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123話 契約するぞ!

 放課後の地底探検部の部室では、雰囲気の暗い冬草 雪(ふゆくさゆき)がイスにもたれて座っていた。

 朝からどうも様子がおかしいと秋風 紅葉(あきかぜもみじ)が冬草の顔をのぞき込む。

「どうしたの雪? なにか悩み事? それともアノ日なの?」

「ちげーよ。……ちょっとな」

 歯切れの悪いツッコミに秋風はますます心配してしまう。いつもならアノ日について突っ込むのに。

 秋風は冬草のストレートでサラサラな黒い前髪をかきあげ、額に手を当てて熱をはかる。

 まったくの平熱みたいだ。ついでにおでこにキスをした。

「……」

 無反応の態度に、おもむろに秋風のマスクをずらし唇を合わそうと顔を近づける。

「おいっ!? なにやってんだよ!! ひ、人前だろ!」

 さすがに気がついた冬草が慌てて顔をそらした。

「ちぇ。大人しいと思っていたのに」

 残念そうな秋風が冬草のマスクを戻した。


 いつもの冬草と秋風のいちゃいちゃとは違う雰囲気に心配した葵 月夜(あおいつきよ)が声をかける。

「どうしたんだ雪。困ったことがあるなら相談にのるが?」

「たいした事じゃねぇーから」

 冬草のつれない返事に今度は夏野 空(なつのそら)が聞いてくる。

「みどり先生もいますし、みんなで話し合えば解決できると思いますよ?」

「い、いや……」

「別に私だけに打ち明けてくれればいいから」

 冬草の耳元で秋風が(ささや)く。

 気がつけば部員たちが全員注目している。葵 海(あおいうみ)倉井 最中(くらいもなか)岡山(おかやま)みどり先生がお菓子を手に持ったまま顔を冬草に向けていた。

 なんでこんな大事(おおごと)になるんだよ……冬草は天を仰いだ。


 しかたなしに冬草は話すことに決めた。恥ずかしそうに下を向きながら。

「たいした話しじゃねーけど、ケータイを契約していた会社が倒産するらしくて新しい所を探していたんだ。だけどメンドクセーだろ? それでどうすっかなーって考えてたんだよ」

 あー、なるほど。聞いた部員たちは納得した。しかしそこまで落ち込むことだろうか?

