141話 プールだ!
深原中学校・高等学校の共通プール。
夏休みは開放しており、近隣の住民が涼をとりに、そして遊びにくるスポットだ。
期末試験を無事に終えた生徒は、つつがなく夏休みに突入ししていた。
夏野 空は葵 月夜にプールで遊ぶ約束を取り付けていた。ほぼ強引だったが。
そんなわけで、夏野は高校の校門前で月夜を待っていた。おまけ付きで。
「遅いね?」
「きっと準備に手間取っているんですよ。月夜先輩はプロポーション良さそうだから、水着に迷っているに違いありません」
春木 桜と吹田 奏が楽しそうにおしゃべりしている。
夏野がプールに遊びに行くと聞きつけた春木が、吹田を誘ってついてきたのだ。
二人を見ながら夏野は目を閉じた。
大丈夫。この二人は邪魔しないはず。今日の目的は月夜先輩の水着姿を拝むこと……心の中で夏野が確認していた。
そうしている内に月夜がやってきた。
「やあ! 待たせたね! 愛しい妹たちも一緒だけど勘弁してくれ」
ジャージを着た月夜が妹の葵 海と倉井 最中を伴って現れた。
一瞬、目が点になった夏野だが、ぐっとこらえて笑顔で迎えた。
なんでこんなに知り合いが来るのだろうかと思いながら。
皆でワイワイと挨拶してプールへ向かう。
この辺りでは水場がプールか川しかないので、おのずと付近の住人が集まってくる。
覆いで見えないが、キャッキャとプールの方から聞こえる楽しげな声に夏野は嫌な予感がしてていた。
脱衣所へいき、ロッカー前で着替え始める。
夏野は月夜の脱ぐ姿をじっくりと観賞したい願望をグッと我慢して先に着替えた。
「先に行って待ってますから!」
「う、うむ」
明るい夏野の声に警戒してた月夜は、気のせいだったかと頷く。
夏野から、ねっとりとした視線を向けられると恥ずかしい月夜。今回はそうならずにすんでホッと着替え始める。
春木や海たちは着替え終えると、楽しそうにプールへ向かう。
それぞれ新調したようで明るい色の水着に身を包んでいる。海の隣では倉井がほほを染めて、チラチラと水着を見ていた。
ちなみに海と倉井は色違いのお揃いで、かわいらしい水着を着こなしていた。春木は競泳でもするのか、スポーツタイプで吹田は派手目なものを着ていた。
プールでは近所の子供たちを筆頭に、家族連れやお婆さんたちも来ており、水に入って涼んでいる。
競泳は禁止なので、ビニールボールで遊んだり、浮き輪に乗っていたりと皆さまざまだ。
ソワソワと夏野がプールサイドで待っていると、月夜が更衣室から出てきた。
「やあ、待たせてすまないね」
「いいえ! 全然って……それって学校指定の水着ですよね月夜先輩」
「うむ。よく考えたら新しい水着を買ってなかったよ。ははは」
陽気に笑う月夜に夏野はガッカリした。そう、夏野の頭にはセクシービキニを着た月夜があったから。
想像とのギャップに驚いた夏野だったが、これはこれでいいかもと思い直した。
なんとも健康的でボディーの露出は少ないが、体のラインが見事に出ている。しかも、少し小さめなのか月夜の水着はピチピチであった。特に胸が。
少し興奮してきた夏野は月夜の後ろに回る。後ろ姿も堪能しなくてはと思ってのことだ。
「ふぉお……」
叫びそうな口を両手で塞ぐ夏野。そう、月夜のお尻がプリッと突き上がり見事な曲線を描いていたためだ。
実にけしからん! こんな素晴らしいものは誰にも見せてはダメだ! 興奮しながら夏野の目は釘付けだ。
そこに、いぶかしげな月夜が顔を向けてくる。
「そ、空君?」
「はっ!? 何でも無いです! さ! せっかくだから入りましょう!」
慌てて誤魔化した夏野は月夜の背中を押してプールへ向かって行く。
そう、夏野は狙っていたのだ。
水中なら接触し放題だし、誤魔化せることを。
