12話 生き物を探れ!
昼休み──
顧問の岡山みどりがサンドイッチセットを持って『地底探検部』部室に訪れると、箱を持った倉井 最中が座っていてた。
「こんにちは。お昼はもう食べたの?」
「いえ、これからです…」
倉井は首を振ると箱を横に置いて、弁当箱を取り出す。
そこに葵 月夜と夏野 空が部室に入って来た。
「ミドリちゃんと最中君、お揃いだね」
「わたしたちもお揃いです!」
よくわからない同意を夏野がする。
倉井が嬉しそうに顔を上げると夏野が隣に座って来た。
対面に葵が座ると、お弁当を取り出しながら倉井に聞く。
「ん? 最中君はお弁当が2つあるのかな?」
「あ、違います。こちらはペットです」
「なに!?」
さりげない一言に全員の手が止まる。
「ち、ちょっと倉井さん。学校にペットの持ち込みはダメよ」
慌てたみどり先生が立ち上がる。
「まあ、まあ、ミドリちゃん。そんなビックリしないでも。それに大きくなさそうだし、今日ぐらい大目に見たらどうだい?」
「そうですよ! この箱から出ないってことは大人しいかもです!」
葵が倉井をかばい、夏野が続いた。
シュンとした倉井が申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい。今日は両親が出かけてるし、可哀そうだから連れてきました」
「そ、そう。それじゃあ、倉井さんが帰るまで私が職員室で預かるから。それでいい?」
みどり先生の言葉に倉井は嬉しそうに頷く。
興味深々の葵が箱のフタを持って倉井に顔を向けた。
「見ていいかな? 凄く見たい!」
「あ、どうぞ」
倉井が言うや葵はフタを開ける。
そこには15センチほどの鼻の周りに触手のついたモグラがちょこんといた。
「…これはモグラ? 鼻の周りに触手みたいのがいっぱいついてるぞ」
「ほんとですね。ちょっと調べます」
初めて見る形のモグラに葵は顔をしかめ、夏野はスマホを取り出すと検索し始める。
うーむと葵は考え推論を述べてみる。
「たぶん、この鼻の周りの触手は疑似餌だな。これでミミズをおびき出すんだ」
「違います。これは感覚器のついている触手です」
葵は夏野のダメ出しに一瞬、顔を向ける。が、気にしないで続ける。
「この小さな目は、あれだな、光を敏感に感じるに違いない」
「違います。ほとんど視力がないそうです」
「……夏野君。そんなにスグに訂正されると、わたしの弱いハートがビックバンだよ」
両ひざをついてガクッとうなだれる葵。
「ちなみに名前はホシバナモグラって言うそうですよ月夜部長」
しゃがんだ夏野が最後の追い込みをかける。
顔を向けた葵は涙目になっていた。
なんでそんなにわたしを追い詰めるんだ…葵は涙目で訴えたが夏野はニコリと笑顔で応えただけだった。
そんな葵たちをほっといて倉井はせっせとモグラにミミズを投入していた。
しばらく見ていたみどり先生が疑問を口にする。
「そんなに食べるの?」
「はい。一日中食べてます」
「ふーん。新陳代謝が早い生物なのね。それだと寿命も短いのかしら?」
その言葉に倉井がじわじわと涙目になり、みどり先生を見る。
「あー違う! ウソ! それだけ食べるから大きくなるかもね! ね、夏野さん?」
「え? ええ! そうだよ! 大きくなって長生きしそう!」
泣かれるとマズいと慌てて訂正するみどり先生。
突然ふられた夏野もアタフタと同意する。
ちょうど検索していたスマホ画面には寿命が載っていたが夏野は見なかったことにした。
その昼、2つの影がすすり泣きながら食事をしていた。
近くの廊下を通っていた学生がその声を聞きつけ、仲間に話すと尾ひれがついていく。
最終的には『誰もいない部室に、すすり泣く2人の女生徒の声が響き渡っている。その声を聴いて興味を抱いた人間がその部室に入ると魂が抜かれる』と、怪談話にさせられていた。
ちなみにモグラはみどり先生が職員室で預かっていて、倉井が取りに来るまでひんぱんに餌をやっていた。