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139話 今日こそ決める!

 秋風 紅葉(あきかぜもみじ)は鏡の前で服装をチェックしていた。

 今日は冬草 雪(ふゆくさゆき)の家にこれから遊びに行くのだ。

 勝負下着にちょっぴりセクシーな服を選んで、誘惑する気満々だ。今日こそ決めると秋風は燃えていた。

 化粧もバッチリ、唇に薄くカラーリップを塗り戦闘態勢を整える。

 手作りお菓子の箱を小脇に抱えて、秋風はウキウキしながら軽い足取りで家を出て行った。


 待ち合わせしている駅前では、熱い日なのに黒ずくめで、これまた黒いキャップを被っている冬草がすでに立っていた。

 冬草の姿を見つけた秋風は満面の笑みになる。

「ごめん待った?」

「いや、全然。さっき来たとこ」

 相変わらず、ぶっきらぼうな冬草の言い方に可愛くてキュンキュンする秋風。

 冬草の腕を取った秋風が笑顔を向けた。

「それじゃ、いこ?」

「お、おう」

 照れながら冬草は秋風と腕を組んで、二人は楽しそうに話しながら歩き始める。


 しかし、冬草の家に着いた秋風は、今日は無理かもと悟った。

 なぜなら今日に限って冬草の母がいたのだ。事前に確認をとったときには、母親はいないと冬草は言っていたのに。

 玄関口に出た冬草の母は困ったような笑顔で秋風を出迎えた。

「あら、こんにちはー。ごめんなさいね、急遽仕事が休みになったから。お邪魔虫よね、私」

「いえいえ。ママさんに会えて嬉しいです。一緒に楽しみましょう」

 冬草の母親がちょっと申し訳なさげな雰囲気を出し、秋風は笑顔で対応する。

 実際の所、秋風は冬草の母も好きなのだ。家族として。だから一緒にいて楽しいし、嬉しい。

 けれど、今日は意気込んで来たので、肩すかしにあった気分だった。せっかくの下着も見せないままで終わりそうだ。

 冬草も申し訳なさそうにしていて、親子だなぁと秋風はしみじみ思って笑った。


 持ってきたお菓子を広げて三人で楽しむ。

 明るい冬草の母がいると場が盛り上がる。冬草だけだと、照れまくりの恥ずかしがりだから、いつも秋風が一方的だ。

 だからこのような場合も秋風は楽しい。

 そんな秋風の雰囲気に冬草はホッとしていた。


 しばらくして冬草と秋風は二階の自室へと移動した。

 以前は机とベッドしかない殺風景な部屋も、秋風のプレゼントや二人で買った小物などが増えて生活感が出てきていた。

 二人で床に座り、ベッドに背を預ける。

 秋風は冬草にもたれかかって魅惑的な薄い唇に指を()わせていた。秋風の手癖にすっかり慣れた冬草はなすがままだ。

「今日はごめん。ママが休みとは知らなくてさ」

 困ったように謝る冬草に、二人きりでいたかったのかなと秋風は嬉しくなる。

「ううん、平気。他にもチャンスがあるし。それに、ママさんも好きだから」

「はぁ? ど、どどどいうことだ? ま、まさか!?」

 驚いた冬草が慌てて聞いてくる。どうやら盛大に勘違いしているようだ。

 笑った秋風は、冬草の唇をむにゅむにゅさせる。

「違うって。ママさんの“好き”と雪の“好き”は別なの。わかる?」

「う、う〜ん?」

 わかっていないような複雑な顔をしている冬草。

 困った冬草が可愛くて秋風はキスをした。

 二人のキスは甘い。

 甘い味は、さっきお菓子を食べていたからだ。スイーツを食べた後によくキスする秋風は、甘くとろけるような味がとても好きだった。

 それにちゃんと応えてくれる冬草もまんざらじゃなさそうで、顔が上気して息が荒い。

 しかし、このまま続けていると冬草の気が遠くなってしまうので注意が必要だ。

 このまま押し倒したい秋風だったが、今日はがまんとぐっとこらえていた。


 頬を染めた冬草が近くにあったペットボトルに手を伸ばす。

 甘い雰囲気に恥ずかしくなった冬草が、照れを誤魔化しているのだ。

 冬草と自分の指を絡めた秋風は気がついていた。

 細い指のあちこちに絆創膏が貼られていることに。

