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129話 着ていく服がない!

 放課後の地底探検部。

 ダダダダ──駆けてくる足音が大きくなる。

 バン!

 部室のドアを勢いよく開け放った夏野 空(なつのそら)が息を切らせて飛び込んでくる。

「ハア、ハア、ハア──た、大変でーーーーす!!!」

 ギョッと驚いた葵 月夜(あおいつきよ)が慌てて夏野の肩をつかんで勢いを止めた。

「落ち着くんだ空君! どうしたんだね!?」

「これです、これ!」

 ハーハー言いながら夏野がカバンからチラシをババーンと取り出した。

「見てください!」

「これはイ○ンモールのチラシじゃないか。今朝、家でも見たぞ」

 目の前に広げられているチラシをしげしげと観察していた月夜が気がつく。

 そんな月夜をじれったそうに夏野がある部分を指差す。

「ここですよ! ここ! わたしの好きなブランドがとうとう初出店しました〜〜! やった!」

「……空君。ここはひとつ落ち着こう。さ、座って」

 呆れながらも、はしゃぐ夏野を強引にイスに座らせる月夜。

 その場にいた倉井 最中(くらいもなか)が気を利かせてコップに注いだ麦茶を出す。

 お礼を言って受け取った夏野がゴクゴクと喉を鳴らして飲む。

 ぷはっとコップから口を離した夏野。そっと長机にコップを置くと月夜に笑顔を向ける。

「さっそくですが、今度買いに行きましょう!」

「うむ、よくわからないぞ空君。順を追って話したまえ」

「つまりですね、休みの日に服を買いに行きましょう!」

 ニコニコの夏野に月夜は頭を抱えた。もうどこから突っ込んでいいのかわからない。


 あまりな言い方でうなる姉にかわり、妹の葵 海(あおいうみ)が聞いてくる。

「この間、言ったよね? お姉ちゃんに服買うのをやめて貯金しようって。空も旅費がないんでしょ?」

「わかってる! わかってるの海ちゃん! でもね、聞いて。わたし、東京に着ていく服がないことに気がついたの! だから好きなブランドを着て東京に負けないようにしたいの!」

