには爽やかなスポーツの汗を流した三人の姿があった。


「おーーーい! お前ら飛び込みに競泳は駄目だろ! 危ないし他の人達の迷惑だぞ!」

 プールを監視していた先生が怒り心頭で飛んで来て三人に説教を始める。

 しかし、月夜たちは反省どころかサッパリした顔つきで太陽の日差しを眩しそうにしていた。

 ちなみに三人は罰として居残りしてプールサイドの掃除をさせられていた。

 それでも楽しそうに騒がしい三人に先生も苦笑いをしていた。


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