 料理を頑張っているんだなと秋風は微笑む。自分のために努力している冬草を見ると、さらに胸がキュンキュンするのだ。

 たまらず秋風は冬草の唇を奪った。


 □


 冬草と秋風が二階から降りてくると、リビングでくつろいでいた冬草の母が驚いている。

「もうすんだの? ずいぶんせっかちじゃない? もっとゆっくりすればいいのに」

「ちげーよ! してねえよ! なんでそうなるんだよ!」

「あら、違ったの。あはははは。気が早かった?」

 顔を赤くした冬草が怒ると母親は笑う。

 冬草の腕に抱きついた秋風もつられたように笑った。

「私、声が大きいからママさんに聞かれると恥ずかしいので……」

「おい!? なにしれっとやってる風にしてるんだよ!?」

 思わぬ秋風の言葉に冬草がさらに顔を赤くさせてツッコミを入れた。

 二人の掛け合いに冬草の母がさらに笑った。


「せっかくなので料理を皆で作りませんか? 食材を買いにいきましょう!」

 秋風が冬草親子に提案する。

 せっかく母親がいるのだから、皆で楽しいことをしたいと秋風は考えていたのだ。

 冬草の母は、あら素敵と手を叩き、娘は頭をかいて恥ずかしそうにしていた。

 それから三人は家を出て、駅前のスーパーへと向かった。

 話し好きな冬草の母は秋風に嬉しそうに話題を持ちかけ、会話を弾ませている。

 秋風の楽しそうに冬草の母とお(しゃべ)りしている姿に娘も安心しきっていた。

 そう、秋風の母も口下手なので、娘とあまり会話しないのだ。ちょうど立場が逆な二人は、とても気が合っていた。

 ここでは(しゅうとめ)問題はなさそうだ。

 スーパーに着くと近くのマク○ナルドで休憩してから、買い物を始めた。

 三人で何を作るか相談しながら野菜や肉を手に取っていく。

 料理に自信のない冬草は、簡単なものにしようとして秋風に止められていた。

 せっかく三人で作るから協力できるものがいいと説得させられる。

 冬草の母はずっとニコニコしていた。


 スーパーに長居していた三人は、家に戻るとさっそく料理に取りかかった。

 台所に立った三人は手分けして素材を準備する。

 秋風は冬草に密着しながらあれこれと教えだした。

 不器用ながらも冬草は必死だ。たまに秋風にお尻を触られたり、胸を押しつけられたりしたが、料理に夢中で気がつかない。

 セクハラじみたイチャイチャしてる二人に冬草の母は吹きだした。

 一生懸命料理をしている冬草は思った。

 秋風の指導が一番わかりやすく、やりやすいことを。

 優しくて、しっかりと要点をついて教えてくれている。なにより相手の愛情が伝わってきて心が温かくなる。

 そんな期待に応えようと冬草は必死だ。

 一方、秋風は冬草に萌えていた。

 たどたどしい手つきに問いかけるようなおどおどした目、たまに唇を噛んで頑張っている冬草の姿に秋風は、かわいぃ〜〜と萌えていた。

 押し倒したい衝動になんとか耐えて冬草に教える秋風。

 そんな二人に冬草の母は羨ましくも、温かく手伝っていた。


 テーブルに並んだ豪華な料理の数々。

 三人は楽しみながらいろいろな料理にチャレンジした結果だ。

 冬草の母と秋風が手を入れているため、どれも美味しくできている。

 一緒に料理をしていた冬草もまんざらでなさそうな顔をしていた。

 皆でテーブルを囲み食事を始める。

 それぞれ好き嫌いを言い合って賑やかに楽しそうだ。

 やがて日が落ち、余った料理をタッパに入れた秋風が帰って行った。もちろん冬草が送って行く。


 秋風の家では帰ってきた母に、今日の出来事を娘が話していた。

 羨ましそうな秋風の母は、今度はうちに招待して皆でお菓子を作ろうと提案してきた。

 笑顔の秋風はもちろんOKをしたが、心残りがあった。

 しばらく押し倒すのはお預けになりそうなことだ。

 今日は冬草のいろいろなところを触れたからいいかと、ひとり納得していた。


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