「うん、全然わかんない」

 必死な夏野の言い訳も海には通じない。だいたい東京の何に負けないつもりだろうか。

 年下に冷めた目を向けられ夏野は汗を流す。

 やがて、その場を誤魔化すようにエヘヘと夏野は笑い始めた。


 □


「なんだかんだと来てしまった……」

「来ちゃいましたね!」

 巨大なイ○ンモールを前にして月夜は眩しそうに建物を見上げ、夏野は嬉しそうにはしゃぐ。

 月夜はくるっと後ろを振り向きため息を出す。

「海はわかるが、なんで君たちもついてきたんだ?」

 そこには妹の海に倉井、冬草 雪(ふゆくさゆき)秋風 紅葉(あきかぜもみじ)が楽しそうにしている姿があった。

「そーゆーなよ。何か切っ掛けがないと、なかなかこれないからな」

「そーだよ! わたしはお姉ちゃんが無駄遣いしないように見張ってるんだから!」

 冬草が月夜の肩を叩き笑うと海が加勢する。

 あまり接点がなさそうな二人だが、以外と仲がいいんだなと月夜は思った。

 機嫌がいい夏野がニコニコと月夜の手を引っ張る。

「早く行きましょーよー!」

「わ、わかった」

 夏野に連れられた月夜が建物内へと吸い込まれて行く。

 慌てた海が倉井を伴って後を追い、冬草と秋風は手をつないでのんびりと歩いていった。


 夏野のお目当てのブランドショップは二階のファッションフロアにあり、同年代の女子たちで人だかりができていた。

 出遅れた感のある夏野は、騒然としている現場を前に立ち止まった。さすが人気ブランドの初出店効果だ。

「すごい人混みですね。これに入っていくのはちょっと……」

「確かに。ひと休みして様子を(うかが)うのはどうかな?」

 月夜の提案に(うなず)いた夏野たちはフードコートへと足を向けた。

 お昼前で人がまばらなフードコートにはラーメンやうどん、ハンバーグなど有名チェーン店などが並んでいる。

 夏野たちはファーストフード店でコーラや紅茶など飲み物を購入しテーブルについた。

 すでにぐったり気味な月夜を置いて、夏野と海と倉井はファッションの話題で盛り上がっている。

 楽しそうな妹たちを眺めつつ周りに目を向ければ、離れた窓際に冬草と秋風の姿を認めた。

 互いに寄り添って、外の風景に向かっている。どうせ秋風がロマンスを語ってイチャイチャしているだけだなと、月夜はいつもの光景に興味を失うと他に視線を移した。

 すると今度は遠くのラーメン店の前にある席で春木 桜(はるきさくら)吹田 奏(ふきたかなで)の二人が麺類をすすっている姿があった。

 イスからずり落ちそうになるのをこらえた月夜は視線を()らす。……偶然にしては出来過ぎている。きっと夏野から話しが伝わったのかもしれない。

 あの二人が合流したら余計疲れそうな気がした月夜は、今の記憶を無かったことにした。


 落ち着いた頃、夏野たちは再びブランドショップを訪れた。

 相変わらず客で混んでいたが、最初に見た時ほどではない。嬉しそうに夏野は月夜を引っ張って中へと入っていった。

 東京に負けない服を選ばなければと、気合い十分な夏野は試着に余念がない。

 付き合わされている月夜は着飾った夏野の感想を求められ、どれも素晴らしいと()(たた)えて早く終わらそうとしていた。

 ちなみに海と倉井もそれぞれ気に入った服を手に取り試着して、感想を言い合っていた。

 上下ブランドで固めた夏野は嬉しそうにレジへと向かう。海と倉井もそれぞれ一着手に持って夏野の後ろへ並んでいた。

 月夜は壁にもたれかかりグッタリとしていた。そう、服を購入するまで二時間。夏野たちは店内の服を選びまくっていたのだ。

「お待たせしました!」

 ブランドのショッピングバッグをぶら下げた夏野たちが月夜の元へと戻って来た。

「まったくだ。私はお腹が減ったぞ!」

「エヘヘ、ごめんなさい。お昼にしましょう!」

 月夜が怒ったふりをすると夏野は愛想笑いで誤魔化す。

 四人は楽しそうに再びフードコートへと向かっていった。


 □


「どうしてこうなった……」

 お昼を終えた夏野たちは、月夜お気に入りのギャルショップへ向かった。が、お目当てのショップは無く、別のブランドショップに替わっていたのだ。

 両膝をついて落胆する月夜。今日一番楽しみにしていたショップが無くなっているとは……。これまで夏野たちに付き合ってきた疲れがドッと出ていた。

 慌てた夏野がフォローする。

「ち、ちょっと調べますから! ひょっとして別のフロアに移ったかもしれないし!」

 急いでスマホを取り出し検索画面を呼び出す。

 今いるイ○ンモールを調べている夏野の頬に汗が流れた。

「あ、あの……。非常に言い辛いんですけど、あのショップって期間限定の出店だったみたいです……」

「な、なんだってぇえええ!!!」

 叫んだ月夜は顔を両手で覆い絶望する。

 そう、あのギャルショップは東京の原宿にある有名な店だったのだ。ウェブ通販ではわからない服やグッズを直に()れる機会がなくなってしまった。

 こんな地方で、再び巡り会える可能性が限りなく低いことに気がついた月夜は泣いた。


 姉がウォオオンと泣き始めてドン引きする海。人目をはばからず場所も気にしない姉に、こんな大人にならないようにしようと決意する。

 オロオロする倉井を置いて、夏野が優しく月夜の背中をさすった。

「大丈夫ですよ月夜先輩! 東京に行ったら見に行きましょうよ! それに目標ができたじゃないですか!」

「グズッ、も、目標?」

「そうですよ! ショップに行って買い物しましょうよ! わたしも付き合いますから!」

 慈愛の微笑みを見せる夏野に、涙の月夜は天使と重ね合わせた。

 ガバッと夏野を抱きしめる月夜。

「ありがとぉおおお…夏野くーーーーん!!!!」

 感涙する月夜の豊かな胸に顔を埋めた夏野は自分からもしっかりと抱きしめる。

 正面から抱きしめられたのも久しぶりだなと、夏野は月夜を思いっきり堪能していた。

 そんな夏野に海が声をかける。

「それじゃあ三時半に入り口で待ち合わせね。わたしちは別行動するから」

 ウインクした海が倉井と手をつないで離れていく。

 海ちゃん……気を利かせる将来の妹に夏野は感謝した。


 本当のところは、早く二人きりになりたかった海はこれ幸いと姉のゴタゴタを利用していた。

 手の指を絡める倉井は照れて頬を赤く染めている。

 海と倉井はお揃いの服を買っていたのだ。そう、ペアルックである。

 これを着て東京でブラブラしたら、きっと楽しいだろうな。海はポワンと都会の通りを歩く二人を妄想する。

 嬉しいけど恥ずかしい倉井は下を向きっぱなしで、まともに海の顔を見ることができないでいた。

 ちなみに冬草と秋風は日がな一日、ずっとイチャイチャしっぱなしだった。


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