14話 ここでやるよ!
高等学校の放課後──
『地底探検部』の3人は部室に集まって活動について話し合っていた。
部長の葵 月夜が夏野 空から受け取った地図を机に広げた。
「うーん、バスで50分か。ここは本当に地下街なんだろうね空君?」
「ネットにはそう書いてありましたよ! 一見は百聞にしかずって言うじゃないですか!」
自信満々な夏野に葵は押されそうになるが、踏みとどまって同じ部員の意見を聞く。
「むー、最中君はどうかね?」
一緒に地図を見ていた倉井 最中は首をかしげる。
「いいと思いますよ?」
「どっちでもいいということか…。なにもわたしはバスにゆられて50分も暇だなーとか思ってないし、手持無沙汰で途中で帰っちゃうかも、なんて思ってないぞ」
「月夜部長、それ思ってますから」
呆れたように夏野が突っ込んだ後に提案してきた。
「だったら、ずっとわたしと、おしゃべりしましょうよ! それがいいです! 決まりです!」
「空君…。君ってば“強引だね”と言われたことがないかね?」
「そんなの月夜部長だけだから大丈夫です!」
フンすと両手を握ってアピールする夏野。何が大丈夫なのか…葵は恐ろしくなる。
まあ、確かに目的地は地方のターミナル駅。大きなビルや商店街がある。恐らく地下街もあるかもしれない。
葵が腕を組んで熟考していると、
バン!
部室のドアが乱暴に開かれた!
何事かと3人が見ると夏野の友人、春木 桜がガラガラと音を立てて大きなケースを持って入って来た。
「桜君! な、なんの用かね?」
戸惑いながらも葵が聞く。
「あんまり下手なんで自主練することにしたの」
そう言うと部室の隅へ折り畳みイスを一脚つかんで荷物とともに持っていく。
夏野が近寄って聞いてきた。
「桜、なんでここで? 音楽室は?」
「先輩達に占領されて無理だった。で、考えたらこの部室があいてるじゃんって思ったわけ」
「いや、我々が使用しているが…」
葵が弱弱しく反論する。
イスに座ってケースを開け、楽器を組み立てながら春木は説明する。
「ほら、吹奏楽部って部員が多いじゃん? で、最初はトランペットやってたんだけどレギュラーが難しそうなんだ」
キュッと最後の部品を差し込むと、葵たちに完成した大きく細長い筒に曲がった管が突き出ている楽器を見せつける。
「そこでこれ! ファゴットに転向しました!」
ドヤ顔の春木に呆れた葵が文句を言う。
「ファゴットでもソゴットでもいいけど、ここで吹くわけ?」
「あ、気にせずに部活しててください部長」
ケースから楽譜を取り出す春木。
とりあえず葵は春木を無視をして先ほどの夏野の案を検討することにした。
「では続けるが、その場所は次回にしないか
ポェエエエエエエーーーーーーー
「わたしの提案は前に訪れた鍾乳
プォオオオオオオーーー
「それだと
プァアアアオオオオオーーーーーー
「あーーー!! うるさーーーーーい!」
たまらず葵が春木に怒鳴る!
一生懸命に楽譜をみながら音を出す春木に、葵は近づくと耳元で声を荒げる。
「いくら空君の友達とはいえ、これ以上がまんならん! いい加減にしたまえ!」
リードから口を離した春木はなにも言わず抱えていたファゴットを葵に突き出す。
「吹いて」
「ん?」
「じゃあ、手本みせてよ! 部長でしょ!?」
「えええぇ!?」
春木の迫力に思わず受け取った葵は、どうすればいいのかと夏野と倉井に視線を送る。
2人ともフィっと目を逸らした。
なんで部長のわたしがこんな目に……しかたなしにファゴットを適当に構え、リードに口をつけようとしたとき、
「あああああーーーーーー!! ダメーーーーー!!」
ものすごい勢いで夏野がすっ飛んできて葵からファゴットを奪った!
ついでに春木を睨みつける。
「間接キスじゃん! これってどうなの!? 桜は狙ってるわけ?」
「狙うわけないでしょ! 間接キスぐらいでワーワー言わないの!」
「嘘だ!」
「んなわけないでしょ! そんな物好きじゃないし!」
いつの間にか夏野と春木が言い合いしている。
「あの…君たち静かにしてもらえるかな? あと狙ってるって何かね?」
オロオロした葵が声をかけても無視されていた。
座ったまま一度も移動していない倉井は、葵や夏野たちが騒がしく言い合いしているのを見ていて、今日は部活は無理だなと思った。
お茶を入れて一息ついた倉井は、おもむろに葵のカバンを探る。
きちっと整頓されている中身に目的の物を発見した。
タブレットを取り出し机の上に置くと電源を入れる。この間、月夜部長から教えてもらったから使い方はわかっている。
再び大阪の梅田地下街へ訪れると探索し始めた。
するといつの間にか顧問の岡山みどりが来て、倉井の隣に腰掛けながら質問した。
「あの子たち何してるの? 春木さんもいるし」
「楽器の練習みたい。月夜部長が止めさせてて、空ちゃんが取られないようにがんばってるところ」
「んー? 全然わかんない。まっいいか。お菓子食べる倉井さん?」
「はい! 食べます!」
嬉しそうに倉井が頷く。
部室の隅で起きている喧噪をよそに、お菓子を2人で食べながらタブレットに映る梅田の地下街をあれこれ楽しんで見ていた。