 というか携帯の通信事業者が倒産ってありうるのだろうか? 疑問を浮かべた夏野が聞いてくる。

「雪先輩は何の会社に入ってるんですか?」

「えーと、確か“キラキラモバイル”ってやつ」

「き、聞いた事ないですけど……」

 初めて聞く名前に眉を寄せた夏野は困惑顔だ。

 そこに秋風が助け船を出す。

「たぶんMVMOってやつでしょ? CMでよく流れてる通信費が安い○Qモバイルとか」

「それ! それな!」

 冬草が勢い指をさす。

 そういえば確かにCMで見たことがあると夏野たちは頭に思い浮かべた。CMで連呼していた料金が頭に流れる。

 手をポンと叩いた夏野が提案してきた。

「今度の休みにイ○ンに行きましょう! そこだったら携帯会社の支店がいくつかあったはず! 選び放題ですよ雪先輩!」

「ええっ!?」

「あら、いいね! そうしようよ雪!」

 驚く冬草に乗り気な秋風。

 面倒臭そうな冬草の腕に抱きついた秋風が笑顔で迫る。

 嫌な予感がしながらも冬草は黙って(うなず)いた。

 ちなみに月夜は話しについていけず、みどり先生の横でお茶を飲んで存在感を消していた。


 ──休日。

 駅前に集合したメンツに、どうしてこうなったと冬草は頭を抱えた。

 秋風はまだわかるが葵姉妹に夏野と倉井。しかもみどり先生と恋人の岩手 紫(いわてむらさき)先生まで来ている。

 一緒に来ていた冬草の母は、初めて会う倉井やみどり先生たちに挨拶して回っていた。

「私も雪ちゃんと同じ通信会社でしょ? だからお邪魔させてもらったの。みどり先生って若~~い! こんなにお友達が一杯でママも嬉しい~~」

 相変わらずおしゃべりが止まらない母に、冬草は恥ずかしくなって帽子を深々と被った。

 そこに秋風が冬草の母をとりなして聞いている。すっかり馴染んでるな……冬草は楽しそうに会話する母と秋風を見て思った。

 皆で電車に乗り込み目的のイ○ンに向かう。

 どうやら先生たちは冬草の手伝いを言い訳にして、イ○ンに遊びに行くのが本心のようだ。

 アパレルブランドの名前を出しながら新作の話題をしている。

 言い出しっぺの夏野は独自に調べたのか、冬草の母にいつかの通信会社が行っているお得情報をスマホを見せながら説明している。

 冬草の母と月夜はその画面をのぞき込みながら、ふんふんと(うなず)きながら聞いていた。

 秋風は冬草にもたれかかって嬉しそうにしている。どうやら契約がすんだ後はデートする気のようだ。

 こうして主役の冬草の影が薄くなりつつ、一同は電車に揺られていた。


 久しぶりにきたイ○ンだが、以前にも増して多くの人が訪れ、週末の定番お出かけスポットになっているようだ。

 施設に着いて早々、みどり先生と岩手先生は月夜たちと別れてどこかへ行ってしまった。

 続くように笑顔の倉井と海が手をつないで人混みへと消えて行く。

「あらあら、可愛いらしいデートね」

 仲よさげなその後ろ姿に冬草の母は微笑みながら見送っていた。

 残った冬草親子に秋風、夏野と月夜は通信会社の店舗へと向かった。

 広いモールの中に点在しているショップをいくつか巡り、途中にあった喫茶店で冬草たちは休むことにした。

 ぐったりとシートにもたれかかる冬草と月夜。対照的に秋風と夏野は冬草の母と入手したパンフレットを開いて、あれこれと楽しそうに話している。

 冷えたコーラをストローでズズズーーーと冬草がけだるそうに吸い込む。

「雪は参加しなくていいのか?」

 月夜が秋風たちに目を向けると冬草も視線を合わせる。秋風たちはすでにいくつか候補を選んで決め始めている。

「口を挟める雰囲気じゃないからいいよ……」

 あきらめ口調の冬草に月夜は苦笑した。


 そこに冬草の母が声をかけてきた。

「雪ちゃん! これはどう思う? みんなで話したんだけど、やっぱり家族割があるほうがいいでしょ?」

「安いやつだったら何でもいいけど。でも、マ…母さんが気に入ったのであればいいよ」

 面倒そうな冬草だが、気をつかってくれる娘に母はニコニコしている。

 すると秋風が冬草の腕に抱きついてきた。

「家族割にするなら私たち今すぐ結婚しないと!」

「はぁああ!?」

 いきなり何を言い出すのかと冬草が声をあげる。

 微笑む秋風は、おちゃめさんねと冬草のマスクをずらして口元を露わにした。

「だって家族にならないと私も割引が適用されないじゃない?」

「いや、まて! なんで割引のために結婚すんだよ!?」

「違うの。いずれ家族になるんだからいい切っ掛けでしょ?」

「いくらなんでも早ええよ!」

 マスクを戻しつつ吠える冬草。しかし結婚については否定していない。本人もいずれは……と心のどこかで思っているのかもしれない。

 てっきり反対されると見ていた秋風は、相手の本心を知って満面の笑みになる。

「それじゃ、卒業したらすぐに式を挙げるね!」

「近けえよ! 一年もねえじゃねえか!?」

 眉を吊り上げる冬草。もうなんだか話しが変な方向になっている。

 パチパチと手を叩いた夏野が声をかけてくる。

「わ~~! おめでとうございます~~! お似合いで嬉しいです!」

「おいぃぃ!?」

「ありがとう」

 冬草がツッコミを入れ、頬を染めた秋風が礼を言う。


 ずいぶん先に進むものだなと冬草たちを見守っていた月夜だが、あることに気がつき夏野の服を引っ張る。

「空君。やっぱり結婚式にはそれ相応な服装で行くべきだよな?」

「そう、ですけど?」

 質問の意味がわからず首をかたむける夏野に月夜は慌てて説明した。

「かいつまんで言うと、今着ている服かジャージと道着しかないのだ。だから相応しい服とすれば、この格好だろう?」

「どれもだめですよ! ちゃんとドレスなり着てオシャレしないと!」

「やはりドレスか……」

 夏野の言葉に月夜はガックリと肩を落とした。できればギャルの服装で行きたかった。

 そんな姿を見て、急に立ち上がった夏野が月夜を引っ張り、同じように立たせた。

「これから見に行きましょうよ! せっかく来たんですから見なきゃ損です!」

「そ、そうか?」

 夏野の勢いに月夜はタジタジだ。

「私たち、式に着ていくドレスを見に行ってきます! あとは水入らずでゆっくりしていってください!」

 そう冬草たちに告げると、夏野が月夜の手を引いて喫茶店から出て行ってしまう。

 笑顔で見送る母と秋風に冬草はムスッとしている。

 この流れをどうにかして変えないと、いつまでたっても通信会社が決まらない。

 秋風が本来の目的に戻すため考え始めている横で、母と秋風は楽しそうにこれからの事を話していた。


 その後、モール内にある秋風の母が営む洋菓子店へ挨拶へ行き、ここでも結婚の話題が出て冬草はグッタリだ。

 ノリノリの両親は楽しそうにこれからに思いを馳せ、二人のウエディング姿を妄想している。

 秋風は幸せそうに冬草の腕に抱きついていた。

 ちなみに通信会社の契約は母と秋風が独断で決め、速攻終わらせていた。

 家族割は母親だけなのを確認した冬草は、ホッと胸をなで下ろししていた。


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