興奮を隠しきれず鼻息荒い夏野。なにがあったんだと月夜は、そんな夏野を心配していた。
□
ひんやりと冷たいプールの水。どことなく独特の薄い薬品の匂いが学校にいることを思い出させていた。
春木と吹田、倉井と海はペアとなって、別の場所で楽しんでいる。
プールサイドの近くで入っている夏野と月夜は、熱い日差しから体を冷やしていた。
これからどう月夜に接触しようかと考えていた夏野。鋭い視線に月夜は身の危険を感じた。
しかし、そこに声がかけられた。
「あっ!? 月夜ねーちゃんだ!!!」
「おや。里ちゃんも来てたのか」
月夜の母が毎週開いている空手塾へ通う小学生の山森 里が、嬉しそうに手を振りながら水をかき分けやって来た。
「友達と来たんだ。ねーちゃんも?」
「うむ。友人の空君だ。里ちゃんはお母様の空手塾の生徒だよ」
「よろしくねー。里ちゃん」
紹介された夏野は愛嬌たっぷりに笑顔を振りまく。太陽の光を受けてキラキラ笑顔が眩しい。
ぽかんとした山森が月夜に聞いた。
「月夜ねーちゃんとは全然違うね」
「なにが違うんだ?」
「とってもすてきな感じがする」
「それだとまるで私が無愛想のようなんだが?」
ムスッとする月夜に山森がクスクス笑う。
ニコニコしている夏野に山森は頬を染めた。またか…月夜は思う。魅惑を振りまく夏野は魔性の女だと。
「ねーねー。何かして遊ぼうよ!」
「そうだな。ボール遊びでもしようか」
山森の提案に月夜が答え、持ってきたビニールボールを差し出した。
しかし、夏野は邪魔者が入ってきて内心ガッカリしていた。そう、月夜と密着やら触りまくりとか期待していたが無理になってきた。
そこへザブザブと春木が吹田を連れ立ってブールの向こう側から来た。とんだ地獄耳だ。
「あたしたちも混ぜて〜!」
「桜君たちもか……」
呆れた月夜がふうとため息をついた。夏野も同じようにため息をつく。人数が増えて計画がおじゃんになったから。
夏野が頭を回し、他に来ないかと警戒する。倉井と海はプールサイドに上がっており、肩を寄せ合い楽しそうに話している。
あれは大丈夫だなと夏野は安心した。
集まった五人はボールを浮かせて遊んだ。
空手を習っている山森の体幹は良く、こぼれそうなボールを上手くつなぐ。
嬉しそうに笑う山森を見て、夏野はこれはこれでいいのかなと思った。月夜も楽しそうだし、春木と吹田も笑っている。
それでも夏野は頑張った。
隙を見て、ボールが月夜に行くところへわざと向かって行ったり、ミスした振りで月夜に触ろうとしたりしていた。
あからさまな行動に春木と吹田は苦笑する。
なんだか夏野が不安定で危ないなと、月夜は心配してヒヤヒヤしていた。
そんなことには、まったく気がつかない山森は笑顔で楽しんでいた。
結局、何事も起きないままプールを上がり、外に出た夏野たち。ちょうど倉井と海も合流してきた。
山森は友達と一緒にプールで遊んでいるのでいないようだ。さすが体力があり余っている。
気持ちの良い汗をかいた夏野たち、冷えた体に南風が気持ちよい。
今日の目的は果たせなかったが、水着姿だけは拝めたので良しとしよう……夏野は成果におおむね満足していた。
そんな夏野に月夜が誘う。
「これから家に寄っていかないか? まだ明るいし、どうだろうか?」
「もちろん行きまーーす!」
間髪入れずに夏野が元気よく答える。
苦笑している春木たちも賛成していた。ただ一人、海を除いて。
きっと倉井と二人きりができないのが目に見えているからだ。
ふてくされて頬を膨らます海を倉井がなだめていた。
賑やかな六人は月夜の家へと楽しそうに向かって行った。
お読みいただきありがとうございます。
来年も細々と更新してまいりますので、気になったら覗いていただけると嬉しいです。
お体に気をつけて。良いお年を。